労働問題869 賞与支給日に退職している者には賞与を支給しないとすることに問題はありますか。

この記事の結論
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支給日在籍要件は有効と考えられる

賞与の支給条件は使用者が自由に決めることができ、支給日在籍要件は、所定の全期間勤務継続したことへの報酬や将来の期待・奨励を重視したものと考えられ、実質的に賃金全額払原則に反せず、合理性もあることから有効と考えます。

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規定がなくても社内慣行として成立していれば認められる

就業規則に支給日在籍要件が定められていない場合であっても、社内の慣行として成立していると認められるときは許されるとした裁判例があります(京都新聞社事件、最高裁昭和60年11月28日判決)。

 848の記事で解説した賞与規定の柔軟な設計とも関連しますが、実務上、賞与に関して最もよく問題になるのが、支給日直前に退職した労働者への賞与の取扱いです。

 会社側専門の弁護士の立場から、賞与支給日に退職している者への不支給の可否を解説します。

01賞与の支給条件は使用者が自由に決められる

 賞与は、通常の賃金とは異なり、使用者の決定や労使間の合意により初めて具体的に発生するものであり、支給条件をどのようにするかについては、使用者が自由に決めることができます。848の記事で解説したとおり、賞与の支給条件を確定的に定めれば拘束力が生じますが、その条件自体をどう設計するかは、原則として会社の裁量に委ねられているということです。

02支給日在籍要件が有効とされる理由

 また、賞与は、賃金の後払いのみならず、企業の利益配分、過去の貢献に対する功労報償、将来の勤務への期待・奨励、生活費補填といった多様な性格を有しており、支給日在籍要件が設けられた賞与は、所定の全期間勤務継続したことへの報酬や将来の期待・奨励を重視したものと考えられ、実質的に労基法24条の賃金全額払原則に反せず、合理性もあることから、支給日在籍要件は有効と考えます。

03京都新聞社事件(社内慣行としての成立)

 就業規則に支給日在籍要件が定められていない場合であっても、社内の慣行として成立していると認められるときは許されるとした裁判例もあります(京都新聞社事件、最高裁昭和60年11月28日判決)。この事件では、賞与計算期間に在籍し支給日に在籍しない定年退職者・死亡退職者には例外的に支給するという慣行が存在した事案において、明文の規定がなくとも、こうした慣行に基づく取扱いが認められています。

04会社側が押さえておくべき視点

 会社側が支給日在籍要件を導入・運用する際には、就業規則等に明確に規定しておくことが最も安全な方法です。ただし、明文の規定がない場合でも、過去の運用実績が一貫して積み重なっていれば、社内慣行として認められる余地があります。もっとも、この慣行の立証は、明文規定に比べてハードルが高くなりがちであるため、可能な限り就業規則に明記しておくことをお勧めします。

 なお、自発的な退職とは異なり、会社都合の退職(整理解雇、退職勧奨に応じた退職等)の場合には、支給日在籍要件を機械的に適用することが、公序良俗違反等として問題視されるリスクがある点にも留意が必要です。退職の経緯(自発的か会社都合か)に応じた慎重な対応が求められます。

05よくある質問(FAQ)

Q. 賞与計算期間中に在籍していたが支給日には退職していた場合、賞与は支払わなくてよいですか。

支給日在籍要件を定めていれば、支払わないことが可能です。この要件は将来の期待・奨励を重視したものとして有効と考えられます。

Q. 就業規則に支給日在籍要件を規定していなくても、この扱いは有効ですか。

社内の慣行として成立していると認められれば、規定がなくても許されるとした裁判例があります(京都新聞社事件)。ただし、明文規定の方が安全です。

Q. 会社都合で退職させた労働者にも、支給日在籍要件を適用してよいですか。

機械的な適用は問題視されるリスクがあります。整理解雇や退職勧奨に応じた退職等、会社都合の退職の場合には、より慎重な対応が求められます。

経営上のポイント 賞与の支給条件は使用者が自由に決めることができ、支給日在籍要件は、全期間勤務継続への報酬や将来の期待・奨励を重視したものとして、賃金全額払原則に反せず有効と考えられます。就業規則に規定がなくても、社内の慣行として成立していると認められれば許されるとした裁判例があります(京都新聞社事件、最高裁昭和60年11月28日)。会社側としては、支給日在籍要件を就業規則に明確に規定しておくことが最も安全な方法です。また、自発的退職と会社都合退職とでは扱いを分ける慎重さも必要です。賞与制度の設計・運用は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。賞与制度の設計・運用でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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