労働問題702 労働審判の申立てが却下されるケースとは?弁護士が教える不適法な申立てへの対応

 

この記事の結論

申立てが「適法」かどうかの見極めが防衛の第一歩です

労働審判が申し立てられても、すべてのケースで本案審理が進むわけではありません。手続きが不適法な場合は「門前払い(却下)」となります。経営側としては、この入口の要件を正確に把握することで、不要な争いを回避できる可能性があります。

  • 「不適法な申立て」は決定で却下: 個別労働紛争に該当しない場合や、当事者能力がない場合が典型例です。
  • 「申立書の不備」による却下命令: 手数料の未納や、請求内容の特定ができない場合に下されます。
  • 補正のチャンスが与えられる: 即座に却下されるのではなく、裁判所はまず補正を促す運用を行っています。

1. 労働審判の申立てが「不適法」とされるケース

 労働審判の申立てであっても、一定の場合には審理に入る前の段階で排除されることがあります。裁判所は、申立てが法律上の要件を満たしていないと判断した場合、実体的な判断に進むことなく決定によって申立てを却下します。会社経営者にとっては、いわば「入口段階での審査」によって手続が終了する可能性がある場面です。

 もっとも、このような却下は限定的にしか認められず、単に主張内容に争いがある、あるいは請求が弱いといった理由では足りません。あくまで、制度の対象外である、または手続として成立していない場合に限られる点を正確に理解する必要があります。

個別労働関係民事紛争に当たらない場合

 労働審判の対象となるのは、個々の労働者と会社との間の「個別労働関係民事紛争」に限られます。そのため、この枠組みに該当しない紛争については、そもそも労働審判手続を利用することができません。

 例えば、労働組合と会社との間の集団的な紛争や、制度上別の手続で処理されるべき問題については、労働審判の対象外として申立てが却下される可能性があります。

 会社経営者としては、「労働問題であればすべて労働審判で扱われるわけではない」という点を理解し、紛争の性質によって手続の適否が判断されることを押さえておく必要があります。

当事者能力・行為能力の欠如

 申立てが有効に成立するためには、申立人が法的に当事者として認められる地位(当事者能力)および、手続を適切に行う能力(行為能力)を備えている必要があります。

 これらを欠く場合には、手続の前提自体が成立しないため、申立ては不適法として却下されることになります。例えば、法的主体として認められない形態での申立てや、適切な代理関係がないまま手続が行われている場合などが典型です。

 会社経営者としては、このようなケースは限定的ではあるものの、形式的な適法性が欠けている場合には審理に進まない可能性がある点を理解しておくことが重要です。ただし、実務上は多くの申立てが形式を整えて提出されるため、過度に期待するのではなく、通常どおりの対応準備を進めることが現実的といえます。

2. 裁判所による補正命令の機会

 申立てに不備がある場合であっても、裁判所が直ちに却下するとは限りません。実務上は、その不備が修正可能であると判断される場合、裁判所は申立人に対して一定期間内に不備を是正するよう求める「補正命令」を出します。

 この補正命令は、手続の適正を確保しつつ、申立人に是正の機会を与えるための制度であり、軽微な形式的不備であれば手続は継続される余地があることを意味します。したがって、会社経営者としては、申立書に不備が見られたとしても、それだけで手続が終了すると判断するのは適切ではありません。

 申立人が補正命令に従い、期間内に不備を修正した場合には、申立ては適法なものとして扱われ、通常どおり審理が進行します。一方で、補正に応じない、あるいは不十分な補正にとどまる場合には、はじめて不適法として却下される可能性が現実化します。

 会社経営者として重要なのは、この補正プロセスの存在により、一見不備のある申立てであっても最終的には審理に進むケースが多いという点です。そのため、形式的な欠陥に着目して対応を遅らせるのではなく、補正後の審理を見据えた準備を同時に進めることが実務上不可欠となります。

3. 却下決定に対する「即時抗告」

 裁判所が申立てを不適法として却下した場合であっても、それで直ちに紛争が完全に終了するわけではありません。申立人は、この却下決定に対して「即時抗告」という不服申立てを行うことが認められています。

 即時抗告が提起されると、上級の裁判所において、却下判断が適切であったかどうかが改めて審理されることになります。その結果、原決定が取り消され、再び労働審判手続が進行する可能性も否定できません。

 会社経営者として重要なのは、却下決定が出たとしても、それが確定するまでは紛争が継続している状態にあるという点です。特に、形式的な不備を理由とする却下の場合には、上級審で覆る可能性も一定程度存在します。

 したがって、「却下されたから終わり」と判断するのではなく、即時抗告の可能性も含めて次の展開を見据えた対応を検討することが重要です。労働審判は迅速な手続である一方、このような不服申立てによって手続が継続・発展する余地があることを、会社経営者として正確に理解しておく必要があります。

4. 申立書の形式的不備と手数料の未納

 労働審判では、申立て自体の適法性とは別に、申立書の形式や手続的要件が満たされているかどうかも厳格にチェックされます。これらに問題がある場合には、内容の当否に入る前に、申立書そのものが却下される可能性があります。

請求内容(権利関係)が特定できない場合

 申立書には、「どのような権利に基づいて何を求めているのか」を特定できる程度に、必要な事実を記載することが求められます。

 この点が不明確で、請求の内容や法的根拠が判別できない場合には、裁判所は審理の対象を特定できず、申立書は不適式として却下される可能性があります。

 会社経営者としては、申立書の記載が曖昧であっても直ちに安心するのではなく、最低限の特定がされている限りは審理に進む可能性がある点を踏まえて対応する必要があります。

申立手数料の未納

 労働審判の申立てには、収入印紙による手数料の納付が必要であり、これがなされていない場合には手続上の不備となります。

 この場合、裁判所は直ちに却下するのではなく、まず補正を命じますが、指定された期間内に手数料が納付されない場合には、申立書は却下されることになります。

 したがって、形式的な問題であっても、補正に応じない場合には手続自体が終了する可能性がある点を理解しておくことが重要です。

注意:具体的な「理由」の不足だけでは却下されない

 実務上、会社経営者が特に注意すべきなのは、主張内容が不十分であるという理由だけでは、申立書は却下されないという点です。

 たとえ事実関係の記載が薄く、根拠が乏しいと感じられる申立てであっても、形式的な要件を満たしている限り、手続はそのまま進行します。

 そのため、「内容が弱いから問題ない」と判断するのではなく、審理が進むことを前提に適切な反論準備を行うことが、会社経営者にとって現実的かつ重要な対応となります。

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

 弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

労働審判の却下に関するよくある質問

Q1. 労働組合との交渉トラブルは労働審判の対象になりますか?

A1. いいえ。労働審判は「個別労働関係民事紛争」を対象としています。労働組合と会社との間の紛争(団交拒否など)は集団的紛争に該当するため、労働審判を申し立てても不適法として却下される対象となります。

Q2. 申立書に事実誤認がある場合、すぐに却下されますか?

A2. 内容の正誤(事実誤認)だけでは即座に却下されることはありません。ただし、申立ての対象が特定できないような重大な不備がある場合は、裁判所から補正命令が出され、応じない場合には却下されることになります。

Q3. 却下された申立てに対して、申立人が反論することは可能ですか?

A3. はい。却下決定に対しては「即時抗告」という不服申し立ての手続きが認められています。経営側としては、一度却下されても再度の申立てや抗告が行われる可能性を考慮しておく必要があります。

 

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最終更新日 2026/03/19

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