労働問題513 割増賃金計算の基礎となる賃金を教えてください。
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割増賃金の計算基礎は「全賃金から除外賃金を差し引いたもの」 割増賃金(残業代)の計算基礎となる賃金は、支払われる賃金の全額から、法令で定められた除外賃金7種類を差し引いた残りの賃金です。 |
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除外できる賃金は限定列挙の7種類のみ 家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月超の期間ごとに支払われる賃金の7種類のみが除外できます(労基法37条5項・労基則21条)。 |
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手当の名目ではなく支給の実質的な性質で判断する 「住宅手当」「生活手当」という名称でも、実態として労働時間や成果に対する支払いであれば割増賃金の基礎に含まれます。名目ではなく実質で判断することが不可欠です。 |
01基礎賃金とは何か
残業代(割増賃金)を計算する際の「基礎となる賃金」とは、割増賃金の算定対象となる賃金の合計額のことです。この基礎賃金を正しく把握していないと、時間外労働の支払いが適正でないとして労務トラブルにつながる可能性があります。
割増賃金の基礎となる賃金は、原則として「支払われる賃金の全額」です。ただし、法令で定められた特定の手当(除外賃金)は除くことができます(労基法37条5項・労基則21条)。この除外賃金に該当するもの以外は、原則としてすべて基礎賃金に含めて計算しなければなりません。
02除外賃金の7種類
労基法37条5項・労基則21条は、割増賃金の計算から除外できる賃金を限定列挙しています。この7種類以外は除外できません。
割増賃金の計算から除外できる賃金(労基則21条)
① 家族手当
家族構成に応じて支給される手当。扶養家族の人数等に基づいて支給されるもの。
② 通勤手当
通勤費用の補填として支給されるもの。実費補填の性質を持つため除外対象。
③ 別居手当
単身赴任等で家族と別居している従業員に支給する手当。
④ 子女教育手当
子どもの教育費用に関する手当。
⑤ 住宅手当
住宅費用に対する補助としての手当。ただし住宅費用と連動していないものは除外できない場合がある。
⑥ 臨時に支払われた賃金
一時的・突発的に支給される賃金。結婚祝金・傷病見舞金・退職金等が該当。
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与・勤続手当等、1か月を超える一定期間ごとにまとめて支払われるもの。
03名目ではなく実質で判断する
上記の7種類に該当するかどうかは、手当の名称ではなく、支給の実質的な性質によって判断されます。これが実務上の最大の注意点です。
例えば「住宅手当」という名称であっても、全員一律に定額で支給しているものは「住宅費用に対する補助」としての実質がなく、除外賃金に該当しないと解されることがあります。逆に、実際に住宅費用(家賃・住宅ローン等)の一定割合を補填する形で設計されている場合は、除外賃金としての実質を持ちます。
「生活手当」「業績手当」「営業手当」などの名称の手当は、除外賃金7種類のいずれにも当たらない限り、割増賃金の基礎に含めなければなりません。就業規則・賃金規程の手当の設計段階から、実質が伴う形にしておくことが重要です。
04計算例
基本給30万円、通勤手当2万円、住宅手当(実態として住宅費用に連動)3万円が支給されている場合の計算基礎を整理します。
計算例
・基本給:30万円 → 基礎賃金に含める
・通勤手当:2万円 → 除外(②通勤手当)
・住宅手当(住宅費用連動):3万円 → 除外(⑤住宅手当)
割増賃金の基礎賃金 = 30万円
※ただし、就業規則・雇用契約等によって個別に精査が必要です。
仮に住宅手当が全員一律定額(住宅費用と無関係)で支給されている場合、その3万円は除外賃金に該当せず基礎賃金に含める必要があります。同じ「住宅手当」でも設計によって扱いが変わります。
05基礎賃金の範囲を誤ると生じるリスク
基礎賃金の範囲を誤って低く設定していると、時間外労働・休日労働の割増賃金の計算が不足し、未払残業代が生じます。未払残業代の請求権は一定期間(原則として3年)遡ることができるため、多額の請求を受けるリスクがあります。
また、労働基準監督署の調査が入った際に是正指導を受け、過去に遡って割増賃金の支払いを求められることもあります。特に近年は、退職した社員が弁護士を通じて未払残業代を請求するケースが増加しています。
会社の賃金項目を一覧化し、各項目が除外賃金に該当するかどうかを定期的に精査することをお勧めします。判断が難しい場合は使用者側弁護士または社会保険労務士に確認してください。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 役職手当・職務手当・資格手当は除外賃金になりますか。
A. なりません。役職手当・職務手当・資格手当は、労基則21条が定める除外賃金7種類のいずれにも当たらないため、割増賃金の基礎賃金に含めて計算しなければなりません。これらの手当を除外して残業代を計算している場合は、残業代の未払いが生じている可能性があります。
Q2. 賞与(ボーナス)は除外賃金になりますか。
A. 年2回の賞与(夏・冬)のように1か月を超える期間ごとに支払われる賞与は、⑦「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として除外賃金に該当し、基礎賃金に含める必要はありません。ただし、年俸制の場合に毎月分割して支払われる賞与相当分(月例払い部分)は、実質的に月例賃金として扱われ、除外できない場合がありますので注意が必要です。
Q3. 住宅手当を全員一律5万円支給しています。これは除外賃金になりますか。
A. 全員一律の定額支給であれば、「住宅費用に対する補助」としての実質がないと判断され、除外賃金に該当しないと解されることがあります(最高裁・下級審の裁判例参照)。住宅費用(家賃・住宅ローン等)の金額に応じて支給額が変動する設計にしていれば除外賃金としての実質を持ちやすくなります。自社の住宅手当の設計内容を確認し、不安がある場合は弁護士に相談することをお勧めします。
Q4. 就業規則に「○○手当は割増賃金の計算から除く」と定めれば除外できますか。
A. できません。割増賃金の計算から除外できる賃金は、法律(労基法37条5項・労基則21条)が限定列挙しており、就業規則でこれ以外の賃金を除外すると定めても、その部分は無効となります(労基法13条)。就業規則の定め方ではなく、手当の実質的な性質が除外賃金7種類に該当するかどうかが判断基準です。
最終更新日:2026年2月25日