労働問題51 使用者に配転命令権限があるといえるためには、どのようなことが必要ですか?

この記事の要点

配転命令権限の有無は労働契約の解釈問題です。就業規則の規定があっても勤務地限定の合意が認められれば権限は否定されます。正社員とパート等では扱いが異なります。

使用者に配転命令権限があるためには、就業規則の規定・包括的同意書が根拠となりますが、勤務地限定の合意の有無が実務上の最大の争点です。東亜ペイント事件最高裁判決が示した4つの考慮要素が判断の基準となります。

個別同意は不要:就業規則・包括的同意書が根拠となる

対象社員の個別的同意は必ずしも必要ではなく、就業規則の規定・入社時の包括的同意書があれば足りるのが通常です。


実務上の最大争点:勤務地限定・職種限定の合意の有無

就業規則の規定があっても勤務地限定・職種限定の合意が認められると配転命令権限は否定されます。採用時の経緯の記録が重要です。


正社員は広範な権限が認められる傾向:パート等は制限される傾向

一般論として、正社員については広範な配転命令権限が認められる傾向にあり、パート・アルバイトについては制限される傾向にあります。

1. 配転命令権限の有無は労働契約の解釈問題

個別的同意は必ずしも必要ではない

 配転命令権限の有無は、当該労働契約の解釈により決せられるべき問題です。使用者に配転命令権限があるというためには、対象社員の個別的同意は必ずしも必要ではなく、就業規則の規定・入社時の包括的同意書があれば足りるのが通常です。配転命令権限に関する就業規則の規定・包括的同意書が存在しない場合であっても、使用者に配転命令権限が付与されていると解釈できることもあります。

正社員とパート・アルバイトの違い

 一般論として、正社員については使用者に広範な配転命令権限が認められる傾向にあります。これは正社員が長期雇用を前提とした包括的な労働契約を締結しており、職種・勤務地が特定されないことが多いためです。一方、パート・アルバイトについては、採用時に特定の店舗・工場での勤務を前提として採用されることが多く、配転命令権限が制限される傾向にあります。

実務上の最大争点:勤務地限定・職種限定の合意の有無

 実務上は、勤務地限定の合意の有無・職種限定の合意の有無が争点とされることが多くなっています。就業規則に配転・転勤を命じることができる旨の規定があっても、採用時に勤務地が特定されていた・労働契約書に勤務地が明記されていた・採用以来一度も転勤がなかった等の事情から、勤務地限定の合意が認められると配転命令権限は否定されます(勤務地限定の合意の有無については労働問題52参照)。

2. 東亜ペイント事件最高裁判決が考慮した4つの要素

判決の内容

 東亜ペイント事件最高裁第二小法廷昭和61年7月14日判決は、使用者の転勤命令権限に関し、「使用者は個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである」という結論を示しました。この結論を導くにあたり同判決が考慮した要素は以下の4点です。

 ①転勤命令権限に関する労働協約及び就業規則の定め:就業規則・労働協約に業務上の都合により転勤を命じることができる旨の定めがあること。

 ②営業所の数・転勤の実情:十数か所の営業所等を置き、その間において従業員(特に営業担当者)の転勤を頻繁に行っていたこと。

 ③応募資格・職種:大学卒業資格の営業担当者として採用されたこと(特定の勤務地に限定される職種ではないこと)。

 ④勤務地限定の合意の有無:労働契約が成立した際にも勤務地を特定の地に限定する旨の合意はなされなかったこと。

4つの要素の実務上の意味

 この4要素は、自社の配転命令権限の有無を検討する際の重要なチェックポイントとなります。①就業規則・労働協約の規定の有無、②実際に転勤を行ってきた実績の有無、③採用時の職種・応募資格の性質、④採用時に勤務地限定の合意がなかったことの確認と記録、これらをあらかじめ整備・確認しておくことが、将来の配転命令を巡る紛争対策として重要です。

✕ よくある経営者の誤解

「就業規則に転勤規定があるから、どこへでも転勤を命じられる」→ 誤りです。
就業規則の規定は必要条件ですが十分条件ではありません。採用時の経緯・労働契約書の記載・転勤の実績等から勤務地限定の合意が認められれば配転命令権限は否定されます。

「転勤を拒否した社員を懲戒解雇すれば当然有効だ」→ 慎重な検討が必要です。
まず配転命令権限の有無を確認し、権限があっても転勤命令の権利濫用の有無・懲戒権の濫用の有無を検討する必要があります(詳細は労働問題50参照)。

3. 実務上の対策:配転命令権限を確保するための準備

採用時の対応が将来の紛争を防ぐ

 配転命令権限を確保するための実務上の対策として最も重要なのは、採用時の対応です。具体的には、①就業規則に配転・転勤を命じることができる旨の明確な規定を設ける、②採用時に「勤務地・職種は会社の業務上の都合により変更することがある」旨を労働契約書・雇用条件通知書に明記する、③採用面接・内定通知等の記録に勤務地限定の合意をしていないことを残しておく、という点が重要です。

転勤実績の積み重ねも権限の根拠となる

 東亜ペイント事件判決が②の要素として「転勤の実情」を考慮しているように、実際に複数の事業所・営業所間で転勤を行ってきた実績があることも、配転命令権限の存在を裏付ける重要な事情となります。転勤の記録(辞令・人事異動通知等)を適切に保管しておくことが重要です。

 配転命令権限の有無の確認・就業規則・労働契約書の整備・転勤命令を巡る紛争リスクの評価について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「就業規則に転勤規定はあったが、採用時に『○○工場での勤務』と明示して採用し、10年以上同一工場に勤務させていた。転勤命令を出したところ勤務地限定の合意があると認定され転勤命令が無効とされた」

・「労働契約書に勤務地を具体的に記載していた。転勤命令を出したが労働契約書の記載を根拠に勤務地限定特約が認められ無効とされた」

 採用時の労働契約書の記載内容と採用経緯の記録が、後の紛争で決定的な証拠となります。

4. まとめ

 使用者に配転命令権限があるといえるためには、就業規則の規定・包括的同意書があれば足りるのが通常です。ただし、勤務地限定の合意が認められると配転命令権限は否定されます。東亜ペイント事件最高裁判決が考慮した4要素(①就業規則・労働協約の定め、②転勤の実情、③応募資格・職種、④勤務地限定合意の有無)が実務上の判断基準となります。正社員については広範な権限が認められる傾向にあり、パート等は制限される傾向にあります。採用時の労働契約書の記載・採用経緯の記録が将来の紛争を防ぐ最大の対策です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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