労働問題815 在職中及び退職後の秘密保持義務についての留意点を教えてください。

1 在職中の労働者
 在職中の労働者は、労働契約の付随義務として、使用者の営業上の秘密を保持すべき義務を負っています。
 この秘密保持義務については、多くの会社が就業規則で定めており、また、誓約書や秘密保持契約書等もなされていますが、就業規則や個別合意がなくても発生すると考えられています(メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件東京地裁平成15年9月17日判決)。
 労働者が秘密保持義務に違反した場合には、就業規則に基づいて、懲戒処分や解雇等を検討していきます。

2 退職後の労働者
 退職後の労働者については、秘密保持義務を負う旨の就業規則や個別合意があり、これに合理性が認められ公序良俗違反とならない場合には、就業規則の規定や合意に基づき、退職後も秘密保持義務を負うものと考えます。このような就業規則の規定や個別合意は、本来制約されないはずの退職後の労働者の行為を制約する側面をもっていますので、その範囲が不当なものとならないよう、裁判例では、合理性が求められています(ダイオーズサービシーズ事件東京地裁平成14年8月30日判決)。具体的には、秘密保持の対象を明確に定めることが求められ、個別合意においては、秘密の性質、範囲、価値等に照らし、合理性が判断されます。
 他方、秘密保持義務を負う旨の就業規則や個別合意がない場合の退職後の労働者も秘密保持義務を負うかについては、見解が分かれています。裁判例は、信義則上、一定の範囲では引き続き秘密保持義務を負うとしているもの(三和化工事件大阪高裁平成6年12月26日判決等)と、労働契約の明確な根拠が必要であるとして否定しているもの(レガシィ事件東京地裁平成27年3月27日判決)があります。

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