労働問題73 解雇が無効と判断された場合に支払う賃金(バックペイ)から、解雇された労働者が解雇期間中に他社で働いて得た収入(中間収入)や失業手当を控除することはできませんか?
中間収入は「平均賃金の60%を超える部分」のみ控除可能です。失業手当は控除不可。いかなる場合も平均賃金の60%は最低支払義務があります。
解雇期間中の中間収入(他社就労収入)はバックペイから一定範囲で控除できますが、平均賃金の60%は最低保障されます(労基法26条)。失業手当は性質が異なるため控除対象外です。
■ 中間収入の控除①:月例賃金のうち平均賃金60%超過分(40%相当)
中間収入がある場合、月例賃金のうち平均賃金の60%を超える部分(40%相当)が控除対象となります。平均賃金の60%は必ず支払わなければなりません。
■ 中間収入の控除②:40%を超える場合は賞与等の全額も追加控除可
中間収入が平均賃金の40%を超える場合には、さらに平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額も控除対象となります(いずみ福祉会事件最高裁判決)。
■ 失業手当:控除不可。副業収入も特段の事情がなければ控除可
失業手当は性質が異なるため控除不可。ただし副業収入は「解雇がなくても取得できた」特段の事情があれば控除対象外となります。
目次
1. 中間収入の控除の基本的なルール
控除できる中間収入の範囲(最高裁判決の基準)
解雇期間中の中間収入(他社で働いて得た収入)がある場合、その収入が副業収入のようなものであって解雇がなくても取得できた(自社の収入と両立する)といった特段の事情がない限り、
①月例賃金のうち平均賃金の60%(労基法26条)を超える部分(平均賃金額の40%)
②平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額(中間収入が平均賃金の40%を超える場合)
が控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁第二小法廷昭和37年7月20日判決、あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決、いずみ福祉会事件最高裁第三小法廷平成18年3月28日判決)。
つまり、いかなる場合も平均賃金の60%(労基法26条の休業手当相当額)は最低限支払わなければなりません。中間収入がいくら高額でも0円にはできません。
控除には「時期的対応」が必要
控除しうる中間収入は、その発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることが必要であり、時期が異なる期間内に得た収入を控除することは許されません(あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。例えば4月分の中間収入は4月分のバックペイからしか控除できず、5月分のバックペイから控除することはできません。
2. 具体的な計算例
計算例(月額賃金30万円・平均賃金30万円の場合)
解雇期間中の賃金が月額30万円、平均賃金も月額30万円と仮定して説明します。
ケース①:中間収入が12万円(平均賃金の40%以下)の場合
中間収入10万円を他社で稼いでいた場合→30万円−10万円=20万円の賃金を毎月支払えば足ります。
ケース②:中間収入が12万円(平均賃金の40%)を超える場合
中間収入25万円を他社で稼いでいた場合→30万円−25万円=5万円では足りず、平均賃金の60%(18万円)を毎月支払わなければなりません。ただし、平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)がある場合には、その全額を対象として控除することができます。
3. 失業手当・副業収入の取扱い
失業手当:控除不可
解雇期間中に失業手当を受給していたとしても、失業手当額はバックペイから控除してもらえません。失業手当は雇用保険から支給されるものであり、中間収入(他社での就労による収入)とは性質が異なるからです。失業手当を控除できると勘違いしている経営者が多いため、特に注意が必要です。
副業収入:特段の事情があれば控除対象外
中間収入について、その収入が「副業収入のようなものであって解雇がなくても取得できた(自社の収入と両立する)」といった特段の事情がある場合は、控除の対象となりません。例えば、解雇前から副業として行っていたアルバイト収入等は、解雇がなくても取得できたものとして控除対象外となる可能性があります。
✕ よくある経営者の誤解
「失業手当をもらっているのだから、その分差し引いていい」→ 誤りです。
失業手当は雇用保険から支給されるものであり、バックペイから控除することはできません。
「解雇期間中に他社でたくさん稼いでいるから、バックペイは0円でいい」→ 誤りです。
中間収入がいくら多くても、平均賃金の60%は最低限支払わなければなりません。0円にはできません。
「去年の中間収入を今年のバックペイと相殺できる」→ 誤りです。
中間収入の控除は時期的対応が必要であり、発生時期の異なるバックペイとの相殺はできません。
バックペイの算定・中間収入控除の適用可否・早期和解の方針について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
4. まとめ
解雇が無効と判断された場合、バックペイから中間収入(他社就労収入)を一定範囲で控除できます。控除できるのは①月例賃金のうち平均賃金の60%を超える部分(40%相当)、②中間収入が平均賃金の40%を超える場合に賞与等の全額、です(米軍山田部隊事件・あけぼのタクシー事件・いずみ福祉会事件各最高裁判決)。いかなる場合も平均賃金の60%は最低支払義務があります。失業手当は控除対象外です。中間収入の控除には時期的対応(同月内の対応)が必要です。具体的な計算は複数の論点があるため、弁護士と協議しながら対応することをお勧めします。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05