労働問題703 労働審判と訴訟の同時提起は可能?弁護士が教える二重起訴のリスクと実務運用
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同時提起自体は禁止されていないが、最終的には一つの訴訟に整理される 同一の紛争について労働審判と訴訟を同時に利用すること自体は、法令上禁止されていません。もっとも、同一の争点が二重に審理され続けることは予定されておらず、裁判所による調整を経て、最終的には一つの手続に集約されます。 |
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訴訟の中止(労働審判法27条)と二重起訴の禁止(民訴法142条)で重複を回避 訴訟が係属していれば、労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止できます。手続が重複したまま訴訟へ移行した場合には、二重起訴の禁止により、後から係属した訴えが却下されます。 |
目次
同一の労働紛争について、労働審判と通常訴訟を同時に利用すること自体は、法令上禁止されていません。どの紛争解決手続を選択するかは当事者の自由に委ねられており、労働審判と訴訟を並行して申し立てることも制度上は可能です。もっとも、同一の争点が二重に審理され続けることは予定されておらず、仮に同時に手続が開始されても、裁判所による調整を経て、最終的には一つの訴訟手続へ集約される仕組みになっています。
会社側専門の弁護士の立場から、労働審判と訴訟が並行する場合の実務運用と、会社が押さえておくべき対応を解説します。
01労働審判と訴訟の同時提起は法令上可能
労働審判と訴訟のいずれを先に、あるいは同時に利用するかは、当事者の選択に委ねられています。ただし、同一の紛争について複数の判断が並立すれば、結論の矛盾や手続の混乱を招き、当事者双方および裁判所にとって過大な負担となります。そのため、実務上は、いずれかの手続を優先させ、最終的には一つの手続に集約する方向で運用されます。会社側としては、「同時提起はあり得る」という前提を持ちつつ、最終的には一つの訴訟手続に統合される仕組みであることを理解し、その過程でどの手続が主導権を握るのかを見極めることが重要です。
02裁判所による訴訟手続の中止(労働審判法27条)
労働審判手続の申立てがあった事件について、既に訴訟が係属しているときは、受訴裁判所は、労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができます(労働審判法27条)。
これは、労働審判が原則3回以内の期日で迅速な解決を目指す制度であることを踏まえ、まずは労働審判での話し合いや審判による解決を図り、それが成立しなかった場合に訴訟を再開させる方が効率的である、という考え方によるものです。会社側としては、訴訟が中止された場合には、当面は労働審判の手続に対応しつつ、その結果次第で訴訟が再開し得ることを見据えて準備を進めることになります。
03民事保全・支払督促との関係
もっとも、すべての手続が労働審判に優先して調整されるわけではありません。民事保全(賃金の仮払いを求める仮処分など)や支払督促については、労働審判とは性質が異なるため、原則として中止されずに並行して進行します。これらの手続は、緊急性を要する場面や迅速な債権回収を目的とする制度であり、迅速性・実効性が特に重視されるためです。
経営者が見落としやすいポイント
労働審判だけに対応していれば足りるとは限りません。賃金の仮払仮処分などの民事保全や支払督促は、労働審判が係属していても中止されずに並行して進むことがあります。特に仮処分は、賃金の仮払いを命じられれば直ちに支払義務が生じるため、労働審判とは別に、迅速な対応が必要になる点に注意が必要です。
04二重起訴のリスクと後発訴えの却下(民訴法142条)
労働審判と訴訟が並行して進められた場合に、会社側が特に注意すべきなのが、労働審判終了後に生じ得る「二重起訴」の問題です。同一の当事者間で、同一の事件について複数の訴訟が同時に係属することは、民事訴訟法142条により禁止されています。これがいわゆる二重起訴(重複起訴)の禁止です。
労働審判との関係で問題となるのは、労働審判に対する異議申立てにより、労働審判事件が通常訴訟へ移行した場合です。このとき、すでに別途、同一内容の訴訟が提起されていると、結果として同一の紛争について二つの訴訟が並立する状態になります。このような状態は認められないため、裁判所は手続の整理を行い、最終的には一つの訴訟へ集約することになります。実務上は、まず裁判所が原告(労働者側)に対して、重複する訴えの一方を取り下げるよう促し、これに応じない場合には、後から係属した訴えが不適法として却下されることになります。
05会社側が押さえておくべき対応
同時提起の段階では問題がなくても、手続の進行に伴って二重起訴の問題が顕在化する可能性があります。会社側としては、複数の手続が並行している場合であっても、最終的にどの手続が残るのかを見極めながら対応する必要があります。どの手続を維持するかによって、解決の方向性や戦略が変わることもあるため、単なる形式的な問題として捉えるのではなく、経営判断として慎重に対応することが求められます。複数の手続を申し立てられ、対応に苦慮する場合には、優先順位の判断を含めて、早期に会社側専門の弁護士に相談することをお勧めします。
06よくある質問(FAQ)
Q. 労働審判と裁判(訴訟)を同時に起こされた場合、両方に対応する必要がありますか。
制度上、同時提起は可能です。ただし、訴訟が係属している場合、裁判所は労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができます(労働審判法27条)。最終的に労働審判から訴訟へ移行した際に二重起訴とならないよう、手続が整理されます。
Q. 仮処分(民事保全)と労働審判も同時に進むのでしょうか。
民事保全(賃金の仮払いなど)や支払督促については、労働審判が係属しても中止されないのが通例です。緊急性を要する手続であるため、労働審判と並行して進む可能性があります。労働審判とは別に対応を検討する必要があります。
Q. 二重起訴として却下されるのはどのような場合ですか。
労働審判から移行した訴訟と、別途提起していた訴訟とが重複する場合に、後から係属した方の訴えが不適法として却下されます(民事訴訟法142条)。実務上は、まず一方の取下げが促され、応じない場合に却下されることになります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判と訴訟など複数の手続への対応でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日