労働問題912 出張中の移動時間は労働時間になるか?【会社側弁護士が解説】
「休日に出張先へ移動させたので休日割増賃金が必要ですか?」——出張中の移動時間と労働時間の関係は、会社経営者が誤解しやすいテーマです。原則として出張移動時間は労働時間に当たりませんが、例外もあります。
判断基準は「指揮命令下にあるか」「自由利用が保障されているか」です。出張に関連しているからといって、移動時間全てが労働時間になるわけではありません。
本記事では、会社側専門弁護士の視点から、出張移動時間の労働時間該当性・休日移動と割増賃金・例外ケース・実務対応を解説します。
01出張移動時間の基本的な考え方——原則は労働時間に当たらない
出張に伴う往復の移動時間は、通勤時間と同様の性質を有し、原則として労働時間には該当しません。行政解釈においても、「出張中の休日については、その日に旅行している場合であっても、原則として休日労働として取り扱わなくて差し支えない」とされています(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)。
移動中に使用者から具体的な業務指示を受けておらず、移動手段・経路・移動中の過ごし方について労働者の裁量が認められている場合は、自由利用が保障されており、指揮命令下に置かれているとは評価されません。したがって、出張先への移動だけでは、休日移動であっても休日割増賃金の支払義務は生じないのが原則です。
会社経営者としては、「出張のために休日を使わせた=休日労働」という理解は法的に正確ではありません。移動が業務そのものと評価できるかどうかが判断基準です。
02出張移動時間が労働時間と評価される例外ケース
例外的に移動時間が労働時間と評価されるのは、移動自体が業務性を帯びている場合です。典型例は、物品の運搬・監視を伴う出張です。現金・高価な機器・重要書類などを運搬し、移動中も継続的な管理・監視義務が課されている場合は、移動中も指揮命令下に置かれているとして、労働時間に該当します。
また、移動中に常時業務連絡への即時対応を求められている、特定の行動を細かく指示されているという実態があれば、自由利用が否定され、労働時間として評価されるリスクがあります。「移動中は何もしなくていい」と言われていても、緊急時には必ず対応しなければならない状況下では、手待時間に類似した評価がなされる場合もあります。
会社経営者としては、出張の実態として移動中にどのような義務を課しているかを具体的に確認することが重要です。「移動中だから大丈夫」と一律に判断することは危険です。
03物品運搬・監視を伴う出張の注意点
物品の運搬や監視を目的とする出張では、移動時間全体が労働時間と評価される可能性が高くなります。移動中も管理義務・注意義務が継続しており、自由に行動できる状態にないからです。
「特に作業はしていないが、責任者として同行している」という場合でも、万一の事態に備えて常時注意を払うことが業務上求められているのであれば、自由利用とはいえません。業務性の有無は、実際の作業量ではなく、課されている責任の内容で判断されます。
会社経営者としては、物品運搬を伴う出張について、移動中にどのような管理義務を課しているかを明確にし、その内容に応じて労働時間として扱う必要があるかを検討してください。この点を曖昧にしたままにすると、後から移動時間分の残業代・休日割増賃金を請求されるリスクがあります。
04出張移動時間トラブルを防ぐための実務対応
まず、出張規程・就業規則において、出張移動時間の取扱いを明確に定めることが重要です。「移動時間は労働時間に含まない」と定めるだけでなく、物品運搬等の例外がある場合はその旨も記載し、実態と整合させてください。
次に、移動中に業務対応を求める場合(電話・メール等)は、その対応義務の範囲と程度を明確にしてください。常時対応を義務付けている場合は、その時間は労働時間として管理する必要があります。
また、休日移動については、社員に対して「休日移動は原則として労働時間に当たらない(休日割増賃金は発生しない)」という会社の方針を明示しておくことが、後のトラブル防止に有効です。ただし、移動中に業務を命じる場合は例外となることも合わせて説明することが重要です。出張移動時間の取扱いについて不明な点がある場合は、会社側弁護士にご相談ください。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長、最高裁行政との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員。2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。出張移動時間・休日労働の管理でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問(FAQ)
Q1. 日曜日に新幹線で出張先へ移動させました。休日割増賃金を払う必要がありますか?
原則として、休日移動であっても移動時間は労働時間に当たらず、休日割増賃金の支払義務はありません(行政解釈)。ただし、移動中に業務対応を義務付けている場合や、物品の運搬・監視を伴う場合は例外です。移動中の実態を確認し、業務上の拘束がなければ休日割増賃金は不要です。
Q2. 出張中の新幹線の車内で社員が報告書を作成していました。この時間は労働時間になりますか?
自主的に行った場合と、会社が業務として指示した場合で判断が異なります。会社から明示的に指示していた場合や、指示がなくても報告書の作成が業務上当然求められる状況にあれば、その時間は労働時間となる可能性があります。「自主的」であっても黙示の指揮命令があったと評価されるケースもあります。
Q3. 出張規程に「移動時間は労働時間に含まない」と定めていれば、完全に問題ないですか?
就業規則・出張規程の記載だけでは不十分です。実態として移動中に業務義務を課している場合は、規程の記載にかかわらず労働時間と評価されます。規程と実態を一致させることが必要です。
Q4. 物品を運搬する社員の出張移動時間は、必ず労働時間になりますか?
物品運搬・監視義務がある場合は、移動時間が労働時間と評価されやすくなります。ただし、「物品を積んでいるが特に管理義務はなく自由に過ごせる」という状況であれば、必ずしも労働時間とはなりません。管理・監視義務の実態が重要です。
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最終更新日:2026年5月10日