労働問題356 残業代(割増賃金)を基本給とは別に支払うよりも、残業代込みということで基本給を支払った方が、基本給の金額が高く見えて、社員募集の際に体裁がいいのではないでしょうか。

この記事の要点

残業代(みなし残業代を含む)は残業代以外の賃金とは別に支払うべきものであり、内訳が判別できないと残業代の支払があったとは認められない——結局、内訳を明らかにする必要がある

「内訳を明らかにすれば残業代を除いた基本給の金額がはっきりしてしまう」のは避けられません

採用された社員が「騙された」と感じるような採用募集広告では、社員がすぐに辞めてしまい定着しない——根本的な解決にはならない

短期的な「体裁」より、正直な情報開示による長期的な定着の方が会社のためになります

「騙された」と感じて辞めた社員が残業代請求をしてくるリスクも高い——正直にありのままの労働条件を説明する正攻法が唯一の根本的解決策

正直な採用情報開示が採用リスク・残業代リスクの両方を低減します

01残業代込み基本給の「体裁のよさ」の限界——内訳を明確にしなければ残業代支払として認められない

 「みなし残業代(定額・固定残業代)を基本給とは別に支払うよりも、残業代込みということで高い基本給を提示した方が、基本給の金額が高く見えて社員募集の際に体裁がいいのではないか」という発想は理解できます。確かに求人票の数字だけ見れば、「基本給30万円(残業代込み)」は見栄えがします。

 しかし、残業代(みなし残業代)は残業代以外の賃金とは別に支払うべきものであり、残業代と残業代以外の賃金との内訳が判別できないと残業代の支払があったとは認められません(348番・350番参照)。したがって、残業代請求を受けないようにするためには、残業代の金額と残業代以外の賃金の内訳を明らかにする必要があります。残業代の金額と残業代以外の賃金の金額を明らかにしてしまえば、結局、残業代を除いた基本給の金額がはっきりしてしまいます。

 「残業代込みで高く見せる」という試みは、いずれにせよ「残業代を除いた基本給の実額」を社員に知られてしまうことになります。求人時にだけ実態を隠すことができても、入社後には実態が分かってしまうのです。

02採用後に「騙された」と感じる社員が定着しない問題

 採用された社員が騙されたと感じるような採用募集広告では、結局、すぐに辞めてしまって定着しません。「基本給30万円」に惹かれて入社したところ、実際には「基本給22万円+みなし残業代8万円」だったと知った社員は、「騙された」という感情を持ちます。

 「騙された」と感じた社員は、仕事への意欲が低下し、早期に退職することが多くなります。採用・育成コストをかけてせっかく採用した人材がすぐに辞めてしまう——これが「残業代込み基本給」採用の最大のコストです。また、早期退職した社員が退職後に残業代請求をしてくるリスクも高まります(349番参照)。

03「騙された感」が残業代請求に発展するリスク

 「騙された」と感じて短期退職した社員が弁護士に相談すると、「残業代込みの合意は曖昧で無効になる可能性があり、未払残業代が請求できる」とアドバイスされるケースがあります(348番参照)。

 結果として、「採用時に体裁よく見せようとした」ことが、退職後の未払残業代請求という最悪の事態を招くことになります。しかも、みなし残業代の合意が無効と判断された場合、みなし残業代も基礎賃金に算入して計算した高額の残業代が認められる可能性があります(352番参照)。

04正攻法——正直にありのままの労働条件を説明する

 正直にありのままの労働条件を説明し、正攻法で対処しないと、根本的な解決にはなりません。具体的には、採用募集広告や採用面接において以下のように正直に情報を開示することが重要です。

正攻法での採用情報開示の例 ・求人票に「基本給22万円+固定時間外手当(月45時間分)8万円=月例賃金30万円」と明記する
・採用面接でみなし残業代制度の仕組みを丁寧に説明し、超過した場合は別途支払うことを説明する
・雇用契約書にみなし残業代の金額・対象時間数・超過時の追加支払を明記する
・入社後の給与明細書にも「固定時間外手当(45時間分)○万円」と明記する

 正直に労働条件を開示することで、入社前から「みなし残業代込みで月30万円」という実態を理解した上で入社してくる社員を採用できます。そうした社員は「騙された」と感じることなく、長く働き続ける可能性が高くなります。

05まとめ

 残業代(みなし残業代)込みで基本給を高く見せることは、一時的に体裁がよくても、入社後に社員が「騙された」と感じて短期退職・残業代請求というリスクを高めます。残業代は内訳を明確にしなければ支払として認められませんので、結局は内訳を明らかにする必要があります。採用された社員が騙されたと感じるような採用募集広告では定着しませんので、正直にありのままの労働条件を説明する正攻法が唯一の根本的解決策です。みなし残業代(定額・固定残業代)制度の設計・採用募集時の労働条件の適切な開示については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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Q&Aよくある質問

Q1. 求人票にみなし残業代(固定残業代)の内訳を明示することは法律上義務付けられていますか。

A. 労働基準法は、賃金の決定・計算・支払の方法を明示することを義務付けています(労基法15条)。また、固定残業代を採用する場合は、その旨・固定残業代の金額・計算の対象となる時間外・休日・深夜労働の時間数・固定残業代を超える場合は追加支払をする旨を求人票に明示することが求められています。これを明示せずに採用した場合は、労働条件の明示義務違反となる可能性があります。

Q2. 正直にみなし残業代の内訳を明示すると、求人応募者が減ってしまいませんか。

A. 短期的には応募者が減ることもありえます。しかし、内訳を偽って採用した社員は「騙された」と感じて早期退職する確率が高く、採用・育成コストが無駄になります。内訳を正直に開示した上で応募してきた社員は、条件を理解した上で入社するため定着率が高くなりやすいです。長期的には正直な情報開示の方が採用コストの削減・人材の定着につながります。

最終更新日:2026年5月10日

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