労働問題671 裁量労働制の対象者が就業時間中に組合活動をした場合の懲戒・賃金カットの可否【会社側弁護士が解説】
専門業務型裁量労働制が適用される労働者であっても、勤務時間中には就労義務・職務専念義務が課されています。特段の合意がない限り、使用者は勤務時間中の組合活動を制止し、改善されない場合には懲戒処分を行うことができます。また、明確な時間帯が特定できる場合には賃金カットも可能と解されますが、その際は就業規則の整備と記録管理が重要です。本記事では会社側弁護士が法的根拠とともに実務対応を解説します。
01裁量労働制と職務専念義務の関係
専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)は、業務の遂行方法や時間配分を労働者の裁量に委ねることで、労使協定で定めた「みなし時間」を労働時間とみなす制度です。この制度の本質は、労働時間の量的把握をみなしに委ねるものであり、勤務時間中の就労義務や職務専念義務そのものを免除するものではありません。
したがって、裁量労働制が適用されている労働者であっても、使用者が設定した勤務時間帯においては、原則として就労すべき義務を負います。組合活動は正当な権利として保護されますが(労働組合法第7条)、それはあくまで就業時間外に行うことが原則であり、就業時間中に組合活動を行う場合には使用者の許可が必要とされています。
02勤務時間中の組合活動への注意・懲戒処分の可否
労基法第38条の3第1項の「みなし規定」は、あくまで労働時間数の把握に関するものです。したがって、明らかに労働を行っていない状態(組合活動に専従している状態)は、みなし規定の適用範囲外と解されています。
裁量労働制が適用されていても、以下の場合には使用者は注意・指導を行うことが可能と考えられます。
- 労働契約や就業規則、労使協定において就業時間中の組合活動を認める旨の定めがない場合
- 組合活動として行われている行為が、明らかに業務遂行と関係のない活動である場合
- 組合活動を理由に業務への影響が生じている場合
注意・指導に従わない場合には、就業規則の懲戒規定(職務専念義務違反・業務命令違反等)に基づき、戒告・譴責・減給等の懲戒処分を行うことが許容されると解されます。ただし、懲戒処分は就業規則上の根拠規定が必要であり、かつ処分内容の相当性(比例原則)が求められます。段階的な指導を経たうえで処分を行うことが、後のトラブル回避に有効です。
03賃金カットの可否と要件
裁量労働制の適用労働者に対して賃金カットを行う場合、時間単位での管理が困難であるという制度上の特性があります。しかし、組合活動の行われた時間帯が事前に明確に特定されている場合には、その時間に対応する賃金を控除することが可能と解されます。
賃金カットが認められるための要件として、一般的に以下の点が求められます。
- 就業規則に賃金控除の根拠規定があること(労基法第24条の全額払いの原則の例外として)
- 組合活動を行っていた時間帯が特定できること(時間帯の明確化が必要)
- ノーワーク・ノーペイの原則に基づく合理的な算定方法があること
なお、裁量労働制においては「みなし時間」単位での賃金支払いが原則であるため、一部の時間を組合活動に費やしたとしても、その時間分をそのままみなし時間から差し引くのは制度上難しい面があります。実務的には、欠務・職務専念義務違反として、就業規則の懲戒規定に基づく減給処分(労基法第91条の制限あり)として対応する方が法的に明確な場合もあります。
04時間帯が不明確な場合の対処法
組合活動が行われた時間帯が不明確な場合、使用者としては「労働を提供しているのか、組合活動を行っているのか」を区別できない状況に置かれます。このような場合、賃金カットの算定根拠が曖昧になるため、一方的なカットは法的リスクを伴います。
適切な対処法としては、まず労働組合に対して組合活動を行う時間帯を明確にするよう求めることが挙げられます。組合活動の日時・内容を事前または事後に届け出る制度を設けることで、使用者は正確な時間管理が可能になります。
05会社側が整備すべき実務的対応
裁量労働制の対象者が勤務時間中に組合活動を行う事態への対応として、会社として以下の整備を行っておくことが望まれます。
- 就業規則における職務専念義務規定の明確化:裁量労働制対象者も含め、勤務時間中は職務に専念する義務がある旨を明文化する
- 懲戒規定の整備:職務専念義務違反・業務命令違反に対する懲戒処分の種類・手続きを就業規則に定める
- 記録の保持:組合活動が行われた日時・状況について、客観的な記録(業務日報、入退館記録、ICカード記録など)を保存する
- 段階的指導の実施と記録:口頭注意→書面警告→懲戒処分の段階的対応を記録し、恣意的な対応と受け取られないようにする
- 労務管理の専門家へのご相談:不当労働行為に該当しないよう、対応の法的妥当性について事前に弁護士へ確認することを推奨します
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。就業規則・裁量労働制の導入・整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
06よくある質問(FAQ)
Q. 裁量労働制が適用されていれば、就業時間中に何をしても自由ですか?
A. いいえ。裁量労働制は労働時間の把握をみなしに委ねる制度であり、就業時間中の職務専念義務を免除するものではありません。明らかに業務と無関係な活動(組合活動を含む)を就業時間中に行うことは、職務専念義務違反となりえます。
Q. 就業時間中の組合活動を止めさせることはできますか?
A. 原則として可能です。就業規則等に就業時間中の組合活動を認める旨の定めがない限り、使用者は組合活動を止めるよう指示でき、従わない場合には懲戒処分も許容されると解されます。ただし、不当労働行為に該当しないよう慎重な対応が必要です。
Q. 組合活動の時間が特定できない場合、賃金カットはできますか?
A. 時間帯が特定できない場合、賃金カットの算定が困難となり、一方的なカットは法的リスクを伴います。まず組合に活動時間帯の明示を求め、届出制度の導入を検討することが実務上有効です。
Q. 裁量労働制の対象者に対して減給処分を行う際の上限はありますか?
A. はい。懲戒処分としての減給は、労働基準法第91条により、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはなりません。この上限は裁量労働制の対象者にも適用されます。
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最終更新日:2026年5月