労働問題41 就業規則がなくても懲戒解雇できる?フジ興産事件判決と実務対応を会社側弁護士が解説

この記事の要点

就業規則がない(または周知されていない)場合、原則として懲戒解雇はできません。就業規則の整備と周知が、懲戒権行使の大前提です。

 フジ興産事件最高裁判決に基づき、懲戒解雇には就業規則への懲戒事由の規定と周知が必要です。例外として労働協約・個別労働契約に根拠がある場合は懲戒解雇が可能。それもない場合は普通解雇や退職勧奨で対処することになります。

原則:就業規則への規定と周知がなければ懲戒解雇できない

 フジ興産事件最高裁判決により、就業規則に懲戒の種類・事由を規定して周知させることが懲戒解雇の前提です。重大な企業秩序違反行為があっても、規定・周知がなければ懲戒解雇はできません。


例外:労働協約または個別労働契約に根拠がある場合

 労働協約または個別労働契約に懲戒の種類・事由が定められている場合は、就業規則がなくても懲戒解雇が可能と考えられます。


根拠規定がない場合:普通解雇または退職勧奨で対処

 懲戒解雇の根拠規定が一切ない場合は、普通解雇(解雇権濫用法理の適用あり)または退職勧奨による合意退職で対処することになります。

1. 原則:就業規則への規定と周知がなければ懲戒解雇できない

フジ興産事件最高裁判決の内容

 フジ興産事件最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決は、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する」「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」と判示しています。

 この判決に基づけば、就業規則に懲戒解雇事由を定め、かつその就業規則を従業員に周知させておかなければ、労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても、通常は懲戒解雇することはできないと考えられます。

 ここでいう「周知」とは、従業員が就業規則の存在や内容を知ろうと思えばいつでも知ることができる状態にしておくことをいいます(労働基準法106条)。常時各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け・書面での交付・電磁的方法による閲覧可能な状態への置き付けなどの方法があります。周知が不十分な就業規則は法的拘束力が生じません。

2. 例外:労働協約または個別労働契約に根拠がある場合

フジ興産事件判決が排除していない例外的場合

 もっとも、フジ興産事件最高裁判決は、①労働組合との労働協約に懲戒の種類および事由が定められていて当該労働者に労働協約の効力が及んでいる場合、②個別労働契約において懲戒の種類および事由が定められている場合、であっても懲戒解雇することができないとまでは判示していません。

 これらの場合に懲戒解雇することができないと考えるべき理由もないことから、労働協約または個別労働契約に懲戒の根拠規定がある場合には懲戒解雇をすることができると考えられます。ただし、これらの場合でも、懲戒権濫用(労働契約法15条)の問題は別途生じます。

3. 根拠規定が一切ない場合:普通解雇または退職勧奨で対処

懲戒の根拠規定がない場合の対処法

 就業規則に懲戒の種類・事由が定められて周知されておらず、労働組合との労働協約にも個別労働契約にも懲戒の種類・事由が定められていない場合には、労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても、懲戒解雇することはできません。

 この場合の対処法としては、①普通解雇、または②退職勧奨による合意退職、という手段を検討することになります。普通解雇は民法627条に基づいて行うことができますが(労働契約上の根拠規定がなくても行える点で懲戒解雇と大きく異なります)、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用を受けるため、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要です。横領・背任などの重大な非違行為があれば、普通解雇の客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められやすくなります。

✕ よくある経営者の誤解

「就業規則はあるが従業員に配っていない。それでも懲戒解雇できる」→ 誤りです。
 就業規則が存在しても、従業員への周知(いつでも閲覧できる状態)がなければ法的拘束力が生じません。懲戒解雇を有効に行うためには、就業規則の規定と周知の両方が必要です。

「就業規則がなくても、横領した社員なら懲戒解雇して退職金も払わなくていい」→ 誤りです。
 就業規則に懲戒解雇事由・退職金不支給規定がなければ、懲戒解雇としての処分はできず退職金の不支給も難しくなります。横領の場合でも普通解雇という形をとらざるを得ず、退職金の不支給・減額には規程上の根拠が必要です。

 就業規則の整備・懲戒事由の規定・周知の方法・就業規則がない場合の対処法について、個別の状況に応じたご相談をお受けしています。今すぐ問題が生じていない場合でも、事前の就業規則整備が重要です。→ 経営労働相談はこちら

4. 普通解雇と懲戒解雇の根拠規定の違い:重要な実務上のポイント

普通解雇は就業規則がなくても行える

 普通解雇は、民法627条(期間の定めのない雇用の解約申入れ)に基づいて行うことができ、就業規則上の解雇事由の規定がなくても行えます。これは、労働契約上の根拠規定がなくても民法627条により行うことができる普通解雇と、懲戒の根拠規定が必要な懲戒解雇との大きな違いです。

 ただし、普通解雇であっても解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用を受けるため、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合」は無効となります。就業規則がない場合に問題社員への対処を検討する際は、普通解雇の要件を満たせるかどうかも含めて弁護士に相談することをお勧めします。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

 就業規則と懲戒解雇をめぐる紛争でよく見られるのは、次のようなパターンです。

・「就業規則はあったが書棚にしまったままで従業員に周知していなかった。懲戒解雇の有効性が争われ、周知不足を理由に無効とされた」

・「10名未満の小規模事業所で就業規則を作成していなかった。横領した社員を懲戒解雇しようとしたが根拠規定がなく、普通解雇として対処した」

 就業規則の整備と周知は、問題が生じる前の平時に行っておくことが最善策です。問題が発生してから就業規則を整備しても、その社員には遡及適用できないためです。

5. まとめ

 フジ興産事件最高裁判決に基づき、懲戒解雇を行うためには就業規則に懲戒の種類・事由を定め、かつ従業員に周知させておくことが原則として必要です。例外として、労働協約または個別労働契約に懲戒の根拠規定がある場合は懲戒解雇が可能と考えられます。これらの根拠規定が一切ない場合は、重大な企業秩序違反行為があっても懲戒解雇はできず、普通解雇または退職勧奨による合意退職で対処することになります。普通解雇は民法627条に基づいて行えますが、解雇権濫用法理の適用を受けます。就業規則の整備と周知は、問題が生じる前の平時に行っておくことが重要です。

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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