労働問題495 賃金減額に対する同意の有効性の判断基準を教えて下さい。
「既発生の」賃金債権の減額に対する同意は、既発生の賃金債権の一部を放棄することにほかなりませんから、それが有効であるというためには、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであることが明確である必要があります(シンガーソーイングメシーン事件最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決)。
「未発生の」賃金債権の減額に対する同意についても「賃金債権の放棄と同視すべきものである」とする裁判例もありますが、「未発生の」賃金債権の減額に対する同意は、労働者と使用者が合意により将来の賃金額を変更した(労働契約法8条参照)に過ぎず、賃金債権の放棄と同視することはできないのですから、通常の同意で足りるものと考えるべきでしょう(北海道国際空港事件最高裁平成15年12月18日第一小法廷判決)。
いずれにせよ、賃金減額に対する同意の認定は慎重になされることが多いですから、最低限、書面での同意を取っておくべきです。賃金減額に異議を述べなかったという程度で黙示の同意を認定してもらうのは難しいケースが多いものと思われます。
就業規則で定める基準に達しない賃金額を合意してもその合意は無効となり、就業規則で定める賃金額になりますので(労働契約法12条)、賃金減額の同意を得る際には、減額後の賃金額が就業規則の定めに抵触しないかをチェックする必要があります。減額後の賃金額が就業規則の定めに抵触する場合には、就業規則の変更に対する同意も同時に取得して、就業規則の定めを変更すべきでしょう。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