労働問題442 労働審判で調停が不成立となった場合の流れ|会社経営者が判断を誤らないためのポイント

1. 調停が成立しなかった場合の基本的な流れ

 労働審判手続において、労働審判委員会から示された調停案を当事者のいずれかが最後まで受け入れなかった場合、調停は不成立となります。この場合、手続はそのまま終了するわけではありません。

 通常は、審理の終結が宣言され、その後、概ね調停案に沿った内容の労働審判が告知されるか、審判書が送達されることになります。つまり、調停で提示されていた方向性が、そのまま審判という形で示されることが多いのです。

 もっとも、例外的にいわゆる24条終了(労働審判法24条)という形で手続が終了する場合もありますが、実務上は多数派ではありません。通常は、一定の判断が示されます。

 会社経営者として重要なのは、「調停を断ればゼロに戻る」という理解は誤りだという点です。調停が成立しなかった場合でも、裁判所の判断が示される局面に進むということを前提に行動する必要があります。

 労働審判は、調停と審判が連続した制度設計になっています。したがって、調停案を拒否するという選択は、その後に示される労働審判の内容を見据えた判断でなければなりません。

 会社経営者としては、調停不成立後の流れを正確に理解し、次に何が起こるのかを前提に戦略を立てることが不可欠です。

2. 審理終結と労働審判の告知・送達

 調停が成立しなかった場合、労働審判委員会は審理の終結を宣言し、その後、労働審判を当事者双方に告知するか、審判書を送達することになります。

 実務上は、期日において口頭で審判内容が告知されることもあれば、後日、審判書が正式に送達されることもあります。いずれにしても、ここで示される内容が、労働審判手続における裁判所の最終的な判断となります。

 多くの場合、その内容は第1回期日や第2回期日に示されていた調停案に概ね沿ったものになります。つまり、調停案は単なる交渉提案ではなく、裁判所の暫定的な判断を反映したものと理解すべきです。

 会社経営者として重要なのは、審判が出た段階で初めて裁判所の見解を知るわけではないという点です。すでに期日で方向性は示されていることが通常であり、審判内容はその延長線上にあります。

 そして、審判が告知または送達された時点から、2週間という短い期間で異議申立てを行うかどうかの判断を迫られることになります。この期間は延長できません。

 調停不成立後は、迅速に審判が示され、その後の対応期限も短いという流れになります。会社経営者としては、調停段階から審判の可能性を見据え、次の判断に備えておくことが重要です。

3. 労働審判の内容は調停案に沿うことが多い

 調停が成立せずに労働審判が出される場合、その内容はこれまで提示されてきた調停案に概ね沿ったものになることが多いのが実務の実情です。

 労働審判委員会は、第1回期日や第2回期日において、当事者双方の主張立証を踏まえた上で、一定の心証を形成しています。そして、その心証を前提に調停案が示されます。したがって、その調停案は単なる妥協案ではなく、裁判所としての評価を反映したものと理解すべきです。

 会社経営者の中には、「調停案は交渉用の数字であり、審判になれば違う内容になるのではないか」と期待する方もいます。しかし、現実には、審判はそれまでの審理結果を踏まえて出されるため、大きく方向性が変わることは多くありません。

 むしろ、調停案を最後まで拒否した結果、ほぼ同水準の内容で労働審判が出されるという展開が典型的です。この点を正確に理解していないと、判断を誤る危険があります。

 会社経営者として重要なのは、調停案の段階で、裁判所の暫定的な判断が示されていると捉えることです。その評価をどう受け止めるかが、その後の対応を左右します。

 調停案を安易に拒否するのではなく、審判になった場合の見通しを冷静に検討した上で判断する姿勢が不可欠です。調停案と審判は連続しているという現実を踏まえた経営判断が求められます。

4. 異議申立ての期限と手続

 労働審判が告知または送達された場合、当事者は2週間以内に異議申立てをすることができます。 この期間は非常に短く、原則として延長は認められません。

 起算点は、期日において審判内容が告知された場合にはその日から、審判書が送達された場合には送達の日からとなります。この2週間を経過すると、原則として異議申立てはできなくなります。

 異議申立ては、形式的には比較的簡易な手続です。理由を詳細に書く必要はなく、「異議を申し立てる」との意思表示をすれば足ります。しかし、その法的効果は極めて重大です。

