労働問題72 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額を教えて下さい。

この記事の要点

バックペイは「解雇されなかったならば確実に支給されたであろう賃金の合計額」です。通勤手当・残業代は原則不要。賞与は金額確定可能な場合は含まれ得ます。

解雇が無効と判断された場合に使用者が負担しなければならない賃金の算定には、基本給・各種手当・賞与の扱い・中間収入の控除等の複数の論点があります。正確な金額の把握のためには弁護士への相談が不可欠です。

基本的な計算式:解雇されなかったならば確実に支給されたであろう賃金の合計額

解雇当時の基本給等を基礎に算定。各種手当・賞与を含めるか・中間収入を控除するか等が問題となります。


通勤手当は原則不要・残業代は原則不要・賞与は確定できれば含まれ得る

通勤手当(実費保障)と残業代は通常バックペイに含まれません。ただし確実に支給された残業代・確定できる賞与は含まれる可能性があります。


中間収入:平均賃金の40%超える部分のみ控除可能。失業手当は控除不可

他社で働いた中間収入は控除できますが、平均賃金の60%は最低保障されます(労基法26条)。失業手当は控除対象外です。

1. バックペイの基本的な計算方法

「解雇されなかったならば確実に支給されたであろう賃金」

 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は、当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。解雇当時の基本給等を基礎に算定されますが、各種手当・賞与を含めるか、解雇期間中の中間収入を控除するか、所得税等を控除するか等が問題となります。

2. 各賃金項目の取扱い

通勤手当:実費保障的性質の場合は不要

 通勤手当が実費保障的な性質を有する場合は、実際に通勤していないのですから、通勤手当について負担する必要はありません。解雇期間中は実際に通勤していないため、実費補償分は不要とされます。

残業代:通常は不要だが例外あり

 残業代は、時間外・休日・深夜に勤務して初めて発生するものですから、通常は負担する必要がありません。解雇期間中は実際に時間外労働等をしていないからです。ただし、一定額の残業代が確実に支給されたと考えられる場合(例えば毎月一定の時間外労働が不可欠な職種等)には、残業代についても支払を命じられる可能性があります。

賞与:金額確定できる場合は含まれ得る

 賞与の支給金額が確定できない場合は、解雇が無効と判断されても支払を命じられません。しかし、支給金額が確定できる場合(例えば就業規則等で支給額が明確に定められている場合等)は、賞与についても支払が命じられることがあります。

3. 中間収入の控除ルール(平均賃金の40%ルール)

中間収入の控除の基本ルール

 解雇された社員に解雇期間中の中間収入(他の事業場で働いて得た収入)がある場合は、その収入があったのと同時期の解雇期間中の賃金のうち、同時期の平均賃金の60%(労基法26条)を超える部分についてのみ控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁第二小法廷昭和37年7月20日判決、あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。

 つまり、どれだけ中間収入があっても、平均賃金の60%(労基法26条の休業手当相当額)は最低限支払わなければならないのです。

中間収入が平均賃金の40%を超える場合の追加控除

 中間収入の額が平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額を対象として控除することができます(いずみ福祉会事件最高裁第三小法廷平成18年3月28日判決)。

具体的な計算例

 解雇期間中の賃金が月額30万円、平均賃金も月額30万円と仮定した場合の計算例です。

 中間収入が平均賃金の40%(12万円)を超えない場合:例えば他社で毎月10万円を稼いでいた場合には、30万円−10万円=20万円の賃金を毎月支払えば足ります。

 中間収入が平均賃金の40%(12万円)を超える場合:例えば他社で毎月25万円を稼いでいた場合には、30万円−25万円=5万円の賃金を毎月支払えば足りることにはならず、平均賃金の60%(18万円)を毎月支払わなければなりません。ただし、平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)がある場合には、その全額を対象として控除することができます。

控除できる中間収入の時期的対応要件

 控除しうる中間収入は、その発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることが必要であり、時期が異なる期間内に得た収入を控除することは許されません(あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。

失業手当は控除できない

 解雇期間中に失業手当を受給していたとしても、失業手当額は控除してもらえません。失業手当は雇用保険から支給されるものであり、中間収入(他社での就労による収入)とは性質が異なるからです。

✕ よくある経営者の誤解

「解雇期間中に失業手当を受け取っているのだから、その分は引いていい」→ 誤りです。
失業手当はバックペイから控除できません。失業手当は雇用保険から支給されるものであり、中間収入(他社での就労収入)とは別に扱われます。

「解雇期間中に他社でたくさん稼いでいるのだから、バックペイはゼロでいい」→ 誤りです。
中間収入がいくら多くても、平均賃金の60%は最低限支払わなければなりません。0円にすることはできません。

 解雇が無効とされた場合の負担金額の試算・中間収入控除の適用可否・早期和解の方針について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

4. まとめ

 解雇が無効と判断された場合に使用者が負担しなければならない金額は、当該社員が解雇されなかったならば確実に支給されたであろう賃金の合計額です。通勤手当(実費保障)と残業代は通常不要ですが、賞与は金額が確定できる場合は含まれ得ます。解雇期間中の中間収入(他社での就労収入)は、平均賃金の60%を超える部分のみ控除でき(労基法26条)、いかなる場合も平均賃金の60%は最低限支払わなければなりません。失業手当は控除対象外です。具体的な金額の算定には複数の論点があるため、弁護士と協議しながら対応することをお勧めします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

 

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最終更新日 2026/04/05

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