労働問題367 飲食店の手待時間は休憩時間になるのか?残業代計算に含めるべき労働時間の法的判断

1. 問題の所在―接客スタッフの待機時間は休憩か

 飲食店において、接客担当スタッフに対し「お客さんがいない時間は休憩していてよいが、来店があればすぐ対応するように」と指示しているケースは少なくありません。

 この場合、実際に接客業務をしていない時間を**労基法上の「休憩時間」**として扱い、実際に担当業務に従事している時間のみを残業代(割増賃金)計算の基礎となる労働時間とすることができるのでしょうか。

 結論から申し上げれば、原則としてできません。

 その時間は、使用者の指示があれば直ちに就労し得る状態で待機している時間、いわゆる「手待時間」に該当します。労働者が権利として労働から完全に離れることが保障されているとはいえないため、法的には労働時間と評価されます。

 したがって、実際に接客していた時間だけでなく、待機していた時間も含めた全体が、残業代計算の基礎となる労働時間となります。

 この点を誤解したまま労働時間を短く計算していると、将来未払い残業代請求を受けるリスクが極めて高くなります。飲食業の会社経営者にとっては、感覚ではなく法的基準で労働時間を捉えることが不可欠です。

2. 労基法34条における休憩時間の法的定義

 休憩時間については、労働基準法34条が定めています。しかし、条文を形式的に読むだけでは、実務判断を誤る可能性があります。

 法的にいう「休憩時間」とは、労働者が労働から完全に離れることを保障されている時間を指します。単に「仕事をしていない時間」や「客がいない時間」ではありません。

 ここで重要なのは、「自由利用の保障」があるかどうかです。使用者の指示があれば直ちに業務に戻らなければならない状態に置かれている場合、労働者は心理的にも物理的にも拘束されています。そのような時間は、法律上の休憩時間とは評価されません。

 飲食店において「客足が途切れたら座っていてよい」としていても、店内で待機し、来客があれば即対応する義務があるのであれば、それは労働からの解放とはいえないのです。

 会社経営者の感覚としては、「実際に何もしていないのだから休憩ではないか」と考えがちです。しかし、裁判所が問題にするのは「実作業の有無」ではなく、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかという点です。

 この定義を誤って理解すると、労働時間を過少に算定することになり、結果として未払い残業代が発生します。飲食業の会社経営者にとっては、まずこの法的定義を正確に押さえることが、リスク管理の第一歩となります。

3. 手待時間とは何か

 いわゆる「手待時間」とは、実際の作業には従事していないものの、使用者の指示があれば直ちに就労できる状態で待機している時間をいいます。

 飲食店においては、来客がない時間帯にホールスタッフが店内で待機している場面が典型例です。一見すると「何もしていない時間」に見えますが、来客があれば直ちに接客業務に従事しなければならない以上、完全に労働から解放されているとはいえません。

 法的評価のポイントは、使用者の指揮命令下にあるかどうかです。店外に自由に外出できるわけでもなく、私的活動を自由に行えるわけでもなく、一定の場所で待機を求められているのであれば、その時間は拘束時間と評価されます。

 この点について参考になるのが、いわゆるすし処「杉」事件(大阪地裁昭和56年3月24日判決)です。同判決は、客が途切れた際に適宜休憩してよいという合意があったとしても、来客時には即時業務に従事しなければならない状況であれば、それは労基法34条の休憩時間ではなく、単なる手待時間にすぎないと判断しました。

 つまり、「休んでいてよい」と言っているかどうかではなく、実質的に労働から離れる自由が保障されているかどうかが決定的なのです。

 飲食業の会社経営者にとっては、現場感覚で「空いている時間=休憩」と整理するのは極めて危険です。手待時間を労働時間から除外している場合、未払い残業代が発生している可能性が高く、紛争化すれば不利な立場に立たされることになります。

4. 「自由利用の保障」があるかどうかが分水嶺

 休憩時間と手待時間を分ける決定的な基準は、労働者に「自由利用の保障」があるかどうかです。

 法的にいう休憩時間とは、単に業務をしていない時間ではなく、労働者が使用者の指揮命令から離れ、自らの判断で自由に時間を使える状態が保障されている時間を指します。例えば、外出が許されている、私用の電話ができる、仮眠ができるなど、実質的に拘束が解かれていることが必要です。

 一方で、店内に待機し、来客があれば直ちに接客しなければならない状況では、たとえ椅子に座っていても、スマートフォンを見ていても、心理的・物理的拘束は継続しています。このような状態では、自由利用が保障されているとはいえず、労働時間と評価される可能性が極めて高いのです。

 飲食店では、「空いた時間は適宜休んでよい」としているケースが多く見られます。しかし、その「適宜休憩」が、来客対応義務を前提としたものであれば、法律上の休憩時間とは評価されません。

 会社経営者の視点では、「何もしていない時間まで賃金を払うのは不合理だ」と感じるかもしれません。しかし、裁判所が問題にするのは合理感ではなく、指揮命令関係が継続しているかどうかという法的構造です。

 この分水嶺を正しく理解していなければ、労働時間を過少に計算することになります。その結果、後日まとめて未払い残業代を請求されるリスクを抱えることになります。飲食業の会社経営者にとっては、感覚ではなく法的基準で休憩時間を設計することが不可欠です。

