労働問題634 準備や後片付け、着替えの時間は労働時間に該当しますか?
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと判断できるか否かによって、客観的に決まります。
実作業前後の準備行為の時間は、準備行為が義務付けられている場合や、これを余儀なくされている場合は、特段の事情が無い限り、労働時間となります。
裁判では、使用者に義務付けられているか否か、その程度、実作業前後の準備行為を必要とする理由・程度の観点から、個別に判断されます。
裁判例(最高裁平成12年3月9日判決)では、「就業行為を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間はそれが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法の労働時間に該当する」と述べられており、準備行為の具体例として、次のものを示しています。
① 所定の入退場門から更衣所等までの移動
② 更衣所において作業服及び保護具等を装着し準備体操場まで移動
③ 作業場から食堂等まで移動し、現場控所等で作業服及び保護具の一部を脱離
④ 午後の始業時刻前に作業場または準備体操場まで移動し、脱離した作業服及び保護具等を装着
⑤ 終業時刻後、作業場から更衣室等まで移動し、作業服及び保護具を脱離
⑥ 手洗い、洗面、洗身、入浴し、通勤服を着用
⑦ 更衣場等から入退場門まで移動し、事業場外に退出
また、これらの他に、特別の作業に従事していた労働者については、
⑧ 材料庫等から副資材や消耗品等の受け出しを午前ないし午後の始業時刻前までに行う
⑨ 粉じんが立つのを防止するために、午後の始業時刻前までに月数回散水
が義務付けられていました。
この事案では、上記①~⑨の労働時間性が争われ、会社が実作業にあたり作業服及び保護具の装備を義務付け装着場所も指定していたことから、②及び⑤の時間を労働時間と認めました。また、⑧及び⑨についても、使用者が義務付けた作業であるとして、労働時間と認めました。
他方、③及び④については、休憩中の保護具の着脱が、休憩する際に不可欠となっているものではないこと、⑥については、使用者は施設内での洗身を義務付けておらず、洗身しなければ著しく通勤が困難であるとはいえないことを理由に、労働時間とは認めませんでした。