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手続は非公開でも、記録は当事者と「利害関係を疎明した第三者」が閲覧できる 労働審判の手続自体は非公開ですが(労働審判法16条)、事件記録の閲覧・謄写は、当事者のほか、法律上の利害関係を疎明した第三者にも認められています(同26条)。「非公開=誰にも見られない」ではありません。 |
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営業秘密やプライバシーは、閲覧制限の申立てで保護できる 他の従業員の給与情報や顧客リストなど、機密情報を含む証拠を提出する場合には、提出とあわせて閲覧制限を申し立てることで、第三者による閲覧を制限できます(民訴法92条準用)。 |
目次
労働審判の手続は、原則として非公開で行われます(労働審判法16条)。もっとも、裁判所に保管される事件記録の扱いは、これとは別の問題です。事件記録の閲覧・謄写は、当事者のほか、法律上の利害関係を疎明した第三者にも認められています(同26条)。したがって、「非公開だから誰にも見られない」と考えるのは正確ではありません。
会社側専門の弁護士の立場から、労働審判の記録がどの範囲で第三者に閲覧され得るのか、そして会社が機密情報を守るためにどのような対応をとるべきかを解説します。
01労働審判手続の基本的性格(非公開)
労働審判手続は、個別労働紛争を迅速かつ実効的に解決するために設けられた裁判所の手続で、その最大の特徴の一つが、原則として非公開で審理が行われる点です(労働審判法16条)。通常の民事訴訟のように公開の法廷で傍聴人を入れて行うものではありません。これは、当事者のプライバシーや企業の内部情報、営業秘密などが審理の過程で扱われることが多いためです。
一方で、労働審判は単なる話し合いの手続ではなく、裁判所が関与し、最終的に労働審判という判断を示す制度であり、訴訟に近い性格も持っています。そのため、記録については、一定の範囲で閲覧・謄写が認められています。会社側としては、非公開手続であることに安心するのではなく、どの範囲で記録が第三者に閲覧され得るのかを正確に理解しておくことが、情報管理の観点から重要です。
02記録の閲覧・謄写が認められる者の範囲(労働審判法26条)
労働審判事件の記録は、誰でも自由に閲覧できるわけではありません。労働審判法26条は、当事者および利害関係を疎明した第三者に限り、裁判所書記官に対して、記録の閲覧・謄写、その正本・謄本・抄本の交付、事件に関する事項の証明書の交付を請求できると定めています。
当事者は、防御権や主張立証活動の保障という観点から、当然にこれらを請求できます。当事者以外であっても、当該事件について法律上の利害関係を有することを疎明した第三者は、同様の請求ができます。労働審判は非公開ではあるものの、訴訟に近い性格を持つ以上、一定の利害関係人に情報把握の必要性が認められているためです。もっとも、単なる関心や報道目的では足りず、具体的な法律上の利害関係を疎明することが必要で、裁判所がその相当性を判断します。
03「利害関係を疎明した第三者」とは
ここでいう「利害関係を疎明した第三者」とは、当該事件について具体的な法律上の利害関係を有する者を指します。単なる興味や一般的な関心では足りません。典型例としては、当該労働審判の結果が自らの権利義務に直接影響を及ぼし得る者や、関連する別の訴訟でその記録を証拠として必要とする者などが挙げられます。この場合、「関係がある」と主張するだけでは足りず、疎明資料を提出して裁判所に必要性を示す必要があります。
利害関係の有無は形式的に判断されるのではなく、具体的な事情を踏まえた個別判断となります。会社側としては、関連会社の関係者、共同被告となり得る者、保険会社などが利害関係人として閲覧を請求する可能性を想定し、提出書面や証拠に含まれる機密情報の取扱いを慎重に検討しておく必要があります。
04閲覧等の対象と、閲覧制限がなされる場合
閲覧等の対象となるのは、申立書、答弁書、準備書面、証拠書類、調書など、裁判所に提出・作成された記録一式です。したがって、会社が提出した内部資料や人事資料、賃金台帳、メール等の証拠も、原則として閲覧の対象になり得ます。提出する書面や証拠は、一定の範囲で第三者の目に触れる可能性があるという前提で作成すべきであり、過度に感情的な表現などは、後の紛争や別訴で不利に作用しかねません。
もっとも、すべての記録が無条件に開示されるわけではありません。労働審判法26条2項は、秘密保護のための閲覧等の制限に関する民事訴訟法92条を準用しています。これにより、当事者の申立てに基づき、営業秘密やプライバシーに関わる部分について、第三者の閲覧・謄写を制限する決定がなされることがあります。制限がなされた部分は、当事者以外の第三者は閲覧等を請求できません。
経営者が見落としやすいポイント
証拠として提出する「他の従業員の給与明細」や「顧客リスト」などが、無防備に第三者へ閲覧されないよう、提出時に閲覧制限をあわせて申し立てることが重要です。制限を講じなければ、利害関係を疎明した第三者に閲覧される可能性があります。相手方(申立人)は当事者であるため、閲覧制限は第三者に対するものである点にも注意が必要です。
05会社側が押さえるべき情報管理の対応
労働審判は非公開手続ではあるものの、記録には一定の閲覧可能性が内在しています。会社側としては、「完全に外部遮断された手続ではない」という前提で対応することが重要です。具体的には、次の点に留意する必要があります。第一に、申立書・答弁書などの主張書面は、将来の訴訟移行や利害関係人による閲覧の可能性を前提に、事実と法的主張を整理した構成とし、感情的・評価的な表現は控えることです。第二に、証拠資料の選別を慎重に行い、営業秘密や個人情報が含まれる場合には、必要最小限の提出にとどめるとともに、閲覧制限の申立てを検討することです。特に、他の従業員の賃金情報や人事評価資料は情報漏えいリスクが高い分野です。第三に、社内での情報共有範囲を限定し、風評リスクや士気低下を防ぐことです。
会社側としては、労働審判を単なる紛争解決手続と捉えるのではなく、情報管理のリスクを伴う裁判所の手続として位置づけ、提出資料の内容と管理体制を含めて対応方針を組み立てることが、経営リスクの最小化につながります。
06よくある質問(FAQ)
Q. マスコミや記者が、労働審判の記録を閲覧することはできますか。
原則としてできません。新聞記者や雑誌社は、通常「法律上の利害関係」があるとは認められないため、非公開の労働審判記録を閲覧することはできません。ただし、その後に通常訴訟へ移行した場合には、訴訟記録として原則誰でも閲覧できるようになるため、注意が必要です。
Q. 他の従業員が「自分も同じ待遇だから参考にしたい」と閲覧を求めてきたら。
単なる個人的な関心や参考目的では、閲覧は認められません。「法律上の利害関係」とは、その記録を見ることが自分の権利を守るために法的に必要である状態を指すため、社内の関心に基づく閲覧は認められないのが原則です。
Q. 閲覧制限をかければ、相手方(申立人)にも見せないようにできますか。
できません。相手方は当事者ですので、原則として記録を閲覧・謄写できます。閲覧制限はあくまで第三者に対するものです。相手方にも見せたくない極秘資料(他人の人事評価など)がある場合は、提出前にマスキング(黒塗り)をするか、提出自体を慎重に判断する必要があります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判での記録の取扱いや情報管理でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日