労働問題47 懲戒解雇の懲戒権濫用判断で考慮される要素とは?実務上の注意点を会社側弁護士が解説

この記事の要点

懲戒権濫用の判断基準は「職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したか」です。規律違反の態様・程度・回数・改善の余地の有無が総合的に考慮されます。

懲戒解雇が懲戒権濫用として無効とならないためには、就業規則の懲戒事由に該当するだけでなく、規律違反が職場秩序を著しく阻害するほど深刻なものであることが必要です。各考慮要素の意味を正確に理解し、事前の記録積み上げが不可欠です。

①規律違反行為の態様:業務命令違反・職務専念義務違反・信用保持義務違反等

どのような種類の規律違反行為であるかが、懲戒の重さの相当性を判断する出発点です。横領・背任などの重大な背信行為ほど懲戒解雇の相当性が認められやすくなります。


②程度・回数:一度の違反か繰り返しの違反か

違反の深刻さと繰り返しの有無が重要です。繰り返しの違反や重大な一回の違反であれば懲戒解雇の相当性が高まります。各違反の具体的記録が必要です。


③改善の余地の有無:指導の記録が証拠になる

改善の機会を与えたにもかかわらず改善がなかったという事実が懲戒解雇の相当性を高めます。面談記録・注意書等の書面による記録の積み重ねが極めて重要です。

1. 懲戒権濫用判断の基本的な枠組み

「職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したか」という基準

 懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては、規律違反行為により職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したのかが問題となります(労働事件審理ノート参照)。

 懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分であるため、その行使が許されるのは、当該労働者を職場に残しておくことが職場秩序の維持上到底許容できないほどの深刻な規律違反があった場合に限られます。単に就業規則の懲戒解雇事由に形式的に該当するだけでは足りず、その違反の深刻さが「職場排除を必要とするほど」であることが求められます(労働契約法15条)。

考慮される3つの要素

 懲戒権濫用の有無を判断する際に考慮される主な要素は、①規律違反行為の態様(業務命令違反・職務専念義務違反・信用保持義務違反等)、②程度・回数、③改善の余地の有無、です。これらを総合考慮した上で、懲戒解雇という最も重い処分が社会通念上相当かどうかが判断されます。

2. ①規律違反行為の態様

態様の種類と懲戒解雇の相当性

 規律違反行為の態様とは、どのような種類・性質の規律違反であるかを指します。代表的な態様として、業務命令違反・職務専念義務違反・信用保持義務違反・服務規律違反・暴行・ハラスメント・横領・背任・経歴詐称などがあります。

 横領・背任などの重大な背信行為、重大なハラスメント、刑事犯罪に該当する行為などは、一回であっても懲戒解雇の相当性が認められやすい態様です。一方、業務命令違反・職務専念義務違反などは一回の軽微な違反では懲戒解雇の相当性が認められにくく、繰り返しの違反や悪質性が問われます。

態様の事実確認と記録の重要性

 規律違反行為の態様を明確にするためには、非違行為の具体的な事実(いつ・どこで・何を・どのように)を証拠に基づいて確定させることが不可欠です。「横領らしい行為があった」という曖昧な認識のまま懲戒解雇に踏み切ると、後の紛争で態様の事実を証明できなくなるリスクがあります。徹底した事実調査と証拠の整備が、懲戒解雇の有効性を支える基盤となります。

3. ②程度・回数

程度:一回の違反で懲戒解雇が認められるか

 一回の違反であっても、その程度が著しく重大であれば懲戒解雇の相当性が認められることがあります。高額の横領・重大なセクシャルハラスメント・会社の重要な機密情報の外部漏洩などは、一回でも懲戒解雇が認められやすい典型例です。一方、程度の軽微な違反を一回だけ理由として懲戒解雇を行うことは、社会通念上相当でないとして懲戒権濫用と判断される可能性が高いです。

