労働問題689 企画業務型裁量労働制の健康・福祉確保措置と苦情処理措置の決議内容【会社側弁護士が解説】
この記事の要点
- 健康・福祉確保措置は勤務状況の把握方法と具体的な措置内容の両方を決議で明確にする必要がある
- 実施状況は決議から6か月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回、労基署へ報告義務がある
- 苦情処理措置は窓口・担当者・対象範囲・処理手順など具体的な内容を明らかにすることが必要
- 報告義務の失念は行政指導のリスクにつながるため、定期的な報告体制の整備が不可欠
企画業務型裁量労働制の健康・福祉確保措置と苦情処理措置の決議内容【会社側弁護士が解説】
1健康・福祉確保措置の決議内容
企画業務型裁量労働制を導入するにあたり、労使委員会では健康・福祉確保措置について決議する必要があります。
「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(以下「指針」)では、健康・福祉確保措置は次の①②の両方に該当する内容のものであることが必要とされています。
① 使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法として、当該対象事業場の実態に応じて適当なものを具体的に明らかにしていること
② ①により把握した勤務状況に基づいて、対象労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするものであること
①②はいずれも必須であり、片方だけでは要件を満たしません。特に②の「具体的内容」が抽象的すぎる場合は、指針の「具体的に明らかにする事項」に反するとして制度の効果が生じないリスクがあります。
2勤務状況の把握方法について
勤務状況の把握方法は、いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等を明らかにし得るものであることが必要とされています。
指針では、具体的な方法として出退勤時刻または入退室時刻の記録等によるものであることが示されています。
把握方法の例:
・入退室時刻の記録(ICカード、指紋認証等)
・タイムカードによる出退勤管理
・パソコンのログイン・ログアウト記録
・業務日報による在社時間の把握
裁量労働制であっても労働時間の実態を把握する義務は免除されません。むしろ、適正な制度運用のためにも、勤務状況の把握は会社側の重要な義務といえます。
3健康・福祉確保措置の具体的内容
把握した勤務状況に基づいて講ずる健康・福祉確保措置の内容は、事業場の実態に応じて適切に定める必要があります。代表的な措置の例としては以下のものがあります。
- 長時間労働者に対する産業医等による面接指導
- 所定労働時間を超えた在社時間が一定時間を超えた場合の上長への通知・面談
- 年次有給休暇の取得促進
- 代替休暇の付与
- 定期健康診断の実施・フォローアップ
「具体的にいかなる状況のときに、どのような措置を講ずるか」を決議で明確化することが重要です。抽象的な記載は指針違反と判断されるリスクがあります。
4労基署への定期報告義務
健康・福祉確保措置については、法定の報告義務があります(労基法38条の4第4項、労基法施行規則24条の2の5)。
| 報告のタイミング | 提出先・様式 |
|---|---|
| 決議がなされた日から起算して6か月以内に1回 | 所轄労働基準監督署長宛/様式第13号の4 |
| その後1年以内ごとに1回 | 所轄労働基準監督署長宛/様式第13号の4 |
報告内容は、対象労働者の労働時間の状況ならびに健康及び福祉を確保するための措置の実施状況です。この報告義務を失念しているケースが実務上多く見られます。社内でのスケジュール管理体制を整備しておくことが重要です。
5苦情処理措置の決議内容
指針では、苦情処理措置として以下の事項を具体的に明らかにすることが求められています。
・苦情の申出の窓口および担当者
・取り扱う苦情の範囲
・処理の手順・方法等その具体的内容
苦情処理措置は、裁量労働制の適用を受ける対象労働者が制度の運用に不満や問題を感じた際に申し出ることができる仕組みを整備するものです。対象労働者の権利を守るとともに、制度の適正運用を確保するための重要な仕組みです。
「窓口は人事部とする」という程度の記載では不十分とされる可能性があります。具体的な担当者名(または役職)・連絡先・受付方法・処理の流れ・回答期限等を明確に定めることが望ましいです。
6経営者として押さえるべき実務上の注意点
健康・福祉確保措置と苦情処理措置は、単に形式的に決議すればよいものではありません。実態として機能する仕組みを整備することが重要です。
- 勤務状況の把握方法が実際に機能しているか定期的に確認する
- 健康・福祉確保措置が形骸化していないか上長に確認する体制を作る
- 苦情処理の窓口が実際に機能しているか確認し、申出があった場合は迅速に対応する
- 労基署への定期報告をスケジュール管理して漏れなく実施する
これらが適切に運用されていない場合、労働者から「裁量労働制が適法に機能していない」と主張される根拠になり得ます。法的リスクの観点からも、制度の実態的な運用管理が不可欠です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。労働問題(使用者側)を中心に、企業法務全般を取り扱う。日本全国の会社経営者・人事担当者からのご相談に対応しております。
企画業務型裁量労働制の健康・福祉確保措置と苦情処理措置は、制度の適法な運用に欠かせない要素です。形式的な整備にとどまらず、実態として機能する体制づくりを会社側弁護士としてサポートいたします。日本全国各地の会社経営者の皆様からのご相談をお待ちしております。
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最終更新日:2026年5月28日