労働問題693 労働審判手続の代理人は弁護士以外に認められるか?会社経営者が知るべき代理人選任の実務とリスク

1. 労働審判手続における代理人の原則

 労働審判手続における代理人の原則は、「弁護士でなければ代理人となることができない」という点にあります。これは、労働審判が裁判所における正式な司法手続であり、法律的判断を伴う高度な紛争処理制度であることに由来します。

 労働審判法は、「法令により裁判上の行為をすることができる代理人」のほかは、原則として弁護士に限り代理人となることができると定めています。つまり、通常の会社関係者や顧問税理士、社会保険労務士などが当然に代理人となれるわけではありません。

 ここで会社経営者が誤解しやすいのは、「社内事情を最も理解している役員や労務担当者が代理人を務めれば足りるのではないか」という発想です。しかし、労働審判は法的主張・立証を短期間で整理する必要がある手続であり、単なる事情説明の場ではありません。法的主張の構成と証拠評価の戦略設計が不可欠です。

 また、労働審判は原則3回以内の期日で終結する短期決戦型の制度であるため、初動段階から専門的対応が求められます。対応を誤れば、短期間で不利な心証が形成され、その後の訴訟移行にも影響を及ぼします。

 したがって、労働審判における代理人選任は単なる形式問題ではなく、経営上の重要な意思決定事項です。原則が弁護士代理であることの意味を正確に理解することが、適切な対応の出発点となります。

2. 「法令により裁判上の行為をすることができる代理人」とは

 労働審判手続では、原則として弁護士のみが代理人となることができますが、例外として「法令により裁判上の行為をすることができる代理人」は、弁護士でなくても代理人となることが認められています。

 これは、特別な資格を持つ専門家を意味するのではなく、法律上当然に本人を代理できる立場にある者を指します。たとえば、未成年者であれば親権者、成年被後見人であれば後見人がこれにあたります。

 会社との関係で重要なのは、法人の場合の代表者等です。具体的には、代表取締役、代表執行役、代表社員など、法律上その法人を代表する権限を有する者が該当します。また、一定の場合には支配人も含まれます。これらは、弁護士資格がなくても、法令に基づき裁判上の行為を行うことが認められています。

 もっとも、ここで注意すべきなのは、「法令上の代表権」があることと、「労働審判に適切に対応できること」は別問題であるという点です。代表権があれば形式的には代理可能であっても、短期間で法的主張を整理し、証拠構造を組み立てる能力が求められる点に変わりはありません。

 会社経営者としては、代表者自らが対応することの法的可否だけでなく、実務的な適切性とリスク管理の観点から判断する必要があります。労働審判は短期決戦型の手続であり、初動の質が結果を左右します。

3. 法人の場合に認められる法定代理人

 会社が労働審判の当事者となる場合、弁護士以外で代理人となり得るのは、法令上その法人を代表する権限を有する者に限られます。具体的には、代表取締役、代表執行役、代表社員などがこれに該当します。また、商法上の支配人も一定の場合に含まれます。

 これらの者は、法律上当然に法人を代表して裁判上の行為を行うことができるため、弁護士資格がなくても労働審判手続における代理人となることが可能です。もっとも、「代表権がある」という形式的要件を満たすことと、「適切に対応できる」という実質的要件は別問題です。

 労働審判は、短期間で争点整理と法的主張の構築を行う必要がある手続です。事実関係の評価、証拠の選別、法的構成の選択を誤れば、第1回期日で不利な心証が形成されるおそれがあります。代表者自らが対応する場合、その負担は極めて大きく、経営判断と法的判断を同時に迫られる構造になります。

 また、代表者が直接対応することで、感情的対立が深まり、柔軟な解決の余地が狭まることも少なくありません。労働審判は調停的要素が強い制度であるため、交渉戦略の設計も重要な要素となります。

 会社経営者としては、「自ら対応できるか」ではなく、「自ら対応すべきか」という観点で判断する必要があります。形式上可能であっても、実務上の合理性を欠く場合は、結果として企業リスクを拡大させかねません。

4. 弁護士でない者を代理人とする例外規定

 労働審判法は、原則として弁護士のみを代理人としつつも、例外として、**裁判所が許可した場合に限り、弁護士でない者を代理人とすることを認めています。**もっとも、この例外は極めて限定的に運用されています。

