労働問題688 企画業務型裁量労働制の対象労働者の範囲とみなし労働時間の決議方法【会社側弁護士が解説】

この記事の要点

  • 対象労働者は職務経験年数・職能資格等の具体的な基準を明らかにして決議する必要がある
  • 新卒など職務経験のない者は対象外が原則。最低3〜5年の経験が目安とされている
  • みなし労働時間は1日ごとの時間数として具体的に定めることが行政解釈上必要
  • みなし時間の設定に際しては、評価制度・賃金制度との整合性を委員が十分確認することが求められる

企画業務型裁量労働制の対象労働者の範囲とみなし労働時間の決議方法【会社側弁護士が解説】

1対象労働者の定義と基本的な考え方

企画業務型裁量労働制における「対象労働者」とは、対象業務を適切に遂行するための知識・経験等を有する労働者であって、使用者が対象業務に就かせる者をいいます。

この対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則とされています。一時的・補助的に対象業務に関与するだけでは足りず、主たる業務として従事していることが必要です。

2対象労働者の範囲の決議に必要な具体的基準

対象業務を適切に遂行するための知識・経験等を有する労働者の範囲は、対象業務ごとに異なり得るものです。そのため、対象労働者となり得る者の範囲を特定するために必要な職務経験年数・職能資格等の具体的な基準を明らかにすることが必要とされています。

具体的な基準の例:
・〇〇業務に関する職務経験○年以上
・△△検定○級以上の資格保有者
・特定の職能資格(例:課長職以上の職能等級)を有する者

漠然とした基準では要件を満たさず、制度の有効性が争われた際に問題となる可能性があります。具体的な基準を明確に定めることが重要です。

3新卒・経験の浅い従業員への適用

「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(以下「指針」)では、以下のように定められています。

「例えば、大学の学部を卒業した労働者であって全く職務経験がないものは、客観的にみて対象労働者に該当し得ず、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た上で、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかどうかの判断の対象となり得るものであることに留意することが必要である。」

このため、入社直後や職務経験の浅い従業員に企画業務型裁量労働制を適用することは、制度の有効性という観点から問題があります。

4知識・経験のない労働者を含めた場合の帰結

客観的にみて対象業務を適切に遂行するための知識・経験等を有しない労働者を含めて決議した場合、使用者が当該労働者を対象業務に就かせても企画業務型裁量労働制の労働時間みなしの効果は生じません

この場合、対象外とされた労働者については、実際の労働時間に基づいて割増賃金(時間外・深夜・休日)を支払う義務が生じることになります。後から未払い残業代として請求されるリスクがあるため、対象労働者の適切な選定は非常に重要です。

5みなし労働時間の決議方法

対象労働者の労働時間として算定される時間(みなし労働時間)についての決議が必要です。

指針や行政解釈(平成12年1月1日基発1号)では、みなし労働時間は「1日についての対象労働者の労働時間数として具体的に定められたもの」である必要があるとされています。

【学説上の論点】
菅野『労働法』(第十版)380頁は、裁量労働制が1日及び1週の法定労働時間の特則として設けられた制度であることから、「1日」の労働時間のみならず「1週」の労働時間についてもみなし時間数を設定できると解すべきとする見解を示しています。

実務上は行政解釈に従い「1日」ごとのみなし時間を設定しておくのが安全です。法定労働時間(1日8時間)を超えるみなし時間を設定する場合、その分の割増賃金(時間外割増)の支払いが必要になります。

6みなし労働時間の設定における指針の留意事項

指針では、みなし労働時間の決議に際して以下のように留意することを求めています。

「労使委員会においては、みなし労働時間について決議するに当たっては、委員は、対象業務の内容を十分検討するとともに、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度について使用者から十分な説明を受け、それらの内容を十分理解した上で、適切な水準のものとなるよう決議することが必要であることに留意することが必要である。」

評価制度・賃金制度との整合性は非常に重要です。みなし時間の長さが業務実態と大きく乖離していたり、評価と賃金の仕組みが実質的に長時間労働を促すような設計になっていないか、慎重に検討する必要があります。

SUPERVISOR

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。労働問題(使用者側)を中心に、企業法務全般を取り扱う。日本全国の会社経営者・人事担当者からのご相談に対応しております。

企画業務型裁量労働制の対象労働者の適正な選定とみなし労働時間の設定は、制度の有効性を確保するための根幹です。会社側弁護士として、適法な制度設計から紛争対応まで、経営者の皆様を全面的にサポートいたします。日本全国各地の会社経営者の皆様からのご相談をお待ちしております。

7よくある質問

Q. みなし労働時間を法定労働時間(8時間)以上に設定できますか?

設定すること自体は可能ですが、法定労働時間(1日8時間)を超える部分については時間外割増賃金(25%以上)の支払いが必要です。例えば、1日10時間をみなし時間とした場合、毎日2時間分の時間外割増賃金を支払う義務が生じます。

Q. 対象労働者の同意はどのように取得する必要がありますか?

企画業務型裁量労働制を対象労働者に適用するためには、個別の同意が必要です(労基法38条の4第2項)。また、不同意の場合に不利益な取扱いをしてはならないことも法定されています。同意書は書面で取得し、保管しておくことをお勧めします。

Q. 対象労働者が変更になった場合はどのような手続きが必要ですか?

決議で定めた基準の範囲内での変更であれば、新たな決議・届出は不要です。ただし、対象労働者の範囲自体を変更する場合は改めて決議を行い、変更届を労基署に提出する必要があります。

Q. 対象労働者が適用から外れたい(同意を撤回したい)と言ってきた場合はどうなりますか?

同意の撤回については、決議で定める方法・手続きに従うことになります。同意撤回後は対象労働者ではなくなりますので、その後の労働時間管理は通常の方法に戻ることになります。撤回を理由とした不利益取扱いは認められません。

最終更新日:2026年5月28日

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