この記事の結論
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当事者が死亡しても、紛争そのものが当然に終わるわけではない

労働審判事件には非訟事件手続法の規定が準用され(労働審判法29条1項)、手続を続行する資格のある者が受継することが予定されています。会社側は、手続が続く前提で対応を検討する必要があります。

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請求の性質によって、承継されるものと、されないものがある

未払賃金など金銭債権は相続の対象となりますが、労働契約上の地位の確認のように、その人でなければ意味を持たない請求は、性質上、相続人に承継されないと考えられます。

 労働審判手続の途中で、申立人である労働者が死亡した場合、手続はどうなるのでしょうか。労働審判事件に関しては、労働審判法29条1項により非訟事件手続法の規定が準用されており、当事者が死亡等により手続を続行できなくなった場合には、手続を続行する資格のある者が受け継ぐことが予定されています。

 会社側専門の弁護士の立場から、当事者の死亡という事態が生じた場合の手続の枠組みと、会社側の実務対応を解説します。

01当事者の死亡等が生じた場合の基本的な枠組み

 労働審判事件については、労働審判法29条1項が非訟事件手続法の規定を準用しています。非訟事件の手続では、当事者が死亡その他の事由によって手続を続行することができない場合において、法令により手続を続行する資格のある者があるときは、その者が手続を受け継ぐという枠組みがとられています。

 民事訴訟では、当事者の死亡により手続が中断し、受継の手続を経て再開するという制度が置かれていますが、労働審判は非訟的な手続として組み立てられており、これと同じ構造ではありません。したがって、当事者が死亡したからといって、紛争そのものが当然に消滅し、会社側が対応不要になるわけではないという理解が出発点になります。

02請求の性質による違い(承継されるもの・されないもの)

 実務上、決定的に重要なのは、申立ての内容がどのような権利に関するものかという点です。労働審判で争われる典型的な請求を、この観点から整理すると次のようになります。

請求の性質と承継
未払賃金・残業代・解決金など金銭債権 相続の対象となり、相続人に承継される
労働契約上の地位の確認 その人が就労することに意味がある請求のため、性質上、相続人に承継されないと考えられる

 解雇の効力を争う事案では、労働契約上の地位の確認と、解雇後の賃金の支払とが、あわせて求められることが少なくありません。この場合、地位確認の部分と金銭請求の部分とで、扱いが分かれ得ることになります。もっとも、地位確認が維持されないとしても、解雇が無効であることを前提とする死亡時までの賃金相当額の請求が、相続人によって争われる余地は残ります。「死亡したから、すべて終わり」とはならないということです。

03承継人が確定しない場合の実務上の停滞

 もっとも、実務上は、誰が手続を受け継ぐのかが直ちに定まらない場面が生じます。相続人が複数いる場合、相続放棄を検討している場合など、承継人が確定するまでには一定の時間を要します。相続の承認・放棄の熟慮期間もあるため、この間、手続は事実上進みにくくなります。

 労働審判は原則3回以内の期日で審理を終結する迅速な手続ですが(労働審判法15条2項)、当事者の確定という前提が揺らげば、その迅速性を維持することは困難です。事案によっては、事案の性質に照らして労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないとして、労働審判事件が終了させられる(労働審判法24条1項。いわゆる24条終了)可能性も否定できません。

経営者が見落としやすいポイント

承継人が確定するまでの空白期間は、会社側にとって「終わった」ことを意味しません。相続人が手続を受け継げば審理は続き、受け継がれずに労働審判事件が終了しても、別途、相続人から訴訟を提起される可能性は残ります。この期間は、主張の再整理や、解決方針の検討に充てるべき時間です。

04会社側に変動が生じた場合の注意点

 会社側についても、同様の問題が生じ得ます。ここで重要なのは、法人か個人事業主かの区別です。

 相手方が法人の場合、代表者が交代しても、当事者はあくまで法人そのものですから、手続への影響はありません。代理人弁護士を選任していれば、代表者の交代によって手続が止まることもありません。

 他方、相手方が個人事業主である場合には、その死亡は相続の問題に直結します。事業の承継の有無や、労働契約上の使用者としての地位、未払賃金債務の帰趨など、検討すべき論点が生じます。個人事業主が労働審判を申し立てられた場合、その対応が特定の個人に集中していると、万一の際に事案の経緯を説明できる者がいなくなるという事態も起こり得ます。

05会社側が取るべき対応策

 第一に、申立人の死亡を把握した場合には、手続がどう扱われるのかを裁判所に確認し、方針を検討することです。誰が受け継ぐのか、請求のうちどの部分が維持されるのかによって、会社側の対応は変わります。自己判断で「終わった」と扱うのは危険です。

 第二に、記録を組織的に管理しておくことです。指導や注意の履歴、面談の記録、業務指示の記録といった資料が、担当者個人の記憶や手元のメモにしか存在しない状態では、担当者の異動や不在によって立証が困難になります。誰が対応しても事案の経緯を再現できる状態にしておくことは、当事者の変動という場面に限らず、労務管理全般の備えとして有効です。

 第三に、代理人弁護士を選任し、手続の継続性を確保することです。当事者側に変動が生じても、代理人がいれば、手続への対応そのものが止まることはありません。

 当事者の死亡という事態は頻繁に生じるものではありませんが、生じた場合の扱いは、請求の性質や相続の状況によって変わり、判断は専門的です。会社側専門の弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。

06よくある質問(FAQ)

Q. 申立人が死亡したら、労働審判は終わりますか。

当然に終わるわけではありません。労働審判事件には非訟事件手続法の規定が準用され(労働審判法29条1項)、手続を続行する資格のある者が受け継ぐことが予定されています。未払賃金などの金銭債権は相続の対象となるため、相続人との間で紛争が続くことがあります。

Q. 解雇を争っていた労働者が死亡した場合、地位確認はどうなりますか。

労働契約上の地位の確認は、その人が就労することに意味がある請求ですので、性質上、相続人に承継されないと考えられます。もっとも、解雇が無効であることを前提とする死亡時までの賃金相当額の請求は、相続人によって争われる余地が残ります。

Q. 会社の代表者が交代した場合、手続に影響はありますか。

法人の場合、当事者は法人そのものですので、代表者が交代しても手続への影響はありません。他方、個人事業主の死亡は相続の問題に直結し、事業の承継や未払賃金債務の帰趨など、検討すべき論点が生じます。

経営上のポイント 労働審判事件には非訟事件手続法の規定が準用され(労働審判法29条1項)、当事者が死亡等により手続を続行できない場合、手続を続行する資格のある者が受け継ぐことが予定されています。民事訴訟と同じ中断の制度が置かれているわけではなく、当事者の死亡によって紛争が当然に消滅するわけでもありません。重要なのは請求の性質で、未払賃金などの金銭債権は相続されますが、労働契約上の地位の確認は、その人が就労することに意味がある請求のため、性質上、相続人に承継されないと考えられます。承継人が確定するまでは事実上手続が停滞し、事案によっては24条終了となる可能性もありますが、その後に相続人から訴訟を提起される余地は残ります。会社側としては、この期間を主張の再整理に充て、記録を組織的に管理し、代理人弁護士により手続の継続性を確保することが有効です。会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判の手続でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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