この記事の結論
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退職金の支給基準は、原則として使用者が自由に設定できる

退職金は、支給要件や支給基準が就業規則などで明確にされ、労働契約の内容になっている場合に限り、使用者に支払義務が生じます。そうでない限り労働者は請求できないため、その内容は原則として使用者が自由に設定できます。

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公序良俗や差別禁止規定に反する場合は無効になる

自由な設定が許されるとはいえ、著しく不合理で公序良俗(民法90条)に反する場合や、性別・国籍等を理由とする差別的取扱いにあたる場合には、その定めは無効となります。自己都合・会社都合による差も、合理的な範囲にとどめる必要があります。

 退職金制度を設計する会社の多くは、自己都合退職と会社都合退職とで、支給率や支給額に差を設けています。このような差を設けること自体は広く行われている実務ですが、無制限に許されるわけではありません。

 会社側専門の弁護士の立場から、退職事由による退職金額の差にどのような限界があるのかを解説します。

01退職金の支給基準は使用者が自由に設定できる(原則)

 退職金は、就業規則などにおいて支給要件や支給基準が明確にされ、労働契約の内容になっている場合に限り、使用者に退職金の支払義務が生じます(758の記事参照)。逆にいえば、そうでない場合は、そもそも労働者が退職金を請求すること自体が認められません。

 このように、退職金制度は法律で必ず設けなければならないものではなく、支給の有無や内容を決めるのはあくまで使用者の裁量です。したがって、支給基準の内容についても、他の法令に触れるものでない限り、使用者が自由に設定することができるものと考えられ、退職事由によって退職金の額に差を設けることも可能です。

02自由な設定に対する法的な歯止め

 もっとも、この自由な設定は無制約ではありません。退職金の支給基準を定めるにあたっては、次のような法的な歯止めがかかります。

退職金の支給基準に関する法的な歯止め
公序良俗違反 著しく不合理な差を設けると、民法90条により無効となり得る
均等待遇原則 国籍、信条、社会的身分を理由とする差別的取扱いは労基法3条違反
男女差別の禁止 性別を理由とする差別的取扱いは労基法4条・男女雇用機会均等法違反

 これらのいずれかに触れる差を設けた場合、当該規定は無効と判断されるおそれがあります。逆にいえば、これらに触れない限りにおいて、使用者は退職事由による差を自由に設定することができます。

03自己都合・会社都合による差はどこまで許されるか

 自己都合退職と会社都合退職とで退職金の支給率に差を設けること自体は、広く行われている実務であり、直ちに違法とされるものではありません。厚生労働省が示すモデル就業規則でも、自己都合退職の場合の支給条件を別に定める例が示されています。

 もっとも、労働者の貢献度を無視して、自己都合退職であることだけを理由に極端な減額(たとえば支給額をゼロにするなど)を行うと、公序良俗違反(民法90条)によって、その減額規定が無効と判断されるおそれがあります。退職金は、長期間の勤続に対する功労報償や賃金の後払いとしての性質も持つと考えられており、自己都合というだけでその評価を大きく損なうような差は、合理性を欠くと評価されるリスクがあるためです。自己都合・会社都合の間に差を設けるとしても、合理的な範囲にとどめておくことが望ましいといえます。

04会社側が押さえておくべき視点

 会社側が退職金の支給基準に自己都合・会社都合による差を設ける場合には、その差の程度を、長期間の勤続に対する評価を著しく損なわない範囲にとどめておくことが重要です。実務上は、勤続年数が短い段階での自己都合退職には一定の減額を設けつつも、長期間勤続した従業員については、自己都合であっても大幅な減額をしない設計とする例も見られます。

 また、支給基準を定める際には、性別や国籍等による差が生じていないかを、あわせて確認しておく必要があります。意図せずとも、結果的に特定の属性の労働者に不利な運用になっていないか、制度設計の段階でチェックしておくことが重要です。

05よくある質問(FAQ)

Q. 自己都合退職と会社都合退職とで、退職金の額に差を設けてもよいですか。

可能です。退職金の支給基準は、他の法令に触れない限り、使用者が自由に設定できると考えられています。自己都合退職と会社都合退職とで支給率に差を設けることは、広く行われている実務です。

Q. 自己都合退職の場合、退職金をゼロにしてもよいですか。

労働者の貢献度を無視した極端な減額は、公序良俗違反(民法90条)によって無効と判断されるおそれがあります。自己都合・会社都合の間に差を設けるとしても、合理的な範囲にとどめる必要があります。

Q. 退職金の支給基準は、どのような場合に無効とされますか。

著しく不合理で公序良俗(民法90条)に反する場合や、国籍・信条・社会的身分による差別的取扱い(労基法3条)、性別による差別的取扱い(労基法4条・男女雇用機会均等法)にあたる場合には、無効と判断されるおそれがあります。

経営上のポイント 退職金は、支給要件や基準が就業規則などで明確にされ、労働契約の内容になっている場合に限り、使用者に支払義務が生じます。そうでない限り労働者は退職金を請求できないため、支給基準の内容は、他の法令に触れない限り、使用者が自由に設定できます。自己都合退職と会社都合退職とで支給率に差を設けることも広く行われている実務ですが、著しく不合理で公序良俗(民法90条)に反する場合や、国籍・信条・社会的身分による差別的取扱い(労基法3条)、性別による差別的取扱い(労基法4条・男女雇用機会均等法)にあたる場合には、その規定は無効となり得ます。特に、労働者の貢献度を無視した極端な減額は公序良俗違反のリスクがあるため、自己都合・会社都合の差は合理的な範囲にとどめておくことが重要です。退職金規程の設計は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職金規程の設計・見直しでお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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