 条文上は、「当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるとき」に限り、裁判所が弁護士でない者の代理を許可できるとされています。つまり、単に当事者が希望すれば足りるものではなく、裁判所の許可が前提となります。

 実務上想定される例としては、会社側であれば労務担当取締役、労働者側であれば労働組合の執行委員などが挙げられます。しかし、これらの者が当然に認められるわけではありません。裁判所は、法的知識の有無、紛争の複雑性、手続の適正確保の観点などを総合考慮します。

 制度上は例外規定が存在するものの、実務では弁護士以外が正式代理人として認められるケースはほとんどありません。とりわけ会社側の場合、紛争の法的整理や証拠構造の構築が不十分であれば、短期間で不利な結論に至るリスクが高まります。

 会社経営者としては、「社内で対応できるのではないか」という発想に安易に傾くべきではありません。代理人選任は、単なるコスト問題ではなく、企業防衛の成否を左右する戦略判断です。

 当事務所では、弁護士以外の者を代理人とすることの可否判断、許可申立ての可能性検討、そして最適な代理体制の構築について具体的に助言しております。労働審判対応で迷われた段階で、速やかに法律相談をご利用いただくことを強くお勧めします。

5. 裁判所が許可するための要件

 弁護士でない者を労働審判手続の代理人とするためには、単に当事者が希望するだけでは足りず、裁判所の許可が必要です。そして、その許可が認められるためには、「当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当であること」という厳格な要件を満たさなければなりません。

 ここで重視されるのは、第一に当事者の権利利益の保護です。代理人が十分な法的理解や訴訟対応能力を備えていない場合、当事者の主張立証が不十分となり、実質的に不利益を被る可能性があります。裁判所は、このような事態を防ぐ観点から慎重に判断します。

 第二に、手続の円滑な進行が確保できるかが検討されます。労働審判は原則3回以内で終結する迅速手続であり、期日ごとに争点整理が進みます。法的理解が不足していれば、審理が混乱し、制度趣旨である迅速解決が損なわれます。

 会社経営者としては、「許可制度がある=活用できる」と短絡的に考えるべきではありません。許可が得られなければ、期日直前で体制変更を迫られるリスクもあります。

6. 実務上、弁護士以外の代理人が認められにくい理由

 労働審判法上は、裁判所の許可があれば弁護士以外の者を代理人とすることが可能とされています。しかし、**実務上その許可が認められるケースはほとんどありません。**会社経営者としては、この現実を前提に判断する必要があります。

 第一の理由は、労働審判が実質的に「準訴訟手続」であるという点です。短期間で争点整理を行い、証拠に基づいて法的評価を下し、場合によっては法的拘束力を持つ審判が出されます。単なる事情説明の場ではありません。法的構成を誤れば、その不利益は即座に顕在化します。

 第二に、労働審判は原則3回以内で終結する迅速手続であることから、期日ごとの対応密度が非常に高い点が挙げられます。主張の補充や証拠の差替えを悠長に行う余裕はなく、初動段階から完成度の高い準備が求められます。法的訓練を受けていない者では、この水準に対応することが困難です。

 第三に、裁判所は「当事者の権利利益の保護」を重視します。代理人の力量不足によって当事者が不利益を被ることを防ぐ観点から、許可判断は極めて慎重に行われます。特に会社側の場合、企業規模や紛争金額、法的論点の複雑性が考慮され、専門家による対応が前提視される傾向があります。

7. 労務担当役員や従業員を代理人にすることのリスク

 会社経営者の中には、「社内事情を最も理解しているのは労務担当役員や人事責任者であるから、その者を代理人にすれば足りるのではないか」と考える方も少なくありません。しかし、労務担当役員や従業員を正式代理人とすることには、重大なリスクが伴います。

 第一に、前述のとおり、弁護士でない者が代理人となるには裁判所の許可が必要です。そして、その許可が認められる可能性は極めて低いのが実情です。許可が得られない場合、期日直前で対応体制を変更せざるを得なくなり、準備のやり直しという事態も想定されます。

 第二に、仮に代表者として形式的に出頭できたとしても、法的主張の構成や証拠提出のタイミングを誤れば、初回期日で不利な心証が形成される危険があります。労働審判は短期決戦型の手続であり、後からの挽回は容易ではありません。

