労働問題796 勤務時間外における企業外での犯罪行為を理由として懲戒処分を行う場合のポイントを教えてください。

 勤務時間外における企業外での行動は、本来は労働者の私生活上の行為であり、使用者が懲戒をもって臨むことはできないはずです。しかし、労働者は信義則上、使用者の業務利益や信用・名誉を毀損しない業務を負っていますので、原則として企業外での行動を規制することはできないものの、それが「企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるときなど企業秩序に関係を有する」場合は、懲戒事由となると判断されています(関西電力事件最高裁第一小法廷昭和58年9月8日判決)。

1.飲酒運転
 飲酒運転については、自動車運転処罰法が新たに設けられるなど、社会の目が厳しくなっており、就業規則に飲酒運転のみでなく、酒気帯び運転、更には同乗者であることも懲戒解雇事由とする企業が増えています。このような企業の対応について、一定の合理性が存在すること自体は否定されることはないものの、飲酒運転や酒気帯び運転が当然に懲戒解雇の対象となるか否かについては、結論が分かれています。ただし、バス運転手やタクシー運転手等は、当該労働者が日頃業務として自動車の運転に携わる者ということから、その他の職種よりも厳しい判断となっています。笹谷タクシー事件(最高裁第一小法廷昭和53年11月30日判決)は、タクシー運転手の職場外での飲酒運転により生じた衝突事故について、飲酒運転の車両に同乗していた先輩運転手に対する懲戒解雇を有効としています。このケースは、先輩運転手が後輩運転手に飲酒を勧めた上で、自動車を運転させたという事情、事故の発生により相手方が障害を負ったという事情が存在しますが、同乗者であっても懲戒解雇となり得ると示されたものです。また、ヤマト運輸事件(東京地裁平成19年8月27日判決)は、運送会社の運転手が、業務終了後に自家用車を運転し、酒気帯び運転で検挙された事例において、物損等の発生の有無にかかわらず、懲戒解雇を有効としました。その他の職種については、解雇は、飲酒運転の原因、動機、態様、結果、影響だけでなく、従業員の飲酒運転の前後における態度や懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の従業員に与える影響、勤続年数等を考慮して判断されることになります。高知県事件(高松高裁平成23年5月10日判決)は、酒酔い運転により人身事故の危険性が高い物損事故を起こしたことと、動機に酌量の余地がないこと、飲酒検知結果への署名押印に拒否したこと、法定刑の上限に近い罰金80万円が科されていること等に照らして、懲戒免職処分を有効としました。他方、X庁懲戒免職処分取消請求事件(東京地裁平成26年2月12日判決)では、X庁の職員が酒酔い運転を行ったケースで、走行距離が94メートル程度と短いこと、人損事故も物損事故も発生させていないこと、動機に悪質性がないこと、懲戒処分歴がないこと等から、懲戒免職処分を無効と判断しました。

2.痴漢、破廉恥罪
 痴漢、破廉恥罪に対しても、懲戒処分が多く行われています。小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)では、度重なる電車内での痴漢行為により度々罰金刑に処されており、会社からも昇給停止・降職処分を受けていたにもかかわらず、再び痴漢行為を行い、懲役4月執行猶予3年に処された従業員に対する懲戒解雇を有効としました。他方、東京メトロ事件(東京地裁平成27年12月25日判決)では、電鉄会社の社員が痴漢行為を行ったケースについて、略式命令で罰金20万円の支払が命じられたことにとどまること、行為の悪質性が比較的低いこと、マスコミ報道がなされなかったこと等を理由に、諭旨解雇を無効としました。
 このように、痴漢・破廉恥罪に対する懲戒処分においても、痴漢行為の具体的な態様や悪質性、従業員の勤務態度等の具体的事情を考慮することが重要となってきます。

3.その他の犯罪行為
 その他の犯罪行為を行った従業員に対する処分について、国鉄中国支社事件(最高裁第一小法廷昭和49年2月28日判決)は、従業員の職場外の職務遂行に関係のない行為であっても、企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を毀損する恐れのあるものは、企業秩序による規制の対象になるとして、組合活動に関連した公務執行妨害行為を理由とする懲戒免職処分を有効としました。一方、日本鋼管事件(最高裁第二小法廷昭和49年3月15日判決)は、鉄鋼会社従業員が米軍基地拡張反対の示威行動の中で逮捕・起訴されたことが「不名誉な行為をして会社の対面を著しく汚したとき」に該当するとして、懲戒解雇ないし諭旨解雇された事件について、「従業員の不名誉な行為が会社の対面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務妨害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等の諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」との判断基準を示した上で、従業員3万名を擁する大企業の一工員のそのような行為が、会社の対面を著しく汚したとは認められないとして、解雇を無効としました。

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