労働問題53 労働条件通知書の「就業の場所」欄には、どこまで詳しく書く必要がありますか?

この記事の要点

雇入れ直後の就業場所の記載で足りますが、その記載が勤務地限定の合意の根拠として使われるリスクがあります。転勤があり得ることを明記することが実務上の最善策です。

労働条件通知書の「就業の場所」欄は、雇入れ直後の就業場所を記載すれば足ります(平成11年1月29日基発45号)。ただし転勤命令の際に勤務地限定の合意の根拠として使われるリスクがあるため、転勤の可能性を明記しておくことをお勧めします。

法令上の原則:雇入れ直後の就業場所を記載すれば足りる

平成11年1月29日基発45号により、「就業の場所」欄は雇入れ直後の就業場所を記載することで足りるとされています。


実務上のリスク:勤務地限定の合意の根拠として主張される

「○○本社」とのみ記載すると、転勤命令時に「就業場所が本社に限定されている」と主張される可能性があります。


推奨対応:転勤の可能性を明記する

雇入れ直後の就業場所の記載に加え、「業務の都合上、転勤を命じることがある」等の文言を明記することが実務上の最善策です。

1. 法令上の原則:雇入れ直後の就業場所で足りる

通達の内容

 平成11年1月29日基発45号では、労働条件通知書の「就業の場所」欄には「雇入れ直後のものを記載することで足りる」とされていますので、原則として最初の勤務場所を書けば足ります。

 また同通達では「将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することは差し支えない」ともされており、将来の転勤先を含めて記載することも許容されています。つまり、①雇入れ直後の就業場所のみを記載する方法と、②雇入れ直後の就業場所に加えて将来の転勤可能性も明記する方法の、いずれも適法です。

「就業の場所」欄の記載例(法令上の最低限)

 法令上の最低限の記載としては、「就業の場所:○○本社(東京都千代田区○○)」という形で、雇入れ直後に勤務する場所を記載すれば足ります。これは労働基準法施行規則5条1項が定める絶対的明示事項(書面による交付が必要な事項)の一つです。

2. 実務上のリスク:勤務地限定の合意の根拠として使われる

転勤命令時に主張されるリスク

 転勤を命じられてから、雇入れ直後の就業場所の記載があることを理由に勤務地限定の合意があったと主張する労働者もいます。「労働条件通知書に○○本社と記載されていたのだから、私の就業場所は本社に限定されているはずだ」という主張です。

 単に雇入れ直後の就業場所を記載するだけではなく、それが雇入れ直後の就業場所に過ぎないことや支店への転勤もあり得ることを明記しておいてもよいでしょう。

記載内容だけで勤務地限定の合意が認定されるわけではないが

 就業規則に転勤命令権限の規定がある場合、労働条件通知書の「就業の場所」欄に特定の勤務場所が記載されているだけでは、通常は勤務地限定の合意が認定されません(詳細は労働問題52参照)。ただし、採用時の経緯・採用面接での説明内容・その他の事情と組み合わせると、勤務地限定の合意の根拠の一つとして考慮される可能性があります。リスクを最小化するための記載工夫が実務上は重要です。

✕ よくある経営者の誤解

「労働条件通知書に就業場所を記載するだけでよい。転勤可能性など書く必要はない」→ 法令上は最低限で足りますが、実務上はリスクがあります。
転勤命令時に「就業場所が限定されていた」と主張される可能性を防ぐため、転勤の可能性を明記しておくことをお勧めします。

「労働条件通知書に○○本社と書いたから、転勤は命じられなくなってしまった」→ 必ずしもそうとは限りません。
就業規則の転勤規定・入社時誓約書・採用経緯等によっては、勤務地限定の合意とは認定されません。ただしリスクを減らすため、記載の工夫が重要です。

3. 推奨対応:転勤の可能性を明記した記載方法

推奨する記載例

 実務上お勧めする「就業の場所」欄の記載方法は、以下のような形で転勤の可能性を明記するものです。

 記載例①(シンプルな形)
 「就業の場所:○○本社(雇入れ直後)。ただし、業務の都合上、国内の各事業所・支店に転勤を命じることがある。」

 記載例②(通達の推奨形式)
 「就業の場所:雇入れ直後:○○本社(東京都千代田区○○)/その後:業務の都合上、国内各事業所・支店への転勤を命じることがある。」

 これにより、「就業の場所」欄の記載が勤務地限定の合意の根拠として使われるリスクを大幅に低減することができます。

労働条件通知書の整備は就業規則・誓約書と一体で

 労働条件通知書の「就業の場所」欄の記載は、就業規則の転勤命令権限規定・入社時の誓約書と一体で整備することが重要です。三つが揃っていれば、転勤命令の有効性を争われた際に会社側の立場を強固にすることができます。逆に、労働条件通知書に転勤の可能性を明記していても、就業規則に転勤規定がなければ不十分です。

 労働条件通知書・就業規則・入社時誓約書の整備について、弁護士へのご相談をお勧めします。転勤命令を将来検討する可能性がある場合は、採用時の書面整備が最大の対策です。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「労働条件通知書に『就業の場所:○○本社』とのみ記載していた。転勤命令時に『就業場所が本社に限定されている』と主張された。就業規則に転勤規定があったため最終的には認められなかったが、紛争の一因となった」

・「転勤可能性を明記した労働条件通知書・就業規則の転勤規定・入社時誓約書を整備していた。転勤命令時に勤務地限定の合意を主張されたが、これらの書面を根拠に転勤命令が有効とされた」

 採用時の書面整備が、将来の転勤命令を巡る紛争を未然に防ぐ最大の対策です。

4. まとめ

 労働条件通知書の「就業の場所」欄は、平成11年1月29日基発45号により、雇入れ直後の就業場所を記載することで法令上は足ります。ただし、その記載が転勤命令時に勤務地限定の合意の根拠として主張されるリスクがあります。実務上は、雇入れ直後の就業場所の記載に加えて「業務の都合上、転勤を命じることがある」等の文言を明記することをお勧めします。また、労働条件通知書の記載は、就業規則の転勤命令権限規定・入社時の誓約書と一体で整備することが重要です。採用時の書面整備が将来の転勤命令を巡る紛争を防ぐ最大の対策です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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