労働問題48 懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の退職の効果を伴う懲戒処分を検討する際の注意点を教えて下さい。

この記事の要点

退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすい。大事なのはリスクを理解し見通しを立ててから踏み切ることです。争うのが怖くて必要な処分ができないのも問題です。

懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の退職の効果を伴う懲戒処分は懲戒権濫用の有無が厳格に審査され紛争となりやすく、退職金不支給・減額の場合はさらにリスクが高まります。重大な問題行動への適切な懲戒処分は必要ですが、事前にリスクと見通しを弁護士と確認することが不可欠です。

退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすく特に慎重な対応が必要

懲戒権濫用の有無が厳格に審査されます。退職金不支給・減額の場合はさらに訴訟で争われるリスクが高まります。


重大な問題行動には適切な懲戒処分が必要——軽い処分でお茶を濁すべきでない

争われるのが怖くて必要な懲戒処分ができないことは問題です。事案に応じた適切な処分を行うことが必要です。


リスクを理解し見通しを立ててから踏み切ることが大事

リスクと見通しを具体的に把握した上で行う懲戒処分は、紛争が発生しても予定通りに対応できます。弁護士への事前相談が不可欠です。

1. 退職の効果を伴う懲戒処分の種類と特徴

懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職とは

 退職の効果を伴う懲戒処分には、懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職などがあります。懲戒解雇は使用者が一方的に行う最も重い懲戒処分です。諭旨解雇・諭旨退職は、使用者が労働者に懲戒解雇に相当する事由があることを告げた上で退職届の提出を勧告し、労働者がそれに応じて退職届を提出した場合は退職(合意退職)とし、提出しない場合は懲戒解雇とする処分です。いずれも退職の効果を伴う重い懲戒処分であり、就業規則の定め方は会社によって異なります。

退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすい

 懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の退職の効果を伴う懲戒処分については、懲戒権濫用の有無が厳格に審査され、紛争となりやすい傾向にあります。これは、退職を強いられる労働者にとって雇用を失うという重大な不利益が生じるため、当然のことながら争いやすくなるからです。

 特に、退職金が不支給・減額とされる場合には、訴訟で争われるリスクがさらに高くなります。退職金の不支給・減額という金銭的な不利益が加わることで、労働者が弁護士に相談して争う動機がさらに強まるからです。

2. 注意点①:リスクを理解し、見通しを立ててから踏み切る

「争われるのが怖い」から必要な処分を回避してはいけない

 退職の効果を伴う懲戒処分は、特に慎重に行う必要があり、特に退職金が不支給・減額される事案であれば訴訟で争われることを覚悟した上で懲戒処分に踏み切るくらいの心構えが必要です。このようにアドバイスすると、あたかも重い懲戒処分をしないよう言っているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。

 事案に応じた適切な懲戒処分は必要であり、重大な問題行動を行った社員については懲戒解雇等の懲戒処分に処し退職金を不支給または減額する必要があります。争われるのが怖くて必要な懲戒処分ができなかったり、リスクを具体的に理解せずに見通しが立たないまま何となく懲戒解雇等を行ったりといった事態にならないようにすることが重要です。

リスクを理解した上での懲戒処分は「リスク」ではなくなる

 大事なのは、これから行おうとする処分のリスクを理解し、見通しを立ててから懲戒処分等に踏み切ることです。リスクを具体的に理解し見通しを立ててから懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の退職の効果を伴う懲戒処分を行ったことにより紛争が発生したとしても、予定どおりの経過をたどり予定どおりの結末で終わるのであれば、もはや「リスク」と評価することすらできないようにも思えます。

✕ よくある経営者の誤解

「争われるのが怖いから、懲戒解雇ではなく軽い処分にしておこう」→ 問題です。
重大な問題行動に対して適切な処分を行わないことは、職場の秩序維持の観点からも問題があります。また軽い処分を行ってしまうと一事不再理の問題(労働問題45参照)が生じ、後から重い処分に変更できなくなります。

「何となく懲戒解雇すれば大丈夫だろう」→ 危険です。
リスクを具体的に理解せずに見通しが立たないまま懲戒解雇等を行うことも問題です。予想外の展開になった場合に対応できなくなります。事前に弁護士とリスクと見通しを確認することが不可欠です。

3. 注意点②:退職金不支給・減額のリスクを正確に把握する

退職金不支給・減額が争われやすい理由

 退職金の不支給・減額は、労働者にとって金銭的な損失が大きく、弁護士費用をかけてでも争う動機が生まれやすい事項です。特に、長年勤続した社員の退職金は高額になりやすく、不支給・減額の不利益も大きくなります。

 退職金の不支給・減額を有効に行うためには、①就業規則・退職金規程に不支給・減額規定があること、②懲戒解雇自体が有効であること(懲戒権濫用でないこと)、③不支給・減額の範囲が規程の定める範囲内であること、という条件を満たす必要があります。懲戒解雇が無効とされれば、退職金の不支給・減額も問題となります(詳細は労働問題49参照)。

訴訟になることを想定した事前準備

 退職金不支給・減額を伴う懲戒解雇については、訴訟で争われることを前提として事前準備をしておくことが重要です。具体的には、①非違行為の事実を証明できる証拠の整備、②懲戒権濫用でないことを示す各考慮要素の充足(規律違反の態様・程度・回数・改善の余地の有無等)、③就業規則・退職金規程の不支給・減額規定の確認、④弁明聴取等の手続の適正性の確保、⑤弁護士との事前協議、が不可欠です。

 退職の効果を伴う懲戒処分を検討している場合、実施前に弁護士とリスク・見通し・証拠の整備状況を確認することが不可欠です。特に退職金不支給・減額を伴う場合は早めにご相談ください。→ 経営労働相談はこちら

4. 実務上の進め方:弁護士との事前協議の重要性

「リスクと見通しを把握した上で踏み切る」ための具体的なステップ

 退職の効果を伴う懲戒処分を行う前に、弁護士との事前協議において次のことを確認することが重要です。①当該非違行為が就業規則の懲戒解雇事由に該当するか、②懲戒権濫用に当たらないか(各考慮要素の充足度の確認)、③解雇予告義務・解雇制限事由への対応、④退職金不支給・減額規定の有無と適用の可否、⑤紛争となった場合の見通し(勝訴可能性・解決金の水準等)、⑥証拠の整備状況と不足している証拠の確認。

 これらを弁護士と事前に確認した上で踏み切ることで、「リスク」は「想定内の経過」へと変わります。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「横領した社員を懲戒解雇・退職金全額不支給とした。労働審判で争われたが、事前に弁護士と協議して証拠を整備・見通しを立てていたため、想定の範囲内で解決した」

・「証拠不十分なまま懲戒解雇・退職金不支給を強行した。訴訟で非違行為の事実を証明できず、懲戒解雇無効・退職金全額支払いという結果になった」

 リスクを理解し見通しを立てた上での処分と、見通しなしの処分では、同じ紛争でも結果が全く異なります。

5. まとめ

 懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の退職の効果を伴う懲戒処分については、懲戒権濫用の有無が厳格に審査され紛争となりやすく、退職金不支給・減額の場合はさらにリスクが高まります。重大な問題行動を行った社員には適切な懲戒処分が必要であり、争われるのが怖くて必要な処分を回避することは問題です。大事なのはリスクを具体的に理解し見通しを立ててから踏み切ることです。リスクと見通しを把握した上で行った懲戒処分は、紛争が発生しても予定通りに対応できます。退職の効果を伴う懲戒処分を検討している場合は、必ず実施前に弁護士にご相談ください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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