 会社経営者として理解すべきなのは、異議申立ては「やり直しを求める手続」ではなく、「労働審判の効力そのものを失わせる手続」であるという点です。異議が出されると、労働審判の効力は全面的に失われ、通常訴訟へ移行します。

 また、異議申立ての判断は、短期間で行わなければなりません。調停案の段階から、審判になった場合の見通しや訴訟移行リスクを見据えて検討しておくことが重要です。

 2週間という期間は、経営判断を行うには決して長いとはいえません。会社経営者としては、審判内容を精査し、支払額の妥当性、訴訟移行時のリスク、企業イメージへの影響などを総合的に考慮した上で、迅速に判断する体制を整えておく必要があります。

5. 異議がなかった場合の法的効力

 労働審判が告知または送達された後、2週間以内に当事者のいずれからも異議申立てがなされなかった場合、労働審判は確定します。

 確定した労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有します。すなわち、既判力および執行力が生じます。これは、単なる「話し合いの結果」ではなく、法的に確定した判断であることを意味します。

 既判力が生じるということは、同一の紛争について改めて争うことができなくなるということです。また、執行力があるため、支払を命じられた金銭を任意に履行しない場合には、強制執行を受ける可能性があります。

 会社経営者として重要なのは、異議を出さなければ、その内容が最終確定するという点です。調停案を拒否したにもかかわらず、審判に対して異議を出さなければ、その審判内容を受け入れたのと同じ結果になります。

 したがって、異議を出さないという選択は、「何もしない」という消極的判断ではなく、「審判内容を確定させる」という積極的な経営判断です。

 労働審判が確定すれば、紛争は法的に終結します。時間的・精神的・金銭的コストの拡大を防ぐという意味では、一定の合理性を持つ選択となる場合もあります。

 会社経営者としては、確定後の法的効力を正確に理解したうえで、異議を出さないという判断の意味を十分に認識する必要があります。

6. 異議申立てがあった場合の効果

 労働審判に対して当事者のいずれかが2週間以内に異議申立てを行った場合、労働審判の効力は全面的に失われます。 ここが極めて重要なポイントです。

 異議を申し立てた当事者に不利な部分だけが無効になるのではありません。たとえ異議申立てをした側に有利な内容が含まれていたとしても、労働審判全体の効力が消滅します。

 その結果、手続は通常訴訟へと移行します。労働審判手続での審理内容は訴訟に引き継がれますが、裁判所は改めて全面的に審理を行うことになります。

 会社経営者として理解すべきなのは、異議申立ては「一部修正を求める制度」ではないということです。労働審判という迅速手続の結果を白紙に戻し、通常訴訟という長期戦に入る選択です。

 訴訟に移行すれば、期日は複数回にわたり、証人尋問も行われ、判決まで相当の時間を要することが一般的です。弁護士費用や社内対応の負担も増大します。

 また、労働審判段階で提示されていた解決水準よりも、訴訟で不利な結果が出る可能性も否定できません。異議を出せば必ず状況が好転するという保証はありません。

 異議申立ては強力な手段ですが、その効果は全面的かつ不可逆的です。会社経営者としては、その重大性を正確に理解したうえで判断しなければなりません。

7. 訴訟移行後にリスクが拡大する可能性

 労働審判に対して異議申立てを行い、通常訴訟に移行した場合、会社経営者として最も注意すべきなのは、支払額が増える可能性があるという点です。

 労働審判は迅速解決を目的とする制度であり、一定の妥協的要素を含んだ判断が示されることがあります。これに対し、通常訴訟では、証人尋問や詳細な証拠調べを経て、より厳密な法的判断が下されます。

 その結果、労働審判で支払を命じられた金額よりも多額の支払を命じられることは、決して珍しいことではありません。会社側が異議を申し立てたにもかかわらず、結果として不利な判決を受けるという展開も現実にあります。

 また、訴訟は長期化する傾向があります。解決までに1年以上を要することもあり、その間、社内関係者の負担、弁護士費用、経営資源の分散といったコストが継続的に発生します。

 さらに、訴訟は公開の法廷で行われるため、社会的影響やレピュテーションリスクが高まる可能性もあります。特に、解雇事案やハラスメント事案では、その影響は小さくありません。

 会社経営者としては、「不服だから異議を出す」という感情的判断は避けるべきです。異議申立ては、金額・時間・社会的影響を含めた総合的リスクを引き受ける選択であることを理解する必要があります。

