この記事の結論
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審判書を送達できないときは、決定で労働審判を取り消さなければならない

審判書を送達すべき場合において、当事者の住所が知れないなど一定の事由があるときは、裁判所は、決定で労働審判を取り消さなければなりません(労働審判法23条)。取り消された場合、訴えの提起があったものとみなされます。

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審判書の送達に、公示送達の規定は準用されない

審判書の送達については、民事訴訟法の送達に関する規定のうち、公示送達に関する規定(同法110条から113条まで)は準用されません(労働審判法20条5項)。当事者の所在が不明な場合、公示送達で済ませることはできず、労働審判の取消しにつながります。

 労働審判は、確定すれば裁判上の和解と同一の強い効力を持ちますが、審判書を当事者に送達できない事情があるときには、その労働審判自体が取り消されるという制度が設けられています。

 会社側専門の弁護士の立場から、労働審判が取り消される場合と、その効果について解説します。

01労働審判が確定するまでの流れ(労働審判法21条1項・4項)

 労働審判は、審判書の送達を受けた日、または期日において口頭告知を受けた日から2週間以内に異議の申立てがないときは、確定します(労働審判法21条1項・4項)。この仕組みが機能するためには、審判書が当事者に確実に届くことが前提となります。届いたことを起点として、初めて2週間のカウントが始まるからです。

02審判書の送達に公示送達が使えない理由

 通常の民事訴訟では、相手方の所在が不明な場合、裁判所の掲示板に一定期間掲示することで送達があったものとみなす「公示送達」という制度が用意されています。しかし、審判書の送達については、民事訴訟法の送達に関する規定のうち、公示送達に関する規定(民事訴訟法110条から113条まで)が除外されており、準用されません(労働審判法20条5項)。

 これは、公示送達によったのでは、当事者が労働審判の内容を実際に知ることは期待できず、それにもかかわらず異議申立てがないまま確定させてしまうと、当事者に著しい不利益を与えることになりかねないためです。労働審判が異議申立てなしで確定すれば、裁判上の和解と同一の強い効力を持つだけに、確実な送達が制度上重視されています。

03労働審判が取り消される4つの事由(同23条)

 審判書を送達すべき場合において、次のいずれかの事由があるときは、裁判所は、決定で労働審判を取り消さなければなりません(労働審判法23条)。

労働審判が取り消される事由
当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないこと
通常の送達方法(民訴法107条1項)によっても送達をすることができないこと
外国ですべき送達(民訴法108条)によることができず、又はこれによっても送達できないと認められること
外国の管轄官庁に嘱託を発した後6か月を経過しても、送達を証する書面の送付がないこと

 いずれも、審判書を当事者に確実に届けることができない事情に関するものです。取り消された場合には、労働審判事件の終了に関する規定(22条)が準用され、訴えの提起があったものとみなされます(同23条2項)。

04取消決定に対する即時抗告(同28条)

 労働審判法23条1項の規定による取消決定に対しては、即時抗告をすることができます(労働審判法28条)。この即時抗告には執行停止の効力があります。取消決定によって不利益を受ける当事者に対し、争う機会が確保されているということです。

05実務上の位置づけと関連する場面

 労働審判手続は、審理を終結してから労働審判が行われるまでの間隔が極めて短いのが通常です。そのため、審理の終結から審判書を送達するまでの間に、上記の事由が新たに発生するとは考えにくく、実際にこの規定に基づいて労働審判が取り消される例は、事実上少ないといえます。

 もっとも、審理の終結より前の段階で、当事者の所在が不明であるといった、23条各号に該当する事由の存在が判明することはあり得ます。この場合、そのまま労働審判を行っても、結局は送達できずに取り消されることになるため、労働審判委員会は、事案の性質に照らして労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと判断し、労働審判事件を終了させる(24条終了)という対応を取ることが考えられます。

 また、労働審判を口頭で告知した場合には、審判書を送達する場面自体が生じないため、この取消しの規定が問題になることはありません。

06会社側が押さえておくべき視点

 会社側にとって、この規定が直接問題になる場面は多くありません。会社の所在地は登記等で公にされており、送達不能の事由に該当することは通常考えにくいためです。もっとも、相手方である労働者側の所在が不明になっているケースでは、この規定が関係してくる可能性があります。労働審判を有利に進めていても、相手方への送達ができなければ、労働審判自体が取り消され、訴訟へと移行することになるため、手続の帰趨を正確に見通すうえで、この制度の存在を理解しておくことが重要です。

07よくある質問(FAQ)

Q. 相手方の所在が不明な場合、公示送達で審判書を送達できますか。

できません。審判書の送達には、民事訴訟法の公示送達に関する規定が準用されません(労働審判法20条5項)。当事者の住所等が知れないときは、送達不能を理由に労働審判が取り消されることになります(同23条)。

Q. 労働審判が取り消されると、どうなりますか。

労働審判事件の終了に関する規定が準用され、労働審判手続の申立て時に訴えの提起があったものとみなされます(労働審判法23条2項による22条の準用)。訴訟に移行することになります。

Q. 取消決定に不服がある場合、争えますか。

争えます。労働審判法23条1項の規定による取消決定に対しては、即時抗告をすることができます(同28条)。この即時抗告には執行停止の効力があります。

経営上のポイント 審判書を送達すべき場合において、当事者の住所が知れないなど一定の事由があるときは、裁判所は決定で労働審判を取り消さなければなりません(労働審判法23条)。審判書の送達には民事訴訟法の公示送達の規定が準用されないため(同20条5項)、相手方の所在が不明なままでは労働審判を確定させることができません。取り消された場合は訴えの提起があったものとみなされ(同23条2項)、取消決定には即時抗告ができます(同28条)。審理の終結前にこうした事由が判明していれば、労働審判委員会が24条終了として処理することも考えられます。会社側にとって直接問題になる場面は多くありませんが、相手方の所在確認が難航している事案では、手続の見通しに影響する重要な論点です。対応にお困りの際は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判への対応でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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