労働問題863 退職後についても競業避止義務を課すことはできますか。
|
1
|
職業選択の自由の制約を正当化できる場合に限り有効 退職後の競業避止義務は、労働契約が終了した後の職業選択の自由を制限するものであるため、認められる場面が制限されます。これを制限してもなお正当化できるような場合についてのみ、法的効力が認められます。 |
|
2
|
在職時の地位・保護利益・期間や範囲が考慮要素になる 在職時における労働者の地位、保護される使用者の利益、競業避止の期間・範囲が過度な制約となっていないかが考慮されます。就業規則の規定に加え、退職時の誓約書の取得もお勧めします。 |
810の記事で解説した退職後の競業行為の不法行為該当性とは別に、あらかじめ契約・就業規則で退職後の競業避止義務を課すことができるかは、それ自体重要な論点です。本稿では、この点を改めて整理します。
会社側専門の弁護士の立場から、退職後に競業避止義務を課すことができるかを解説します。
01退職後の競業避止義務の基本的な考え方
退職後の競業避止義務は、(労働契約が終了した)退職後についてまで職業選択の自由を制限するもののため、認められる場面が制限されます。退職後についてまで競業避止義務を課すことが、労働者の職業選択の自由を制限することになってもなお正当化できるような場合についてのみ、法的効力が認められます。809の記事で解説した在職中の競業避止義務とは異なり、退職後は労働契約から解放された立場での義務であるため、より厳格な有効性の検討が必要になります。
02有効性の判断要素
退職後の競業避止義務の有効性を判断するに当たり考慮される要素としては、在職時における労働者の地位(企業秘密を扱うような者であったか)、保護される使用者の利益(企業秘密の内容、重要性の程度)、競業避止の期間・範囲(職業選択の自由に対する過度の制約となっていないか)などが考えられます。単に「重要な役職に就いていたから」というだけでは足りず、実質的に保護すべき企業秘密等を有していたか、その保護に見合った合理的な範囲・期間の制約になっているかが、総合的に検討されます。
03就業規則と誓約書の両輪での対応
退職後の競業避止義務を課す場合には、就業規則に退職後の競業避止義務に関する規定を設けて周知させるだけでなく、退職時に誓約書の提出を求めることをお勧めします。誓約書を取得しておいた方が退職後の競業避止義務がやや有効と評価されやすくなることはもちろんですが、事実上の話としても、退職する労働者に競業避止義務を遵守してもらいやすくなります。
誓約書は、就業規則の一般的な規定と異なり、退職時点での具体的な状況(当該労働者が実際に扱っていた業務内容、担当していた顧客・技術等)を踏まえて、個別的に義務の範囲を明確化できる点にメリットがあります。
04会社側が押さえておくべき視点
会社側としては、すべての従業員に一律の退職後競業避止義務を課すのではなく、実際に企業秘密や重要な顧客情報等を扱う立場にある従業員に限定して、義務の対象範囲・期間を合理的に設計することが重要です。過度に広範な制約(対象業務・地域・期間が広すぎる規定)は、無効と判断されるリスクを高めます。
退職時の誓約書取得は、退職手続の一環として定型化しておくことをお勧めします。ただし、誓約書の取得だけで満足せず、その内容が、当該労働者の在職時の地位・保護すべき利益に見合った合理的な範囲になっているかを、都度確認することが重要です。
05よくある質問(FAQ)
Q. 全従業員に一律の退職後競業避止義務を課してもよいですか。
お勧めしません。職業選択の自由の制約が正当化できるかは、在職時の地位や保護すべき利益に照らして判断されるため、実際に企業秘密等を扱う従業員に限定した設計が望ましいです。
Q. 就業規則に規定があれば、誓約書は不要ですか。
誓約書の取得もお勧めします。誓約書を取得することで、有効性がやや評価されやすくなるほか、実際に義務を遵守してもらいやすくなる効果もあります。
Q. 退職後競業避止義務の有効性は、何を基準に判断されますか。
在職時の地位、保護される使用者の利益、競業避止の期間・範囲が過度な制約になっていないかという要素が考慮されます。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職後の競業避止義務の設計でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日