 第三に、社内担当者が前面に出ることで、感情的対立が激化しやすいという問題があります。労働審判は調停的要素を含む制度であるため、冷静な交渉戦略が不可欠です。当事者意識が強い社内担当者では、柔軟な解決判断が困難になることもあります。

8. 会社経営者が代理人選任で誤りやすいポイント

 労働審判に直面した際、会社経営者が最も陥りやすい誤りは、「自社の事情を一番理解している者が前面に立てば十分だ」という発想です。しかし、労働審判は事実説明の場ではなく、法的主張と証拠構造で勝敗が左右される手続です。

 第一の誤りは、「コスト削減」を優先して代理人選任を判断してしまうことです。確かに弁護士費用は経営上の負担ですが、不適切な対応によって不利な審判が下されれば、その経済的影響ははるかに大きくなります。代理人選任は費用対効果の問題ではなく、企業リスク管理の中核判断です。

 第二に、「代表者が出れば誠意が伝わる」という考え方です。誠意は重要ですが、労働審判では感情よりも法的整理が重視されます。むしろ代表者が前面に立つことで、経営判断と法的判断が混在し、冷静な解決戦略を損なう危険があります。

 第三に、「後から訴訟で争えばよい」と軽視する姿勢です。労働審判段階で形成された心証や主張構造は、その後の訴訟にも影響します。初期対応の不備は、後続手続でも不利に働き得ます。

9. 労働審判における代理人選任の経営判断

 労働審判における代理人選任は、単なる手続対応の問題ではありません。これは明確に、経営判断の問題です。誰を代理人とするかによって、紛争の進行速度、解決金水準、企業イメージへの影響、さらにはその後の訴訟戦略まで大きく左右されます。

 労働審判は、原則3回以内で終結する短期決戦型の制度です。そのため、初回期日までにどこまで主張と証拠を整理できるかが勝負を分けます。代理人の力量は、その準備水準を直接決定づけます。ここを誤れば、経営上想定していなかった水準での解決を迫られる可能性があります。

 また、代理人は単に法的主張を行う存在ではありません。調停段階においては、解決金の相場感、裁判所の心証形成の読み、譲歩のタイミングなど、戦略的判断が求められます。これは法的知識だけでなく、実務経験に裏付けられた交渉力の問題でもあります。

10. 会社経営者が取るべき現実的対応策

 労働審判における代理人の問題は、「弁護士以外が可能か」という法技術的論点にとどまりません。会社経営者として重要なのは、現実的に最も合理的な対応体制を構築することです。

 まず前提として、弁護士以外の者が正式代理人として認められる可能性は極めて低いという実務運用を直視すべきです。許可制度があるからといって、それを前提に体制を組むことは、企業防衛上きわめて不安定です。

 会社経営者としては、「法的に可能か」ではなく、「企業価値を守れるか」という視点で判断すべきです。労働審判は短期決戦型であり、初動段階での準備不足はそのまま解決金や審判内容に反映されます。対応の質は、結果の質に直結します。

 また、代理人選任と同時に重要なのが、社内情報の整理体制です。代理人に丸投げするのではなく、事実関係の整理、証拠収集、経営判断の基準設定を並行して行う必要があります。適切な外部専門家と内部体制の連携が、最も安定した防御力を生みます。

 当事務所では、労働審判の代理受任はもちろん、社内対応体制の設計、代表者の関与範囲の整理、将来の訴訟移行を見据えた戦略構築まで一体的に支援しております。労働審判の申立てを受けた場合、あるいは受ける可能性がある段階であっても、早期の法律相談が企業リスクの最小化につながります。

 代理人選任を「手続対応」と捉えるのではなく、「経営防衛戦略」として位置づけることが、会社経営者に求められる現実的な対応策です。

 

参考動画

 

労働審判対応について網羅的に知りたい方へ

 本FAQでは、労働審判に関する個別の論点や実務上のポイントを解説していますが、

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労働審判の対応

この同ページでは、
・労働審判の基本的な流れ
・第1回期日の重要性
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「労働審判を申し立てられたが、まず何から手を付けるべきか分からない」

「全体像を押さえたうえで戦略的に対応したい」
という場合に特に有益な内容となっています。

更新日2026/2/22

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