労働問題634 準備・後片付け・着替えの時間は労働時間に該当するのか?―会社経営者が押さえるべき判断基準

1. 労働時間該当性の基本的な考え方

 労働時間とは、労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。労働時間に該当するか否かは、就業規則や労働契約にどのように定められているかによって形式的に決まるものではなく、実態に即して客観的に判断されます。

 裁判実務では、当該時間帯における労働者の行為が、会社の指示に基づくものか、あるいは会社の指示により事実上行わざるを得ない状況にあったかが重視されます。会社が明示的に命じていなくても、業務の性質上当然に行うことを求められている場合には、指揮命令下にあったと評価される可能性があります。

 そのため、会社経営者としては、「実作業をしていない時間」であることのみを理由に、直ちに労働時間に該当しないと判断することは危険です。準備や後片付け、着替え、移動といった行為であっても、会社の業務遂行と不可分の関係にある場合には、労働時間と評価され得る点に注意が必要です。

2. 実作業前後の準備・後片付け行為と労働時間

 実作業の前後に行われる準備や後片付けの時間については、それが会社から義務付けられているか、あるいは業務の性質上、事実上行わざるを得ないものかどうかによって、労働時間に該当するかが判断されます。単に労働者が自主的に行っているにすぎない行為であれば、原則として労働時間には該当しません。

 しかし、作業を行うために特定の準備行為が不可欠であり、会社がその実施を当然の前提としている場合には、明示的な指示がなくても、指揮命令下にあったと評価される可能性があります。たとえば、業務開始時刻までに特定の場所に集合し、機材の準備や点検を行うことが求められている場合などがこれに該当します。

 裁判実務においても、準備行為や後片付けが業務と密接に関連し、会社の管理のもとで行われているかどうかが重要な判断要素とされています。会社経営者としては、準備や後片付けを業務時間外として扱っている場合、その行為の内容や実態が、会社の業務遂行に不可欠なものとなっていないかを、改めて点検する必要があります。

3. 着替え・移動・洗身等に関する裁判所の判断枠組み

 着替えや移動、洗身といった行為は、一見すると私的な行為にも思われやすいものですが、裁判所は、その行為が会社の業務とどの程度結び付いているかという観点から、労働時間該当性を判断しています。

 具体的には、会社が作業服や保護具の着用を義務付けているか、その着脱場所や方法について会社が指定しているか、また当該行為を行わなければ業務に従事できない関係にあるかといった点が重視されます。これらの事情が認められる場合には、形式上は着替えや移動であっても、会社の指揮命令下に置かれていると評価される可能性があります。

 一方で、会社が特段の指示や管理を行っておらず、労働者が自己の判断で行っているにすぎない行為については、労働時間に該当しないと判断される傾向にあります。会社経営者としては、着替えや移動等を当然に労働時間外と考えるのではなく、会社の関与の程度や業務との関連性を踏まえた整理が不可欠です。

4. 労働時間に該当すると判断された行為

 裁判例では、実作業そのものではなくても、会社が業務遂行の前提として義務付けている行為については、労働時間に該当すると判断されています。重要なのは、その行為が会社の管理のもとで行われ、業務と不可分の関係にあるかどうかです。

 たとえば、作業服や保護具の着用が義務付けられており、その装着場所やタイミングについても会社が指定している場合には、着替えや装備の装着に要する時間は、労働時間と評価される可能性が高くなります。また、特定の作業に従事するために、副資材や消耗品の受け出し、散水などの準備作業を業務開始前に行うことが求められている場合も、会社の指揮命令下にある行為として労働時間と認められています。

5. 労働時間に該当しないと判断された行為

 裁判例においては、着替えや移動、洗身といった行為であっても、すべてが直ちに労働時間に該当すると判断されているわけではありません。会社の指揮命令との関係が希薄な場合には、労働時間には当たらないと判断されています。

 たとえば、休憩時間中に行う保護具の着脱について、休憩を取るために不可欠な行為とはいえない場合や、会社が特段の指示や管理を行っていない場合には、労働時間性が否定される傾向にあります。また、洗身や入浴についても、会社が施設内で行うことを義務付けておらず、洗身をしなければ通勤が著しく困難になるといえない事情がある場合には、私的行為として労働時間に該当しないと判断されています。

6. 会社経営者が実務上注意すべきポイント

 準備や後片付け、着替えなどの時間が労働時間に該当するかは、就業規則や運用の仕方次第で、会社にとって大きな法的リスクとなり得ます。会社経営者としては、「実作業をしていない時間」であることのみを理由に、安易に労働時間外と整理することは避けるべきです。

 まず、業務を行う前提として、会社が義務付けている行為が何かを明確にし、その行為について指示内容や実施場所、実施時刻を整理する必要があります。義務付けている行為については、たとえ短時間であっても、労働時間として取り扱うことを前提に制度設計を行うことが重要です。

 また、実態と就業規則や勤怠管理の運用が乖離している場合には、後に未払残業代請求や労務トラブルに発展するおそれがあります。定期的に現場の実態を確認し、必要に応じてルールや運用を見直すことが、会社経営者に求められる重要な対応といえるでしょう。

 

 

最終更新日2026/2/7

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