労働問題512 1年単位の変形労働時間制を導入するための要件を教えてください。

この記事の結論
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労使協定の締結・労基署への届出・就業規則への記載が必須

1年単位の変形労働時間制は、過半数組合または過半数代表者との労使協定の締結(協定で定めるべき事項の明示が必要)、所轄労基署への届出、就業規則への記載の3つが不可欠です。

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対象期間を平均して1週40時間以内であることが基本要件

対象期間(1か月超1年以内)全体を平均した1週間あたりの労働時間が40時間以内でなければ、制度自体が無効となります。繁忙期に多く配分できる反面、閑散期を短くして平均を保つ設計が必要です。

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制度導入だけで残業代が不要になるわけではない。設計と運用の一致が重要

協定で定めた時間を超えた労働は時間外労働として割増賃金が発生します。また、書面と実態が乖離していると制度が無効と判断されるリスクがあります。

011年単位の変形労働時間制とは

 1年単位の変形労働時間制とは、1か月を超え1年以内の一定期間(対象期間)を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(週40時間)以内になるように労働時間を配分する制度です(労基法32条の4)。

 繁忙期と閑散期がはっきりしている業種(観光業・農業・建設業・小売業等)では、繁忙期に長く・閑散期に短く労働時間を設定することで、効率的な人員活用が可能になります。

 もっとも、この制度は自由に導入できるものではなく、法令で定められた要件を満たさなければ無効となるリスクがあります。会社経営者としては、制度のメリットだけでなく、導入要件と実務上の注意点を正確に理解しておく必要があります。

02労使協定の締結(必須)

 1年単位の変形労働時間制を導入するためには、必ず労使協定を締結しなければなりません。就業規則に記載するだけでは足りず、過半数労働組合(過半数組合がない場合は過半数代表者)との書面による協定が必要です。

 過半数代表者は、管理監督者でない者の中から、民主的な手続きによって選出された者でなければなりません。使用者が指名した者を代表者とすることは認められません。

03労使協定で定めるべき主な事項

 労使協定には、次の事項を具体的に定める必要があります。

労使協定で定めるべき主な事項

① 対象となる労働者の範囲
全社員・特定部署・特定職種など、適用する労働者の範囲を明確に定める。

② 対象期間と起算日
「1か月を超え1年以内」の対象期間と起算日を明示する。

③ 労働日および労働日ごとの労働時間
対象期間内の各労働日と、その日に労働する時間を具体的に特定する。

④ 特定期間(繁忙期)の定め(設ける場合)
繁忙期を「特定期間」として設ける場合はその期間を明示する(特定期間中は連続勤務日数の上限が緩和される)。

⑤ 対象期間の平均が1週40時間以内であること
対象期間を平均した1週間あたりの労働時間が40時間以内でなければならない。

⑥ 有効期間
労使協定の有効期間を定める。有効期間が切れたまま運用を続けると違法となるおそれがある。

 これらの事項が不明確・不完全な協定では、制度が有効に設定されたとは認められない可能性があります。特に、③の「各労働日ごとの労働時間」の特定は重要であり、「繁忙期に応じて変動する」等の曖昧な定め方は認められません。

04労基署への届出と就業規則への記載

 労使協定を締結した後は、所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。届出をしなくても直ちに制度が無効になるわけではありませんが、届出義務違反として是正指導や罰則の対象となる可能性があります。「協定を結んで終わり」ではなく、届出まで含めて制度導入であることを意識してください。

 また、就業規則にも1年単位の変形労働時間制を採用している旨を記載しておくことが重要です。どの制度に基づいて労働時間を管理しているのかを明確にしておかないと、後に労務トラブルが生じるリスクが高まります。特に、通常の労働時間制と併用している場合には、どの労働者にどの制度を適用するのかを明確に区別して規定してください。

05会社経営者が注意すべき実務上のポイント

 1年単位の変形労働時間制を導入しても、協定で定めた時間を超えた労働については、時間外労働として割増賃金が発生します。「制度を導入すれば残業代が不要になる」という理解は誤りです。具体的には、①1日について協定で定めた労働時間を超えた時間、②1週について協定で定めた労働時間を超えた時間、③対象期間について通算して週40時間を超えた時間、がそれぞれ時間外労働として扱われます。

 また、労使協定や就業規則の形式を整えていても、実際の勤務実態が協定内容と乖離していれば、制度は無効と判断される可能性があります。協定で定めた労働日・労働時間と実際の勤務が一致しているかは、常に確認すべきポイントです。

経営上のポイント 1年単位の変形労働時間制は、繁閑の差がある事業にとって有効な制度ですが、①労使協定の内容が適切か、②届出・就業規則整備ができているか、③実態が協定どおりに運用されているか、を定期的に確認することが不可欠です。制度の導入だけでなく、設計と運用の一致が最も重要です。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 労使協定の有効期間が切れた後も運用を続けることはできますか。

A. できません。有効期間が切れた労使協定に基づいて変形労働時間制を運用することは、違法な労働時間管理となります。有効期間の切れる前に更新手続き(再締結・再届出)を行うことが必要です。有効期間の管理を怠らないよう、期限管理を適切に行ってください。

Q2. 対象期間中に急に繁忙期が延長された場合、協定に定めた労働時間を変更できますか。

A. 対象期間が開始した後に労使協定の内容(労働日・労働時間)を変更することは原則として認められません。対象期間開始後の変更は、当初の協定が無効とされるリスクがあります。変更が必要な場合は、翌対象期間の協定で対応するのが原則です。業務の変動が大きい業種では、特定期間や変動幅を含めた柔軟な協定設計を検討することをお勧めします。

Q3. 1年単位の変形労働時間制を導入しても時間外労働が生じる場合はありますか。どのような場合ですか。

A. あります。具体的には、①1日について協定で定めた時間(または8時間)を超えた労働、②1週について協定で定めた時間(または40時間)を超えた労働、③対象期間の合計として週40時間を超えた労働(①②で算定した時間外労働を除く)が、それぞれ時間外労働として割増賃金の対象となります。制度を導入しても、協定の範囲外の労働については残業代の支払いが必要です。

最終更新日:2026年2月25日

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