 訴訟に移行すれば、労働審判の枠内での早期解決という選択肢は失われます。リスクが拡大する可能性を十分に見極めたうえで、慎重に判断すべき局面です。

8. 異議申立てを検討する際の経営判断

 労働審判に対して異議を申し立てるかどうかは、法的判断であると同時に、経営判断そのものです。会社経営者としては、単に「納得できるかどうか」ではなく、総合的なリスクとコストを比較衡量する必要があります。

 まず検討すべきは、労働審判の内容が、訴訟で覆る現実的可能性がどの程度あるのかという点です。法的評価に明確な誤りがあるのか、事実認定に重大な問題があるのか、それとも裁量的判断の範囲内なのかを、冷静に見極めなければなりません。

 次に、訴訟移行後のコストと時間です。判決までの期間、弁護士費用、社内対応の負担を含めて、どれだけの経営資源を投入する覚悟があるのかを検討します。短期的な支払額だけでなく、長期的な負担を視野に入れる必要があります。

 さらに、社会的影響や社内への波及効果も考慮すべきです。紛争が長期化することで、他の従業員や取引先に与える影響は無視できません。

 重要なのは、異議を出せば状況が好転するという保証はないという現実です。むしろ、支払額が増える可能性すらあります。感情的な不満や「一度争ってみたい」という動機で判断すべきではありません。

 会社経営者としては、損失の最小化という観点から、労働審判の確定を受け入れるのか、それとも訴訟リスクを引き受けるのかを選択します。その判断は、企業全体の利益を基準に行うべきものです。

 異議申立ては強力な手段ですが、同時に重大なリスクを伴います。経営者としての冷静な比較衡量が求められる局面です。

9. 和解受諾と異議申立ての比較検討

 労働審判において調停が成立しなかった場合、会社経営者は最終的に「労働審判を受け入れるか」「異議申立てをして訴訟に移行するか」という二者択一を迫られます。この判断は、法的評価だけでなく、経営上の合理性を基準に比較検討すべき問題です。

 まず、労働審判を受け入れる場合のメリットは、早期確定と予測可能性です。支払額が確定し、紛争は終結します。追加的な弁護士費用や長期化リスクを回避できる点は大きな利点です。

 一方で、異議申立てを行う場合は、労働審判の内容を覆す可能性に賭けることになります。しかし、その反面、支払額が増加するリスクや、紛争が長期化するコストを引き受けることになります。訴訟は時間も費用もかかる長期戦です。

 重要なのは、労働審判の水準が「不満である」ことと、「訴訟で改善する合理的可能性がある」ことは別問題であるという点です。不満感だけで異議を出すことは、経営的に合理的とはいえません。

 また、労働審判で示された金額が、訴訟での想定敗訴額よりも低い水準である場合には、受け入れることが合理的な選択となることも少なくありません。

 会社経営者としては、金額差、時間、社内負担、社会的影響を総合的に比較し、「どちらが企業全体として損失を最小化できるか」という観点で判断する必要があります。

 和解受諾と異議申立ては、いずれも正解となり得ます。しかし、その正解は事案ごとに異なります。感情ではなく、合理的比較に基づく決断こそが、経営者に求められる姿勢です。

10. まとめ|異議申立ては慎重な経営判断を要する

 労働審判手続で調停が成立しなかった場合、審理終結が宣言され、概ね調停案に沿った内容の労働審判が告知または送達されます。そして、2週間以内に異議申立てをしなければ、その労働審判は確定し、裁判上の和解と同一の効力を持つことになります。

 一方、異議申立てがなされれば、労働審判の効力は全面的に失われ、通常訴訟へと移行します。しかし、訴訟に移行すれば必ず有利になるわけではありません。むしろ、労働審判で命じられた金額よりも多額の支払を命じられるケースも珍しくありません。

 会社経営者として重要なのは、異議申立ては「納得できないから出す」ものではなく、訴訟リスクを引き受ける覚悟の有無を問う経営判断であるという認識です。時間、費用、レピュテーション、社内への影響などを総合的に考慮する必要があります。

 労働審判は迅速解決を目的とした制度です。調停不成立後も、制度の枠内で一定の判断が示されます。その評価を踏まえ、確定させるか、長期戦に入るかを冷静に見極めることが求められます。

 異議申立ては強力な選択肢ですが、同時に重大なリスクを伴います。会社経営者としては、感情ではなく、企業全体の利益を基準に慎重な判断を行うことが、最終的な損失を最小化する道となります。

 

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更新日2026/2/15

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