労働問題357 使用者と社員が合意することにより、日当を1日12時間勤務したことの対価とすることはできますか。

この記事の要点

所定労働時間を1日12時間とすることは労基法上できないが、「1日12時間勤務の対価=8時間の所定労働時間の対価+4時間の時間外割増賃金」と解釈できる場合は原則有効

解釈の問題であり、金額の特定方法が鍵を握ります

最低限、書面上「日当が12時間分の労働の対価であること」を明示する必要がある——「日当1万○○○○円」と定めただけでは8時間の対価と評価されて全額基礎で残業代を請求される

書面での明示がなければ労基法の上限である8時間分の対価と認定されます(労基法32条2項)

書面上12時間分と明示されていても、方程式を使わないと金額が判明しない場合や超過分の追加支払実績がない場合はリスクが残る

12時間超の実績に対して不足額をきちんと追加支払していればリスクが低くなります

推奨:「(8時間分の)日当1万6000円、(4時間分の)時間外勤務手当1万円、合計2万6000円」のように8時間分の対価部分と残業代部分に明確に分けて定める

明確に分けて定めることで全面敗訴のリスクが大幅に低下します

01「日当は12時間勤務の対価」という合意の法的な位置づけ

 建設業・運輸業・警備業等では、1日の労働時間が長く、日当制を採用している場合があります。「日当は1日12時間勤務したことの対価とする」という合意をした場合、この合意は法律上どのような意味を持つのでしょうか。

 まず、所定労働時間を1日12時間とすることはできません。労基法32条2項は「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」と定めており(36協定がある場合を除く)、所定労働時間の上限は原則として1日8時間です。

 しかし、「1日12時間勤務したことの対価」という合意の意味が、「1日8時間の所定労働時間内の労働と4時間の時間外労働をしたことの対価」という趣旨であると解釈でき、残業代(割増賃金)に相当する金額が特定されていると評価できるような場合であれば、このような合意も原則として有効と考えられます。

 つまり、「日当=12時間分の対価」という合意が有効かどうかは、①「8時間の所定労働時間内の労働と4時間の時間外労働の対価」という趣旨で解釈できるか、②残業代(割増賃金)に相当する金額が特定されているか、という2点が決め手となります。

02「日当1万○○○○円」だけでは8時間分の対価と認定されるリスク

 日当が残業代込みの金額であるというためには、最低限、日当が12時間分の労働の対価であることくらいは、書面上明示しておく必要があります。

「日当1万○○○○円」と定めただけの場合のリスク

1日何時間働かなければならないのかが不明確なまま「日当1万○○○○円」と定めただけでは不十分です。このような定め方では、労基法の労働時間の上限である1日8時間(労基法32条2項)の労働の対価と評価されてしまい、8時間を超える労働に対しては別途残業代の支払を余儀なくされることになります。

例えば、日当1万6000円と定めただけの場合:
→「所定労働時間8時間分の日当1万6000円」と認定される
→ 1日12時間働いた場合、4時間の時間外労働については別途残業代が必要
→ 基礎賃金:1万6000円÷8時間=2,000円/時間
→ 4時間×2,000円×1.25=1万円の追加残業代が必要

03書面上12時間分と明示した場合のリスクと対処法

 日当が12時間分の労働の対価であることが書面上明示されている場合は、訴訟になってもそれなりに戦うことができると思います。しかし、そのような場合であっても、以下のような状況では残業代(割増賃金)に相当する金額が特定されていないとの主張を労働者側から許すことになってしまうリスがあります。

書面上「12時間分の対価」と明示していても残るリスク

・1日8時間の所定労働時間内の労働に対する賃金が何円で、4時間の時間外労働に対する残業代が何円なのかが、方程式を使って計算しないと判明しないような場合
・かつ、1日12時間を超えて働いた場合に不足額を追加で支払ったことが一度もないような場合

