労働問題358 定額(固定)残業代制度導入の手順を教えて下さい。

この記事の要点

Step1:当該業務の通常必要とされる時間外・休日・深夜労働時間等の勤務実態を調査し、調査経過・結果を記録に残す

実態に基づかない定額残業代の設定は、後の紛争で問題になります

Step2:調査結果に基づき、何時間分の割増賃金を定額残業代として支払うかを協議決定し、記録に残す

時間数の決定プロセスを記録することが後の紛争対応力を高めます

Step3:残業代の支払であることが明白な名目(「時間外勤務手当」等)で定額残業代を支払う旨・不足額を追加支払する旨を賃金規程に定め、周知・個別合意を取得する

制度の整備と周知・同意取得がセットで必要です

Step4:給料日には「時間外勤務手当」等の明白な名目で、金額を明確に分けて給与明細に記載して支給する

毎月の給与明細への明確な記載が日常的な運用として最重要です

Step1勤務実態の調査と記録

 当該業務に通常必要とされる時間外・休日・深夜労働時間等の勤務実態を調査し、調査の経過および結果を記録に残します。

 実態に基づかない時間数を定額残業代の対象として設定すると、「実際には○○時間の残業が常態化しているのに、設定時間数が少なすぎる」という争いや、「設定時間数が多すぎて未払残業代が発生していない場合でも実質的に賃金の引き下げではないか」という問題が生じる場合があります。

Step1でやるべきこと

・直近数ヶ月(3〜6ヶ月程度)の実際の時間外・休日・深夜労働時間の実績を確認する
・業務の繁閑・季節変動を考慮して平均的・通常的な残業時間数を把握する
・時間外・休日・深夜の3種類ごとに実績を確認する(それぞれ割増率が異なるため)
・調査の経過(いつ、誰が、どのような方法で調査したか)と結果を文書化して記録に残す

Step2定額残業代として支払う時間数・金額の協議決定と記録

 調査結果に基づき、何時間分の時間外・休日・深夜割増賃金を定額(固定)残業代として支払う必要があるのかについて協議決定し、記録に残します。

 設定する時間数は、Step1の調査で把握した実態に基づく数値を参考にしながら、わずかに余裕を持たせた水準(実態の平均より少し多め)に設定することが望ましいです。設定時間数を上回る残業が頻繁に発生すると不足額の追加支払が毎月必要となり、定額残業代制度の管理コストが上がります。

Step2でやるべきこと

・時間外・休日・深夜の各割増賃金について、それぞれ何時間分を定額残業代でカバーするかを協議決定する
・各時間数に基づいて、定額残業代の「金額」を計算する(所定労働時間・基礎賃金・割増率から算定)
・決定した時間数・金額・その算定根拠を文書化して記録に残す(後の紛争で「何時間分の対価として設定したか」を説明できるようにしておく)

Step3賃金規程の整備・周知・個別合意の取得

 「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等、時間外・休日・深夜割増賃金の支払であることが明白な名目で定額(固定)残業代を支払う旨、および不足額があれば当該賃金計算期間に対応する賃金支払日に追加で支払う旨を賃金規程に定めて周知させたり合意したりします。

Step3でやるべきこと

・就業規則・賃金規程に以下の内容を明記する
  ― 定額残業代を支払う旨(手当の名目・対象となる労働の種類・金額・対象時間数)
  ― 当該手当を超える残業代が発生した場合は、当月の賃金支払日に不足額を追加支払する旨
・変更した就業規則・賃金規程を全社員に周知する(社内掲示・説明会・書面配付等)
・既存社員については、定額残業代の導入・変更が不利益変更に当たらないかを確認した上で、個別の同意書を取得する(342番参照)
・新規採用者については、雇用契約書に定額残業代の定めを明記した上で署名押印を取得する

 手当の名目は、「時間外勤務手当」「固定時間外手当」「定額時間外割増賃金」等、残業代の支払であることが明白な名目にすることをお勧めします(351番参照)。

Step4給与明細への明確な記載と毎月の支給

 給料日には、「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等、時間外・休日・深夜割増賃金の支払であることが明白な名目で、金額を明確に分けて給与明細に記載して支給します。

Step4でやるべきこと(毎月の運用)

・給与明細に「時間外勤務手当○○円」「休日勤務手当○○円」「深夜勤務手当○○円」等の形で、残業代に当たる部分の金額を他の賃金とは明確に区別して記載する
・当月の実際の時間外・休日・深夜労働時間数を計算し、定額残業代の対象時間数を超えた分があれば、不足額を計算して当月の賃金支払日に追加支払する
・不足額の追加支払がある場合は、その金額も給与明細に明記する
・毎月の不足額計算と追加支払の実績を記録として保管しておく(後の紛争時の証拠になる)

整理4ステップの全体像と注意点

Step 内容 実施タイミング
勤務実態の調査・記録 制度導入前(事前準備)
時間数・金額の協議決定・記録 制度導入前(設計段階)
賃金規程の整備・周知・個別合意の取得 制度開始前(一度きり)
給与明細への明確な記載・毎月の支給・不足額の追加支払 制度開始後(毎月継続)

 ①②③は制度導入時の一度きりの手続きですが、④は制度導入後も毎月継続して行う必要があります。特に④(毎月の給与明細への明確な記載と不足額の追加支払)が日常的な運用として最も重要です。定額残業代制度を導入しても④の運用が不適正であれば、制度全体の有効性が損なわれる可能性があります(350番・351番参照)。

まとめまとめ

 定額(固定)残業代制度の導入手順は、①勤務実態の調査・記録、②何時間分の定額残業代が必要かの協議決定・記録、③残業代の支払であることが明白な名目で賃金規程に定め・周知・個別合意を取得、④給料日には明白な名目・明確な金額で給与明細に記載して支給する——という4ステップです。制度の設計(①②③)と日常的な運用(④)の両方が適正に機能して初めて、定額残業代制度は有効に機能します。350番〜353番で解説した有効要件と合わせて、使用者側弁護士のサポートを受けながら制度を設計・導入することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。定額(固定)残業代制度の設計・導入・就業規則の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 定額残業代制度の導入にあたって、既存社員の同意は必要ですか。

A. 既存社員に対して定額残業代制度を導入・変更する場合は、不利益変更にあたらないかを慎重に確認する必要があります。不利益変更にあたる場合は個別の同意書が原則として必要です(342番参照)。単に賃金の「内訳」を明確化するだけで実質的な賃金総額に変化がない場合でも、慎重に対応することをお勧めします。具体的な手続きについては使用者側弁護士に相談してください。

Q2. 定額残業代制度を導入した後、設定した時間数を超える残業が毎月発生しています。どうすればよいですか。

A. まず、設定時間数を超えた不足額を毎月の賃金支払日に確実に追加支払することが必要です。設定時間数を超える残業が常態化しているようであれば、Step1〜2に立ち返って実態に即した時間数への設定変更を検討することをお勧めします。設定時間数の変更も不利益変更にあたる可能性があるため、変更の前に使用者側弁護士に相談してください。

Q3. 新規採用者の雇用契約書に定額残業代を記載するだけでよいですか。賃金規程も整備する必要がありますか。

A. 雇用契約書への記載は重要ですが、賃金規程の整備も必要です。口頭説明のみでは不十分であり(350番参照)、賃金規程等への定めが「最低限必要」とされています。雇用契約書と賃金規程の両方に整合した内容を記載し、入社時に社員に周知することが望ましい対応です。

最終更新日:2026年5月10日


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