労働問題52 勤務地限定の合意があったとの主張はどの程度認められるか?会社側弁護士が解説
目次
複数勤務地のある会社の正社員については勤務地限定の合意はなかなか認定されません。一方、非正規労働者については認められることも珍しくなく、慎重な検討が必要です。
就業規則の規定と入社時の誓約書を整備しておけば正社員については特段の事情がない限り訴訟対策として十分です。非正規労働者については個別の採用経緯・労働条件を確認した上で転勤命令権限の有無を慎重に検討することが必要です。
■ 正社員:複数勤務地のある会社では勤務地限定の合意は認定されにくい
就業規則の転勤規定+入社時の誓約書があれば、特段の事情がない限り訴訟対策として十分です。
■ 非正規労働者:勤務地限定の合意が認められることも珍しくない
有期労働者・パートタイマー・アルバイトについては転勤命令権限の有無・範囲を個別に慎重に検討する必要があります。
■ 訴訟対策:就業規則の規定+入社時誓約書の整備が基本
就業規則に転勤命令権限の規定を置き、入社時の誓約書で転勤への同意・就業規則の遵守を誓約させることが有効な対策です。
1. 正社員における勤務地限定の合意の認定可能性
複数勤務地のある会社の正社員:認定されにくい
転勤命令の有効性が争われた場合、勤務地限定の合意があったとの主張が労働者側からなされることが多いですが、勤務地が複数ある会社の正社員については、勤務地限定の合意はなかなか認定されません。
就業規則に転勤命令権限についての規定を置き、入社時の誓約書で転勤等に応じること・就業規則を遵守すること等を誓約してもらっておけば、特段の事情がない限り、訴訟対策としては十分だと思います。
「特段の事情」が認められるケース
「特段の事情がない限り」という留保が示す通り、正社員であっても勤務地限定の合意が認められる場合はあります。典型的なケースとして、①採用時に特定の勤務地を明示して採用し、労働契約書・雇用条件通知書にその旨を記載した場合、②採用面接で「転勤はない」と会社側が明示的に説明した場合、③長期間にわたり一切転勤がなく、会社も転勤を命じてこなかった場合(ただし就業規則の規定があれば認定されにくい)、などが挙げられます。
採用時の経緯の記録・労働契約書の記載内容の管理が、将来の紛争における重要な証拠となります。
2. 非正規労働者における勤務地限定の合意の認定可能性
非正規労働者:勤務地限定の合意が認められることも珍しくない
有期労働者・パートタイマー・アルバイト等の非正規労働者については、勤務地限定の合意があることも珍しくありませんので、転勤命令権限の有無・範囲等について、慎重に検討していくべきです。
非正規労働者については、採用時に「○○店舗での勤務」「○○工場での勤務」と特定して採用されることが多く、そもそも正社員のような広範な配転命令権限が認められないことが多いのです。また、短時間勤務・特定の曜日・時間帯での勤務を前提として採用されている場合は、転勤による通勤時間の変化が雇用条件の本質的な変更に当たるとして認められないケースもあります。
非正規労働者への転勤命令前の確認事項
非正規労働者に転勤命令を発令する前に、①雇用条件通知書・労働契約書に勤務地の記載があるか・どのように記載されているか、②採用時の求人票・採用面接での説明内容、③就業規則・パート等用の就業規則に配転規定があるか、④これまでに転勤を命じた実績があるか、を確認することが不可欠です。これらの確認なしに転勤命令を出すと、命令が無効とされるリスクがあります。
✕ よくある経営者の誤解
「パートでも就業規則に転勤規定があれば転勤を命じられる」→ 慎重な検討が必要です。
非正規労働者については、就業規則の規定があっても採用経緯・雇用条件から勤務地限定の合意が認められることがあります。正社員と同様に考えて転勤命令を出すのは危険です。
「転勤を断ったのだから、勤務地限定の合意を主張されても負けない」→ 必ずしもそうとは限りません。
採用時の経緯・雇用条件通知書の記載・採用面接での説明等によっては、勤務地限定の合意が認められることがあります。事前に採用記録・労働契約書の内容を確認することが重要です。
3. 訴訟対策:就業規則・入社時誓約書の整備
正社員向けの訴訟対策として十分な対応
正社員について、転勤命令を巡る訴訟対策として十分な対応は次の通りです。①就業規則に転勤命令権限の規定(「業務上の都合により、転勤・配転を命じることができる」等)を明確に置く、②入社時の誓約書に「転勤・配転等の人事異動に応じること」「就業規則を遵守すること」等の誓約事項を盛り込む、③入社時に誓約書への署名・押印を取得し、記録として保管する、という3点です。これにより、特段の事情がない限り、訴訟対策としては十分な状態が整います。
労働条件通知書の「就業の場所」欄の記載との関係
労働条件通知書の「就業の場所」欄の記載が、勤務地限定の合意の根拠として主張されることがあります。「就業の場所:○○本社」とのみ記載している場合、これが勤務地限定の合意の証拠として使われることがあります。この問題については労働問題53で詳しく解説しています。
就業規則・誓約書の整備・非正規労働者への転勤命令の可否確認・労働条件通知書の記載方法について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「正社員への転勤命令が争われた。就業規則に転勤規定があり入社時誓約書もあったため、勤務地限定の合意は認定されず転勤命令は有効とされた」
・「パートタイマーへの転勤命令が争われた。採用時に特定店舗での勤務として採用し、雇用条件通知書にもその旨を記載していたため、勤務地限定の合意が認定され転勤命令は無効とされた」
正社員と非正規労働者では勤務地限定の合意の認定可能性が大きく異なります。雇用形態別に確認が必要です。
4. まとめ
勤務地限定の合意があったとの主張について、複数勤務地のある会社の正社員については認定されにくい傾向にあります。就業規則の転勤規定と入社時誓約書を整備することで、特段の事情がない限り訴訟対策としては十分です。一方、有期労働者・パートタイマー・アルバイト等の非正規労働者については、勤務地限定の合意が認められることも珍しくなく、転勤命令権限の有無・範囲等を個別の採用経緯・雇用条件を踏まえて慎重に検討する必要があります。転勤命令を発令する前に弁護士に相談することをお勧めします。
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■ 転勤拒否・問題社員対応

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05