5. すし処「杉」事件判決の示した判断基準

 手待時間と休憩時間の区別について、実務上極めて参考になるのが、いわゆるすし処「杉」事件(大阪地裁昭和56年3月24日判決)です。

 この事件では、客が途切れた際などに「適宜休憩してよい」とされていました。しかし、来客があれば直ちに業務に従事しなければならない状況にありました。

 裁判所は、そのような時間は労基法34条所定の休憩時間には当たらないと判断しました。判決は、休憩時間とは「労働から離れることを保障されている時間」をいうのであり、客の来店時には即時業務に従事しなければならない状況では、完全に労働から解放されているとはいえないと明確に述べています。

 つまり、「休憩」と呼んでいるかどうかではなく、実質的に労働から解放されているかどうかが判断基準であることを示したものです。

 飲食店経営の実態からすれば、「空いている時間は座っていてよい」という運用は合理的に思えるかもしれません。しかし、法的評価は別です。来客対応義務が継続している限り、その時間は手待時間として労働時間に該当する可能性が高いのです。

 飲食業の会社経営者にとって重要なのは、自社の運用がこの判例の基準に照らして適法といえるかどうかを検証することです。名称や慣行ではなく、実態がすべてです。この点を誤ると、残業代計算の基礎となる労働時間を大きく誤認することになります。

6. 飲食業で誤解が生じやすい理由

 飲食業において手待時間を休憩時間と誤解してしまう背景には、業態特有の感覚的判断があります。

 まず、来客数が時間帯によって大きく変動するため、「忙しい時間」と「暇な時間」が明確に分かれます。その結果、暇な時間帯は「実質的に休んでいる」と捉えられがちです。しかし、法的評価は作業量の多寡ではなく、指揮命令関係が継続しているかどうかで判断されます。

 また、多くの会社経営者自身が現場に立ち、同じ空間で待機していることも誤解を生む要因です。「自分も一緒に待っているのだから問題ない」という感覚が働きやすいのです。しかし、経営者と労働者では法的立場が全く異なります。経営者の自己拘束と、労働者の指揮命令下での待機は、同列には扱えません。

 さらに、「実際に働いた時間だけで賃金を払うのが公平だ」という直感も、誤った整理につながります。しかし、労働基準法上の労働時間は、実作業時間ではなく、使用者の支配下に置かれている時間を基準に判断されます。

 この感覚と法的基準のズレがある限り、飲食業では手待時間を労働時間から除外してしまう運用が繰り返されます。そして、そのズレが退職時に一気に表面化し、未払い残業代請求へと発展します。

 飲食業の会社経営者にとって必要なのは、「合理的だと思う運用」ではなく、裁判所基準で適法といえる運用かどうかという視点です。ここを切り替えなければ、同様のリスクは将来も継続します。

7. 手待時間を除外した場合の法的リスク

 手待時間を労働時間から除外し、実作業時間のみを基礎として残業代(割増賃金)を計算している場合、未払い残業代が発生している可能性が極めて高いといえます。

 飲食店では、来客のない時間帯が一定程度存在します。しかし、その時間も店内待機を命じ、来客があれば直ちに接客対応する義務がある以上、法的には労働時間と評価される可能性が高いのです。

 この時間を除外していると、1日単位ではわずかな差であっても、月単位・年単位では相当な時間数になります。結果として、時間外労働時間が過少に算定され、割増賃金が不足している状態が継続することになります。

 さらに問題なのは、手待時間の除外が長期間にわたって続いているケースです。退職時にまとめて請求された場合、数十万円から数百万円規模に膨らむことも珍しくありません。加えて、遅延損害金や付加金のリスクもあります。

 会社経営者の立場からすれば、「空いている時間にまで賃金を払うのは不合理」と感じるかもしれません。しかし、裁判所は経営感覚ではなく、指揮命令関係の有無という法的基準で判断します。

 手待時間を除外している現行運用がある場合、それは潜在的な債務を抱えている状態と同じです。飲食業の会社経営者としては、将来の請求リスクを前提に、現状の労働時間算定方法が適法かを早急に検証する必要があります。

8. 会社経営者が取るべき実務対応

 飲食店における手待時間の問題は、感覚的に整理している限り、将来必ず紛争化します。重要なのは、**「実態がどうか」ではなく、「裁判所がどう評価するか」**という視点で運用を見直すことです。

 まず確認すべきは、現在「休憩」として扱っている時間が、真に労働から解放されている時間といえるかどうかです。店内待機を前提にしているのであれば、原則として労働時間に該当する可能性が高いと考えるべきです。

 次に、休憩時間を設定するのであれば、自由利用が実質的に保障されている運用になっているかを検証する必要があります。単に「休んでよい」と言うだけでは足りません。実際に業務から離脱できる体制が整っているかが問われます。

 また、労働時間の算定方法については、就業規則や雇用契約書の記載と実際の運用が一致しているかを精査しなければなりません。書面上は適法でも、運用が異なれば法的には意味を持ちません。

 飲食業の会社経営者にとって最も危険なのは、「これまで問題になっていない」という理由で現状維持を選択することです。退職者が出た時点で一気に表面化するのが、未払い残業代問題の典型的なパターンです。

 当事務所では、飲食業特有の労働時間管理や休憩運用について、裁判所基準に照らしたリーガルチェックを行っています。紛争が起きてからの対応ではなく、紛争を起こさない体制づくりこそが最も合理的な経営判断です。

 手待時間の扱いに少しでも不安がある場合には、自己判断で進めるのではなく、専門家による客観的な診断を受けることを強くお勧めします。それが、将来の高額請求リスクから会社を守る最短ルートです。

 

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最終更新日2026/2/19

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