労働問題935 下請企業の労働者を受入れた発注企業の団体交渉義務【会社側弁護士が解説】
「下請け会社の社員は自社の社員ではないから団体交渉には関係ない」と考えている発注企業の経営者は少なくありません。しかし、実態として発注企業が下請け労働者の労働条件を実質的に支配している場合には、発注企業にも団体交渉義務が生じることがあります。
本記事では、下請企業の労働者を受け入れている発注企業の団体交渉義務の有無と、その判断基準を使用者側専門の弁護士が解説します。
01原則:下請企業の労働者との間に直接の雇用関係なし
発注企業と下請企業との間の関係は、本来は企業間の請負・業務委託契約であり、発注企業は下請企業の労働者を「雇用」していません。したがって、発注企業と下請企業の労働者との間には直接の雇用関係がなく、原則として発注企業には団体交渉義務は生じません。
02例外:発注企業が実質的に使用者性を持つ場合
ただし、下請企業の経営実態が乏しく、実際には発注企業が下請企業の労働者を自社の勤務体制に組み入れて直接の指揮命令を行い、賃金や労働条件を実質的に支配・決定しているような場合には、発注企業が労組法上の「使用者」として団体交渉義務を負うとした裁判例があります(油研工業事件:最高裁昭和62年2月26日)。
この「実質的な支配」の有無を判断する際には、①発注企業が下請け労働者の労働条件(賃金・労働時間等)を実質的に決定・支配しているか、②発注企業が下請け労働者に対して直接の業務指揮・命令を行っているか、③下請企業が独立した経営実態を持っているか(単なる名目的な法人か)、といった点が考慮されます。
03「偽装請負」リスクとの関係
下請け・業務委託の形式をとりながら実態として発注企業が指揮命令を行っている場合は、労働者派遣法上の「偽装請負」の問題も生じます。偽装請負と認定されると、労働者派遣法違反・職業安定法違反となるほか、下請け労働者から直接雇用の申込み義務が生じる可能性があります。
団体交渉義務の問題と偽装請負の問題は、実態として同一の事象(形式的な請負・実質的な指揮命令)から生じます。発注企業として、下請け労働者への指揮命令の実態を定期的に確認し、偽装請負とならないよう業務の独立性を確保することが重要です。
04実務対応:申入れを受けた場合の判断ポイント
下請企業の労働者が所属する組合から団体交渉を申し入れられた場合の対応ポイントは以下の通りです。
まず、申入れ内容を確認し、自社が「使用者」に当たるかどうかの実態調査を行います。下請企業との契約内容・業務実態(指揮命令の有無・賃金決定の権限等)を把握します。次に、使用者性が認められない場合は、その根拠を明確にした上で拒否の意思を伝えます。ただし、使用者性の判断が微妙な場合は即座に拒否せず、弁護士に相談してから対応を決定することが重要です。
05下請・外注管理で会社が整備すべき体制
下請・外注管理において、発注企業として整備しておくべき体制は以下の通りです。下請企業との契約を「請負契約」と明確に位置づけ、下請企業が自律的に業務遂行できる実態を確保します。発注企業の社員が下請労働者に直接の業務指示を出さないよう、指揮命令ラインを明確化します。また、下請企業の賃金・労働時間等の労働条件の決定に発注企業が関与しないようにします。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
06よくある質問
Q1. 下請企業との間には請負契約を締結しています。それだけで団体交渉義務を拒否できますか?
A. 契約形式だけでなく業務の実態が重要です。名目上は請負契約でも、発注企業が実質的に業務指揮・労働条件決定を行っている場合は、使用者性が認められることがあります。契約書の整備だけでなく、実態の確認が必要です。
Q2. 下請企業の労働者が自社に「直接雇用してほしい」と求めてきました。応じる義務はありますか?
A. 偽装請負と認定された場合は直接雇用の申込みをしたとみなされることがあります(労働者派遣法40条の6)。しかし、適法な請負関係が成立している場合は直接雇用義務はありません。実態を踏まえた法的評価が必要です。
Q3. 下請企業が廃業した場合、その労働者を引き継ぐ義務はありますか?
A. 原則として引き継ぐ義務はありませんが、発注企業が廃業を主導・誘導した場合や、実態として発注企業による解雇と評価される場合は別途問題が生じることがあります。弁護士に相談することを推奨します。
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最終更新日:2026年5月10日