→ このような場合は「残業代(割増賃金)に相当する金額が特定されていない」との主張を許すリスが生じます。

 他方、1日12時間を超えて働いた場合に、その都度、残業代の不足額がきちんと計算されて追加で支払われているのであれば、リスクが低くなります。

 日当が12時間分の対価であることを書面上明示するとともに、12時間を超えた場合の不足額を毎回計算・追加支払していれば、残業代の特定という観点でのリスクを相当程度低下させることができます。

04最も安全な賃金設計——8時間分と残業代を明確に分けて定める

 トラブル防止のためにも、1日の賃金額については、1日8時間の所定労働時間内の労働に対する対価の部分と、残業代(割増賃金)に相当する金額とに明確に分けて定めることをお勧めします。

推奨する賃金設計の例
推奨(明確に分けた設計):
「(8時間分の)日当1万6000円、(4時間分の)時間外勤務手当1万円、合計2万6000円」

問題あり(合算だけの設計):
「12時間勤務の日当2万6000円」
(→ 8時間分と残業代の内訳が不明確なまま)

明確に分けて定めることで、1日12時間を超えて労働した場合に不足する残業代の額を容易に計算することができます。多少問題があっても全面的に敗訴するリスクが大幅に低くなります。

 このように、1日8時間の所定労働時間内の労働に対する対価の部分と、残業代(割増賃金)に相当する金額とに明確に分けて賃金額を定めておけば、1日12時間を超えて労働した場合に不足する残業代の額を計算することが容易です。そのため、万一訴訟になっても多少問題があっても、全面的に敗訴するリスクは低くなるものと思われます。

 具体的には、就業規則・賃金規程または個別の労働契約書に、「所定労働時間1日8時間に対する日当○○円、時間外労働4時間分に対する時間外勤務手当○○円、合計○○円」という形で明記し、12時間を超えた場合の不足額は当月の賃金支払日に追加支払することも合わせて定めておくことをお勧めします。

05まとめ

 日当を1日12時間勤務の対価とすることは、「8時間の所定労働時間内の労働+4時間の時間外割増賃金」の対価として残業代に相当する金額が特定されていれば原則として有効です。しかし、「日当○○円」と定めただけでは8時間分の対価と評価されるリスがあり、書面上12時間分と明示しても金額が方程式なしには判明しない場合・超過分の追加支払実績がない場合はリスが残ります。最も安全な設計は、「(8時間分の)日当○○円、(4時間分の)時間外勤務手当○○円」というように8時間分の対価部分と残業代部分に明確に分けて定めることです。具体的な賃金設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 「日当は12時間勤務の対価とする」と労働契約書に記載すれば、それで残業代の問題は解決しますか。

A. 書面上「12時間分の対価」と明示することは重要な第一歩ですが、それだけでは不十分な場合があります。8時間分の対価が何円で残業代が何円かが方程式なしに判明するかどうか(金額の特定性)、12時間を超えた実績がある場合に不足額を追加支払しているかどうかが重要です。最も安全な設計は「(8時間分の)日当○○円、(4時間分の)時間外勤務手当○○円」と明確に分けて定めることです。

Q2. 「日当2万6000円(12時間分)」という記載では不十分ですか。

A. 12時間分であることの書面上の明示はある程度評価されますが、「8時間分の対価が何円で、4時間分の残業代が何円か」が一見して分からない設計にはリスが残ります。訴訟において「残業代に相当する金額が特定されていない」と主張される可能性があります。「(8時間分の)日当1万6000円、(4時間分の)時間外勤務手当1万円、合計2万6000円」のように内訳を明確にすることをお勧めします。

Q3. 1日の所定労働時間を8時間より短く設定することはできますか。

A. できます。例えば所定労働時間を1日6時間と設定することも可能です。その場合、6時間を超えて8時間まで(法定内の時間外労働)は通常の賃金を割増しなしで支払えばよく、8時間を超えた部分から法定の割増率(25%以上)が必要となります。所定労働時間を短く設定することで残業代の発生を遅らせる効果がありますが、その分の基本的な賃金設計が必要です。

最終更新日:2026年5月10日

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