労働問題835 移動時間は労基法上の労働時間に当たりますか。
1. 労働基準法における労働時間の定義
移動時間が労働基準法上の「労働時間」に該当するかどうかは、移動の目的や状況によって異なります。労基法では労働時間を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義していますが(判例:三菱重工業長崎造船所事件など)、単純な移動時間が労働時間に該当するかは、ケースごとに判断する必要があります。
2.労働基準法上の労働時間に該当しないケース:通勤時間
一般的な通勤、すなわち自宅から職場までの移動時間については、労働者が自己の裁量で行うものであり、労基法上の労働時間には含まれません。通勤は業務の一部とは見なされず、使用者の指揮命令下にあるわけでもないため、通常は給与や時間管理の対象外となります。
3.労働基準法上の労働時間に該当するケース:業務命令による移動時間
一方で、使用者の指示による移動、たとえば営業職が顧客を訪問するための移動時間や、出張で目的地に向かう移動時間などは、労働時間と見なされる場合があります。これらの移動は、業務遂行の一環であり、使用者の指揮命令下にあると判断されるためです。例えば、営業職が複数の顧客を訪問するために移動している場合、その移動時間は業務の一部と考えられます。
4.特殊な状況下の判断:移動中の活動内容
移動中の活動内容が、労働時間としての該当性に影響を与える場合もあります。
移動中に上司から業務指示を受けてそれに対応する、または移動中に業務資料を作成している場合は、移動が単なる移動にとどまらず、労働時間と見なされる可能性が高くなります。
一方で、移動中に読書や音楽鑑賞など、労働者が自由に時間を使える状態であれば、その移動時間は労働時間に含まれないと判断される可能性が高くなります。
5.出張に伴う移動時間の取り扱い
出張の場合、移動時間が労働時間に該当するかどうかは、さらに具体的な状況を考慮する必要があります。
たとえば、出張先への往復移動は業務命令によるものであり、労働時間と見なされるのが一般的です。
しかし、出張先での自由時間、たとえば業務開始前後に自分の裁量で過ごす時間については、労働時間に該当しません。この区別を明確にするためには、移動時間の性質と、移動中の活動内容をよく検討する必要があります。
6.法令の視点からの解釈
労基法第37条では、時間外労働に対する割増賃金の支払いを定めています。
このため、移動時間が労働時間に該当する場合は、その時間が法定労働時間を超える際に、時間外労働として取り扱う必要があります。
厚生労働省のガイドラインや通達でも、業務上必要な移動時間は労働時間に該当するとされています。ただし、単なる通勤や業務に関連しない移動時間には適用されません。
7.実務上の対応と留意点
労働時間に該当する移動時間を適切に管理するためには、タイムカードやアプリ等を活用して、正確な記録を残すことが重要です。
また、就業規則に移動時間の取り扱いを明記し、従業員に事前に説明しておくことで、認識のずれによるトラブルを防ぐことができます。
特に出張などの場合には、移動時間と自由時間を明確に区別し、労働時間に該当する部分について、正確に記録することが大切です。これにより、労働時間の過少申告や、不適切な時間管理による法的リスクを回避することができると考えます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
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