労働問題899 リハビリ出社の法的位置付けと賃金の取扱い【会社側弁護士が解説】
メンタルヘルス不調やその他の傷病による休職者の復職対応は、会社にとって難しい問題の一つです。「職場に戻れる状態かどうか」の判断を誤ると、再休職や症状悪化が生じ、会社としても対応コストが膨らむ可能性があります。こうした場面で活用されるのが「リハビリ出社(試し出勤)」制度です。
リハビリ出社は、適切に設計・運用することで会社にとってもメリットのある制度ですが、法的根拠や賃金の取扱い、制度の設計方法を誤ると思わぬリスクを招きます。制度の内容と注意点を正確に把握しておくことが重要です。
本記事では、会社側専門弁護士の視点から、リハビリ出社制度の法的位置付け、賃金の取扱い、制度設計上の留意点について解説します。
01リハビリ出社とは何か
リハビリ出社(試し出勤)とは、休職中または休職期間満了前後の段階で、従業員が段階的に職場に慣れることを目的として、通常業務より軽易な業務または短時間の就労を行う制度です。主にメンタルヘルス不調による休職者の復職可否を判断するために活用されますが、身体的疾患からの回復時にも用いられます。
厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(2012年改訂)」においても、職場復帰支援プログラムの一環としてリハビリ出社に類する仕組みを推奨しています。ただし、このガイドラインはあくまで望ましい運用例を示したものであり、リハビリ出社自体を法的に義務付けるものではありません。
リハビリ出社は、使用者と従業員の個別合意または就業規則の定めに基づいて実施されるものであり、労働基準法等の法律上に直接根拠規定があるわけではありません。制度の有無・内容は各社の就業規則・休職規程の設計によって決まります。
02リハビリ出社中の賃金の取扱い
リハビリ出社は法律上の根拠のない任意の制度ですので、その期間中の賃金は、原則として当事者間(会社と従業員)の合意によって自由に定めることができます。就業規則や個別合意によって、リハビリ出社期間中を無給と定めることも法的には可能です。
ただし、リハビリ出社の内容が実質的に「労務の提供」に当たると判断される場合は、たとえ「無給」と定めていても、最低賃金以上の賃金支払義務が生じます。実質的な労務提供と判断される場面としては、休職前と同一または類似した業務を行わせている場合、就業時間と同じ時間帯に拘束して業務を行わせている場合、業務上の成果物の提出を求めている場合などが挙げられます。
すなわち、「リハビリ出社」と名づけていても、実態が通常の就労と変わらない場合には、通常の賃金相当額の支払義務が生じる可能性があります。制度設計の際は、職場に慣れることを目的とした観察的・訓練的な活動と、実際の業務提供との区別を明確にすることが重要です。
03休職期間との関係と注意点
リハビリ出社の実施にあたって会社が特に注意すべき点は、休職期間との関係です。就業規則において休職期間中の取扱いを明確に定めていない場合、リハビリ出社を開始したことが「復職」と評価され、休職期間がリセットされたり、休職事由が消滅したと判断されるリスクがあります。
また、リハビリ出社中に症状が悪化して再び出社できなくなった場合、これが「新たな休職期間の開始」なのか、「元の休職期間の継続」なのかによって、休職期間満了後の取扱いが異なってきます。会社としては、休職規程において「リハビリ出社期間は休職期間に含む」などの明確な定めを設けておくことが重要です。
さらに、リハビリ出社の開始・終了条件、評価基準、主治医・産業医の意見聴取の手続などを就業規則・休職規程に明記しておくことで、従業員との間のトラブルを防ぐことができます。制度設計に際しては、労働問題に強い弁護士法人四谷麹町法律事務所へのご相談をお勧めします。
04復職可否の判断と会社の対応
リハビリ出社期間中の観察を通じて、会社は従業員の復職可否を判断します。復職の可否を判断するにあたっては、主治医の意見だけでなく、産業医の意見も踏まえることが重要です。主治医は患者(従業員)の回復状況について医学的な見解を示しますが、職場環境への適応可否については産業医の方が適切な判断ができる場合があります。
リハビリ出社を経ても、通常業務に従事できる水準まで回復していないと判断される場合は、復職を認めないことが会社として適切な判断となる場合があります。なお、復職を認めない決定は従業員に対して不利益な効果をもたらすものですから、その判断の根拠を書面で記録し、必要に応じて従業員に説明できる状態を整えておくべきです。
休職期間満了時点で復職できないと判断した場合の対応(自然退職または雇用契約の終了)についても、就業規則に明確な定めを設け、従業員に事前に周知しておくことが紛争予防につながります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。リハビリ出社制度の設計・休職者の復職対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問(FAQ)
Q1. 就業規則にリハビリ出社の規定がない場合、制度を利用できますか?
就業規則に規定がなくても、個別の合意に基づいてリハビリ出社を実施することは可能です。ただし、賃金の取扱いや休職期間との関係を個別に合意書として書面で取り交わしておくことが重要です。就業規則への明文化を併せて行うことが、後のトラブル防止のために望ましいです。
Q2. リハビリ出社中の労働者が怪我をした場合、労災は適用されますか?
リハビリ出社中であっても、会社の指揮命令下で業務に従事しているとみなされる場合は、労働災害として労災保険が適用される可能性があります。実態として業務遂行性・業務起因性が認められる場合は、休職中であっても労災認定の対象となり得ます。事前に産業医等と連携し、リスク管理を徹底することが重要です。
Q3. リハビリ出社後に復職を認めたが、すぐに再休職した場合、どう対応すればよいですか?
再休職の場合、就業規則の定めに従って再度の休職期間が付与されるか、あるいは残余の休職期間のみが認められるかが問題となります。就業規則に再休職に関する規定を設けておくことが重要です。規定がない場合は、再休職のたびに休職期間が一律にリセットされるリスクがあります。弁護士にご相談の上、就業規則を整備することをお勧めします。
Q4. 復職可否の判断はどのように進めればよいですか?
まず主治医から復職可能との診断書を受け取ります。次に、産業医による就業適性の確認を行います。その上でリハビリ出社を実施し、実際の職場環境への適応状況を観察します。最終的に会社として復職可否を判断します。この過程を記録として残しておくことが、後日の紛争防止の観点から重要です。
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最終更新日:2026年5月10日