回数:繰り返しの違反が累積的評価を高める

 同種の規律違反が繰り返されることで、累積的に評価が高まり懲戒解雇の相当性が認められやすくなります。ただし繰り返しを根拠とする場合は、過去の各違反について具体的な事実の記録が残っていることが不可欠です。また、過去に同一の非違行為について懲戒処分を行っている場合は一事不再理の問題(労働問題45参照)が生じるため、各違反を明確に区別して記録することが重要です。

✕ よくある経営者の誤解

「何度も問題を起こしているのだから懲戒解雇は当然有効だ」→ 証拠がなければ主張できません。
 繰り返しの違反を根拠とする場合でも、各違反の具体的事実を証拠として示せることが前提です。記録がなければ「口頭で言っただけ」の主張は通用しません。

「一度の横領でも懲戒解雇が難しいと聞いた」→ 程度・態様次第です。
 横領の態様・金額・計画性・反省の有無によっては一回でも懲戒解雇が認められるケースは多くあります。個別の状況を弁護士に確認することが不可欠です。

4. ③改善の余地の有無

改善の余地の有無が懲戒解雇の相当性を左右する

 会社が適切な注意指導・改善の機会を与えたにもかかわらず改善が見られなかったという事実が必要です。一度も指導・注意をせずにいきなり懲戒解雇に踏み切ることは「改善の機会を与えなかった」として懲戒権濫用と判断されるリスクが高くなります(横領・重大なハラスメント等、一回の行為の深刻さから改善の余地なしと評価される場合を除く)。

注意指導の記録が「改善の余地なし」の証拠となる

 「改善の余地なし」を立証するためには、注意指導を行ったにもかかわらず改善がなかったという事実を記録として残しておくことが不可欠です。面談記録(日時・出席者・指導内容・本人の反応)・注意書・改善指示書・業務改善計画書(PIP)などが証拠となります。「口頭では何度も言った」という主張は裁判では通用しません。書面による記録の積み重ねが、後の紛争で会社を守る最大の武器となります。

 懲戒解雇の各考慮要素の充足度の確認・注意指導記録の整備・懲戒権濫用リスクの事前評価について、実施前の弁護士への相談が不可欠です。→ 経営労働相談はこちら

5. その他の考慮要素と実務上のポイント

3要素以外に考慮される主な事情

 上記3要素に加えて、次のような事情も総合的に考慮されます。

 本人の反省・謝罪の有無:非違行為後に本人が真摯に反省・謝罪しているかどうかは懲戒解雇の相当性に影響します。深い反省と再発防止の誓約がある場合はより軽い処分が相当と判断されることがあります。

 他の社員との処分の均衡:同種・類似の違反をした他の社員に対してどのような処分を行ったかとの均衡が問われます。他の社員には軽い処分を行っているのに特定の社員だけ懲戒解雇とすることは均衡を欠くとして懲戒権濫用と判断されるリスクがあります。

 被害の回復の有無:横領の場合、被害弁償がなされているかどうかが考慮されることがあります。

 弁明聴取等の手続の適正性:本人から弁明の機会を与えたかどうかが問われます(労働問題40参照)。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「何度も問題を起こしていたが記録を残していなかった。懲戒解雇後に訴訟となり、改善の機会を与えた事実を証明できず懲戒権濫用として無効とされた」

・「同種の行為をした別の社員には減給処分しか行っていなかったのにこの社員だけ懲戒解雇とした。処分の均衡を欠くとして懲戒権濫用と判断された」

 いずれも、懲戒解雇の実施前に弁護士に相談し各考慮要素を確認していれば防ぐことができた事案です。

6. まとめ

 懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては、規律違反行為により職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したのかが問われます。考慮される要素として、①規律違反行為の態様(業務命令違反・職務専念義務違反・信用保持義務違反等)、②程度・回数、③改善の余地の有無、が挙げられます。これらに加えて、本人の反省・謝罪の有無・他の社員との処分の均衡・弁明聴取等の手続の適正性も考慮されます。懲戒解雇の実施前に各考慮要素を弁護士とともに確認することが、懲戒権濫用リスクを最小化する最善策です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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