労働問題703 労働審判と訴訟の同時提起は可能?弁護士が教える二重起訴のリスクと実務運用
この記事の結論同時提起は可能ですが、最終的には「一つの訴訟」に統合されます
同一の紛争で労働審判と訴訟を同時に進めることは法令上禁止されていません。しかし、実務上は「訴訟の中止」や「二重起訴による却下」といった仕組みがあり、無意味な重複審理は回避されるよう設計されています。
- ■ 手続きの選択は自由: 労働審判と訴訟、どちらを先に、あるいは同時に利用するかは当事者の自由です。
- ■ 訴訟手続の中止: 労働審判が申し立てられた場合、係属中の訴訟は審判終了までストップするのが一般的です。
- ■ 二重起訴の不適法却下: 手続きが重複したまま訴訟へ移行した場合、後発の訴えは裁判所によって却下されます。
1. 労働審判と訴訟の同時提起は「法令上可能」
同一の労働紛争について、労働審判と通常訴訟を同時に利用すること自体は、法令上禁止されていません。どの紛争解決手続を選択するかは当事者の自由に委ねられており、労働審判と訴訟を並行して申し立てることも制度上は可能です。
もっとも、会社経営者として理解しておくべき重要な点は、同一の争点が二重に審理され続けることは予定されていないということです。仮に同時に手続が開始されたとしても、そのまま並行して結論まで進むのではなく、裁判所による調整が行われます。
その理由は、同一の紛争について複数の判断が並立すれば、結論の矛盾や手続の混乱を招き、当事者双方および裁判所にとって過大な負担となるためです。したがって、実務上は、いずれかの手続を優先させ、最終的には一つの手続に集約する方向で運用されることになります。
会社経営者としては、「同時提起はあり得る」という前提を持ちつつも、最終的には一つの訴訟手続に統合される仕組みであることを理解し、その過程でどの手続が主導権を握るのかを見極めることが重要です。
2. 裁判所による「訴訟手続の中止」
労働審判手続が申し立てられた事件について、既に通常訴訟が裁判所に係属している場合、裁判所は「労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止」することができます。
労働審判は原則3回以内の期日で迅速な解決を目指す制度であるため、まずは労働審判での話し合いや審判による解決を図り、それが成立しなかった場合に訴訟を再開させる方が効率的であるという判断がなされるためです。裁判所は申立書の記載等から他手続きの有無を確認し、必要に応じて情報の収集・調整を行います。
民事保全や支払督促との関係
もっとも、すべての手続が労働審判に優先して調整されるわけではありません。民事保全(仮処分)や支払督促については、労働審判とは異なる性質を有するため、原則として中止されずに並行して進行します。
これらの手続は、賃金の仮払いなどの緊急性を要する場面や、迅速な債権回収を目的とする制度であり、迅速性・実効性が特に重視されるという特徴があります。そのため、労働審判の進行状況にかかわらず、独立して処理されるのが実務上の取扱いです。
会社経営者としては、労働審判だけに対応していれば足りるわけではなく、仮処分や支払督促が並行して進む可能性があることを前提に、複数手続への対応を同時に検討する必要がある点に注意が必要です。
3. 労働審判終了後の「二重起訴」リスクと不適法却下
労働審判と訴訟が並行して進められた場合、会社経営者として特に注意すべきなのが、労働審判終了後に生じる「二重起訴」の問題です。手続の段階が進むにつれて、複数の訴訟が形式上重複する状態となり、最終的にはその整理が必要となります。
二重起訴の禁止(民訴法142条)
同一の当事者間で、同一の請求内容について複数の訴訟が同時に係属することは、**民事訴訟法142条により禁止されています。**これがいわゆる「二重起訴の禁止」です。
労働審判との関係で問題となるのは、労働審判に対する異議申立てにより、労働審判事件が通常訴訟へ移行した場合です。このとき、すでに別途同一内容の訴訟が提起されていると、結果として同一の紛争について二つの訴訟が並立する状態となります。
このような状態は制度上認められないため、裁判所は手続の整理を行い、最終的には一つの訴訟に集約されることになります。
会社経営者としては、同時提起の段階では問題がなくても、手続の進行に伴って二重起訴の問題が顕在化する可能性がある点を理解しておくことが重要です。
後発の訴えは不適法却下へ
二重起訴の状態が生じた場合、裁判所はそのまま両方の訴訟を進行させるのではなく、時間的に後から係属した訴えを不適法として処理することになります。
実務上は、まず裁判所が原告(従業員側)に対して、重複している訴えの一方を取り下げるよう促す対応が取られます。しかし、これに応じない場合には、後発の訴えが不適法として却下されることになります(民事訴訟法142条・140条)。
会社経営者として重要なのは、この仕組みにより、最終的には手続が一つの訴訟に整理されるという点です。したがって、複数の手続が並行している場合であっても、どの手続が最終的に残るのかを見極めながら対応する必要があります。
また、この整理の過程では、どの手続を維持するかによって戦略や解決の方向性が変わる可能性もあるため、単なる形式的な問題として捉えるのではなく、経営判断として慎重に対応することが求められます。
重複する手続きに関するよくある質問
Q1. 労働審判と裁判(訴訟)を同時に起こされた場合、両方に対応する必要がありますか?
A1. はい、制度上は同時提起が可能です。ただし、裁判所は混乱を避けるため、労働審判が終わるまで訴訟の方を「中止」させることが一般的です。最終的に労働審判から訴訟へ移行した際に「二重起訴」にならないよう調整されます。
Q2. 仮処分(民事保全)と労働審判も同時に進むのでしょうか?
A2. 民事保全(賃金の仮払いなど)や支払督促については、労働審判が係属しても中止されないのが通例です。緊急性を要する手続きであるため、労働審判と並行して進む可能性が高いと考えられます。
Q3. 二重起訴として却下されるのはどのような場合ですか?
A3. 労働審判から移行した訴訟と、別途提起していた訴訟が重複する場合、後から提起された方の訴えが「不適法」として却下されます(民訴法142条・140条)。
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最終更新日 2026/03/19
監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。