労働問題46 就業規則の懲戒解雇事由に該当しても懲戒解雇が無効になる?懲戒権濫用法理を会社側弁護士が解説

この記事の要点

就業規則の懲戒解雇事由への該当は「必要条件」にすぎません。さらに懲戒権濫用(労働契約法15条)の壁を越えなければ、懲戒解雇は無効となります。

 労働契約法15条の懲戒権濫用法理により、就業規則の懲戒解雇事由に形式的に該当する場合でも、懲戒が客観的合理的理由を欠くか社会通念上相当でない場合は、懲戒権濫用として無効となります。

就業規則の懲戒事由該当=懲戒解雇有効ではない

 就業規則の懲戒解雇事由への該当は必要条件にすぎず、懲戒権濫用法理(労契法15条)という別の壁があります。


客観的合理的理由+社会通念上の相当性の両方が必要

 非違行為の重大性・悪質性・処分の均衡・手続の適正性などを総合考慮して判断されます。


判断要素の詳細は労働問題47で解説

 懲戒権濫用の具体的な考慮要素は労働問題47で詳しく解説しています。

1. 懲戒権濫用法理(労働契約法15条)の適用

条文の内容と意義

 労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しています。

 したがって、社員の非違行為が就業規則に定める懲戒解雇事由に該当するように見える場合であっても、懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠いたり、社会通念上相当でなかったりした場合は、懲戒権を濫用したものとして無効となります。

二段階の審査:事由該当性+懲戒権濫用の有無

 懲戒解雇の有効性は二段階で審査されます。第一段階として就業規則の懲戒解雇事由への該当性が問われ、第二段階として懲戒権濫用(労契法15条)の有無が問われます。第一段階を満たしても第二段階で否定されれば懲戒解雇は無効となります。就業規則の懲戒解雇事由への該当は必要条件にすぎず、十分条件ではありません。

2. 懲戒解雇が無効となりやすい典型的なケース

 懲戒権濫用として懲戒解雇が無効と判断されやすい典型的なケースは次の通りです。

 ①非違行為の程度が軽微な場合:就業規則の文言上は懲戒解雇事由に該当するが、非違行為の内容・程度が軽微で、懲戒解雇という最も重い処分を選択することが重すぎると評価される場合。

 ②処分の均衡を欠く場合:他の社員の類似行為に対しては軽い処分しか行っていないのに、特定の社員だけを懲戒解雇した場合。恣意的・差別的な処分選択は社会通念上相当でないと評価されます。

 ③弁明の機会を与えなかった場合:本人から十分な弁明を聴取せずに懲戒解雇を行った場合(労働問題40参照)。

 ④就業規則の懲戒事由の解釈を拡大しすぎた場合:就業規則の文言を拡大解釈して本来該当しない行為を懲戒解雇事由に当たるとした場合。

 ⑤反省・謝罪があり再発可能性が低い場合:非違行為があっても本人が深く反省・謝罪しており再発可能性が低いにもかかわらず、最も重い懲戒解雇を選択した場合。

✕ よくある経営者の誤解

「就業規則に懲戒解雇事由として書いてある以上、懲戒解雇は当然有効だ」→ 誤りです。
 就業規則の懲戒事由への形式的な該当は必要条件にすぎません。さらに労契法15条の懲戒権濫用法理の審査があり、客観的合理的理由と社会通念上の相当性の両方を満たさなければ無効となります。

「横領した社員だから就業規則の規定通り懲戒解雇すれば問題ない」→ 慎重な判断が必要です。
 横領という重大な非違行為であれば懲戒解雇が認められることが多いですが、横領額・態様・反省の有無・被害弁償の有無等によっては懲戒権濫用と判断される可能性があります。必ず事前に弁護士に相談することをお勧めします。

 懲戒解雇事由への該当性の確認・懲戒権濫用の有無の判断・処分の均衡の確認について、実施前の弁護士への相談が不可欠です。→ 経営労働相談はこちら

3. 懲戒解雇前に確認すべき実務上のポイント

 懲戒解雇を実施する前に、次の各点を確認することが不可欠です。

 ①就業規則の懲戒解雇事由への該当性:当該非違行為が就業規則の懲戒解雇事由の規定に該当するかどうかを確認します(就業規則がない場合は労働問題41参照)。

 ②非違行為の事実確認と証拠整備:非違行為の事実を客観的証拠に基づいて確定させます。事実が曖昧なまま懲戒解雇を行うと、後の紛争で立証できなくなるリスクがあります。

 ③本人からの弁明聴取:本人に弁明の機会を与え、その内容を記録しておきます。弁明を踏まえて処分の相当性を判断したというプロセスが重要です。

 ④処分の相当性の判断:非違行為の重大性・悪質性・反省の有無・他の社員との処分の均衡等を総合考慮し、懲戒解雇という最も重い処分が相当かどうかを判断します(考慮要素の詳細は労働問題47参照)。

 ⑤解雇予告義務・解雇制限事由の確認:解雇予告義務(労基法20条)と解雇制限事由(傷病休業中等)の確認を行います(詳細は労働問題40参照)。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「就業規則の規定に形式的に該当するとして懲戒解雇したが、非違行為の程度が軽微で他の社員への類似行為に対しては戒告しかしておらず、処分の均衡を欠くとして懲戒権濫用・無効とされた」

・「事実確認が不十分なまま懲戒解雇を行ったところ、後の審理で非違行為の事実が十分に立証できず、客観的合理的理由を欠くとして無効とされた」

 懲戒解雇は「形式的な事由への該当」だけでは足りません。実質的な有効性の確認が不可欠です。

4. まとめ

 社員の非違行為が就業規則に定める懲戒解雇事由に該当するように見える場合であっても、労働契約法15条の懲戒権濫用法理が適用されます。懲戒が客観的に合理的な理由を欠いたり、社会通念上相当でなかったりした場合は、懲戒権濫用として無効となります。就業規則の懲戒解雇事由への該当は必要条件にすぎず、非違行為の重大性・処分の均衡・弁明聴取等の手続の適正性なども含めた総合判断が必要です。懲戒解雇を検討している場合は、必ず実施前に弁護士にご相談ください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/03/25

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