労働問題940 出来高払制(歩合給)の割増賃金計算方法【会社側弁護士が解説】
出来高払制(歩合給制)を採用している会社では、月給制とは異なる方法で残業代(割増賃金)を計算する必要があります。「歩合給だから残業代は不要」という誤解は、多額の未払い残業代請求につながる危険なリスクです。計算の仕組みを正確に理解することが、不要なトラブル回避の第一歩です。
本記事では、出来高払制(歩合給制)における基礎賃金の算出方法と、時間外・休日・深夜割増賃金の計算方法を、使用者側専門の弁護士が実務的観点から解説します。
01出来高払制における「基礎賃金(時間単価)」の算出方法
出来高払制(歩合給制)の基礎賃金(通常の労働時間の賃金の時間単価)は、労基法施行規則19条1項6号により、以下の計算式で求めます。
基礎賃金(時間単価)= 当該賃金計算期間の出来高払賃金の総額 ÷ 当該賃金計算期間の総労働時間数
たとえば、ある月の歩合給総額が300,000円で、その月の総労働時間が200時間だった場合、基礎賃金の時間単価は1,500円/時となります。月によって歩合給の総額も総労働時間も変動するため、毎月計算し直すことになります。
02時間外・休日割増賃金の計算方法(0.25倍・0.35倍で足りる理由)
出来高払制の場合、時間外・休日労働時間分の「通常賃金相当部分」は既に歩合給の総額に含まれているとみなされます。そのため、割増賃金として追加で支払うのは「割増部分のみ」で足ります。
具体的な割増率は以下の通りです。
【時間外労働(1日8時間・週40時間超)】
時間外割増賃金の追加支払額=基礎賃金の時間単価×0.25×時間外労働時間数
例:時間単価1,000円、時間外10時間 → 1,000×0.25×10=2,500円
【休日労働(法定休日)】
休日割増賃金の追加支払額=基礎賃金の時間単価×0.35×休日労働時間数
例:時間単価1,000円、休日8時間 → 1,000×0.35×8=2,800円
月給制であれば時間外労働の割増率は「1.25倍」ですが、出来高払制では既に1倍分が歩合給に含まれているため、追加支払は「0.25倍分のみ」となります。この点が月給制との大きな違いです。
03深夜割増賃金の計算方法
深夜労働(午後10時〜午前5時)に対する割増賃金については、月給制と同様に、基礎賃金の時間単価の0.25倍を追加で支払う必要があります。
例:時間単価1,000円、深夜労働5時間 → 1,000×0.25×5=1,250円
なお、時間外かつ深夜の労働(法定時間外かつ深夜)は、0.25(時間外)+0.25(深夜)=0.50倍の追加支払が必要です。出来高払制であっても深夜割増賃金の計算方法は通常と変わりません。
04就業規則で時間単価を定めている場合の取扱い
就業規則において出来高払制の時間単価を別途定めている場合は、その規定に従うことになります。ただし、就業規則に定めた時間単価が、労基法の計算方法(賃金総額÷総労働時間数)で算出した時間単価を下回っていてはなりません。
実務上、「歩合給は時間外割増賃金を含む」と就業規則に定めている会社もありますが、その設計が法的要件を満たしているかどうかを確認しておくことが重要です。固定残業代・みなし残業代の規定が無効とされると、別途割増賃金全額の支払を求められるリスクがあります。
05歩合給制導入時に会社が注意すべきポイント
出来高払制(歩合給制)を採用・継続する場合、残業代トラブルを防ぐために以下の点を整備しておくことが重要です。
まず、就業規則・給与規程に基礎賃金の計算方法(賃金総額÷総労働時間数)を明記します。次に、毎月の給与明細に基礎賃金の時間単価・割増賃金の計算根拠を記載することで、社員との認識の相違を防ぐことができます。さらに、タイムカードや勤怠管理システムで総労働時間を正確に記録することが不可欠です。
残業代請求を受けた際の対応策も含め、事前に使用者側の弁護士に相談し、給与体系の適法性を確認しておくことを強く推奨します。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
06よくある質問
Q1. 歩合給制でも残業代の支払義務はありますか?
A. はい、原則として支払義務があります。「歩合給制だから残業代不要」という考えは誤りです。ただし、出来高払制の場合は時間外の通常賃金部分が既に歩合給に含まれているため、追加で支払う割増分は0.25倍(時間外)等となります。
Q2. 歩合給の計算期間(月)によって基礎賃金が変わります。問題ありませんか?
A. 出来高払制では賃金計算期間ごとに基礎賃金が変動することが法的に予定されています。毎月の歩合給総額と総労働時間を正確に記録・管理し、給与明細に計算根拠を明示することが重要です。
Q3. 歩合給に「残業代込み」と規定すれば残業代を別途支払わなくていいですか?
A. 固定残業代(みなし残業代)の規定として有効になるためには、固定残業時間数・金額を明示し、実際の残業代が固定残業代を超えた場合には差額を支払う旨を定める必要があります。これらの要件を満たさない規定は無効とされる可能性があります。
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最終更新日:2026年5月10日