労働問題49 懲戒解雇と退職金不支給の関係について、教えて下さい。

この記事の要点

懲戒解雇が有効でも退職金が全額不支給になるとは限りません。合理性の判断基準は「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為があるか」です。規定の整備と個別事案の検討が必須です。

退職金不支給・減額には就業規則・退職金規程の規定が必要です。規定があっても、合理性の判断基準(勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為)を満たさなければ全額不支給は認められず、一部支払が命じられることがあります。

退職金不支給・減額には就業規則・退職金規程の規定が必要

懲戒解雇事由を退職金不支給・減額・返還事由として規定しておくことが大前提です。規定がなければ懲戒解雇であっても退職金を支払う必要があります。


合理性の基準:「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」があるか

全額不支給には「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」、一部不支給・減額には「勤続の功を減殺するほどの背信行為」があるかが判断基準です。


懲戒解雇が有効でも全額不支給にならないケースがある

懲戒解雇が有効でも著しい背信行為と認められない場合は、退職金の30%等の一部支払が命じられることがあります。懲戒解雇の有効性と退職金全額不支給は別の問題です。

1. 退職金不支給・減額の前提:就業規則・退職金規程の規定

規定なしに退職金を不支給にすることはできない

 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として規定しておけば、懲戒解雇事由がある場合で当該個別事案において退職金不支給・減額の合理性がある場合には、退職金を不支給または減額したり、支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。

 逆に言えば、就業規則・退職金規程に懲戒解雇事由を退職金不支給・減額事由として明確に規定していない場合は、懲戒解雇をしたとしても退職金を支払わなければならない可能性があります。「懲戒解雇したのだから当然退職金はゼロだ」という発想は誤りです。退職金の不支給・減額には規程上の根拠が必要です。

就業規則・退職金規程の整備が事前対策の基本

 退職金の不支給・減額を将来的に行える体制を整えるためには、就業規則・退職金規程に「懲戒解雇事由に該当した場合は退職金を支給しない(または減額する)」旨の規定を設け、これを従業員に周知しておくことが必要です。問題が発生してから規程を整備しようとしても、その社員には遡及適用できません。平時の準備が重要です。

2. 退職金不支給・減額の合理性判断基準

「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」が全額不支給の基準

 退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は、労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)または減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。

 この基準のポイントは、「懲戒解雇が有効か」と「退職金の全額不支給が認められるか」は別の問題だという点です。懲戒解雇が有効であっても、退職金の全額不支給が認められるためにはさらに「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」があることが必要です。

懲戒解雇が有効でも一部支払が命じられるケース

 懲戒解雇が有効な場合であっても、労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為はないと判断された場合は、例えば本来の退職金支給額の30%といった金額の支払が命じられることがあります。長年の勤続があり、非違行為の程度が「全額不支給を正当化するほど著しい」とは言えないと評価された場合などがこれに当たります。

 このように、退職金の全額不支給が認められるか、一部不支給(減額)にとどまるか、あるいは全額支給が必要かは、個別の事案における非違行為の内容・程度・勤続年数・その他の事情を総合して判断されます。

✕ よくある経営者の誤解

「懲戒解雇したのだから、退職金はゼロに決まっている」→ 誤りです。
就業規則・退職金規程に不支給規定がない場合は退職金を支払う必要があります。規定があっても「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」と認められなければ一部支払が命じられることがあります。

「退職金不支給規定があれば、どんな懲戒解雇でも全額不支給にできる」→ 誤りです。
規定があっても、個別事案での合理性(「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」)が認められない場合は全額不支給は認められません。規程の存在と合理性の判断は別の問題です。

 退職金規程の整備・不支給・減額の合理性の見通し・返還請求の可否について、実施前の弁護士への相談が不可欠です。→ 経営労働相談はこちら

3. 支給済み退職金の返還請求

退職金支給後に非違行為が発覚した場合の返還請求

 退職金を支給した後に非違行為が発覚した場合(例:退職後に在職中の横領が判明した場合)でも、就業規則・退職金規程に返還事由の規定があり、個別事案において合理性が認められる場合には、支給した退職金の全部または一部の返還を請求することができます。

 ただし、支給済みの退職金の返還を請求するためには、返還請求の根拠(規程上の返還規定・不当利得返還請求権等)と、返還を正当化する合理性(「勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」)の両方が必要です。また、時効の問題も生じる場合があるため、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「懲戒解雇と同時に退職金全額不支給としたが、就業規則に不支給規定がなかった。後に退職金全額の支払を求める訴訟を起こされ、全額支払う結果になった」

・「長年勤続した社員を横領で懲戒解雇・退職金全額不支給とした。訴訟で懲戒解雇は有効とされたが、勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為とは認められないとして退職金の30%の支払が命じられた」

 退職金不支給・減額の可否と範囲は、懲戒解雇の有効性とは別に弁護士と事前に確認することが不可欠です。

4. まとめ

 懲戒解雇と退職金不支給・減額の関係について、①就業規則・退職金規程に懲戒解雇事由を不支給・減額事由として規定していることが前提、②退職金不支給・減額の合理性は「勤続の功を抹消(全額不支給の場合)または減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうか」で判断される、③懲戒解雇が有効であっても全額不支給が認められない場合があり、退職金の30%等の一部支払が命じられることがある、④支給済み退職金の返還も規程の規定と合理性があれば請求できる、という点が重要です。退職金の不支給・減額を検討している場合は必ず事前に弁護士に相談してください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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