労働問題93 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい社員を解雇する際の注意点を教えて下さい。
目次
業務ミスを理由とする解雇には「裁判官が証拠で判断できること」が必要です。新卒・長期雇用予定者は認められにくく、地位・職種特定採用者は比較的認められやすい。ミスの記録・客観的証拠整備が不可欠です。
「思ったより能力が低かった」「見込み違い」だけでは解雇は認められません。何月何日にどのようなミスがあり会社にどのような損害を与えたかを当時の客観的証拠で説明できることが必要です。
■ 解雇認められにくいケース:新卒・長期雇用予定者・低賃金・経験不問採用
長期雇用を予定した新卒採用者には社内教育による能力向上が期待されるため、業務ミスだけでは解雇は例外的な場合でない限り認められません。
■ 解雇比較的認められやすいケース:地位・職種特定採用者
地位や職種を特定して採用された社員が当該地位・職種に求められる能力を欠く場合。ただし採用時に労働契約書に明示していることが前提。
■ 共通の注意点:ミスの日時・内容・損害を記録した客観的証拠が不可欠
何月何日のどのようなミスで会社にどのような損害が生じたかを当時の書面等で証明できることが必要。抽象的な主張や関係者の証言だけでは不十分。
1. 業務ミスを理由とする解雇の有効性判断——4要件の確認
退職勧奨と並行して普通解雇を検討
業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい場合には、退職勧奨と並行して普通解雇を検討します。普通解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては、①就業規則の普通解雇事由に該当するか、②解雇権濫用(労契法16条)に当たらないか、③解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか、④解雇が法律上制限されている場合に該当しないか、等を検討する必要があります。
「客観的に合理的な理由」の意味
解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには、「裁判官」が、労働契約を終了させなければならないほど当該社員の業務上のミスの程度・頻度が甚だしく、業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じているため、労働契約で求められている能力が欠如していると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者・上司・同僚・取引先などが主観的に解雇に値すると考えただけでは足りず、単に思ったよりもミスが多く、見込み違いであったというだけでは、解雇は認められません。
2. 採用区分別の解雇の認められやすさ
解雇が認められにくいケース
長期雇用を予定した新卒採用者については、社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているため、業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたとしても直ちに労働契約で求められている能力が欠如していることにはならず、解雇は例外的な場合でない限り認められません。
一般的には、勤続年数が長い社員・賃金が低い社員は、業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。また、採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は、一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
解雇が比較的認められやすいケース
地位や職種が特定されて採用された社員については、当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は、労働契約で求められている能力が欠如しているものとして、普通解雇が認められやすくなります。ただし、解雇が比較的緩やかに認められる前提として、地位や職種が特定されて採用された事実や、当該地位や職種に要求される能力を主張立証する必要がありますので、できる限り労働契約書に明示しておくようにしておいてください。
3. 業務ミス解雇の証拠整備——当時の記録が決め手
具体的な事実を当時の証拠で証明する
業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには、何月何日にどのような業務ミスがあり、会社にどのような損害を与えたのかを、業務ミスがあった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。
抽象的に「業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えた」と言うだけでは、あまり意味はありません。また「彼(女)が業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたことは、周りの社員も、取引先もみんな知っている」というだけでは足りません。
会社関係者の陳述書や法廷での証言は、証拠価値があまり高くないため、紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと、何月何日にどのような業務ミスがあり、会社にどのような損害を与えたのかを主張立証するのには困難を伴うことが多くなります。
✕ よくある経営者の誤解
「ミスが多いことは周りの社員も取引先もみんな知っているから、証拠がなくても大丈夫」→ 足りません。
関係者の証言だけでは証拠価値が低く、解雇の有効性を立証することに困難を伴います。ミスがあった当時の書面・記録等の客観的証拠が必要です。
「新卒採用でも、これだけミスが多ければ解雇できる」→ 原則として困難です。
新卒採用者の業務ミス解雇は、例外的な場合でない限り認められません。まずは社内教育・注意指導・改善の機会の付与が必要です。
業務ミスを繰り返す社員の解雇可否評価・証拠整備の方法・採用契約書への記載内容について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
4. まとめ
業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい社員の解雇は、①就業規則の解雇事由への該当性、②客観的合理的理由と社会通念上の相当性、③解雇予告義務の遵守、④法律上の解雇制限への非該当を確認することが必要です。長期雇用を予定した新卒採用者の業務ミス解雇は例外的な場合でない限り認められません。地位・職種特定採用者は比較的認められやすいですが、採用時の労働契約書への明示が前提です。いずれの場合も、何月何日のどのようなミスで会社にどのような損害が生じたかを当時の客観的証拠で証明できるよう、日常的な記録整備が不可欠です。早めに弁護士に相談することをお勧めします。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05