労働問題332 基礎賃金を抑制する際の注意点を教えて下さい。

この記事の要点

単に基礎賃金を抑制するだけでは能力や貢献度に見合った賃金が支給できず、優秀な人材の確保が困難になる——基礎賃金の抑制と能力・貢献度に応じた賃金設計を両立させることが必要

「残業代の単価を下げる」という目的だけで基礎賃金を下げると、人材確保の問題が生じます

基礎賃金を抑制しつつ能力・貢献度に応じた賃金を支給できるようにする方法は3つある——①月例賃金を抑制し賞与の比率を高める、②月例賃金に占める除外賃金の割合を高める、③定額(固定)残業代制度を採用する

これら3方法を適切に組み合わせることで人件費を最適化できます

「除外賃金」とは家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金——割増賃金の計算の基礎から除外できる賃金

除外賃金の割合を高めることで、同じ月例賃金総額でも基礎賃金(単価計算の基礎)を下げることができます

定額(固定)残業代制度は、適法な要件を満たせば残業代の単価抑制と支払済み化の両方の効果を持つ——ただし要件を満たさない場合は全額支払義務が残る

定額残業代制度の設計・運用には使用者側弁護士への相談が不可欠です

01基礎賃金の抑制に際しての注意点——単純に下げれば人材確保が困難に

 331番で解説したとおり、未払残業代請求対策の一つとして、基礎賃金を抑制して残業代(割増賃金)単価を引き下げるというアプローチがあります。基礎賃金が低くなれば、同じ残業時間でも発生する残業代の金額が少なくなるためです。

 しかし、単に基礎賃金を抑制しただけでは、能力や貢献度に見合った賃金が支給できなくなってしまい、適正な賃金制度とはいえません。適正水準の賃金を支給し、優秀な人材を確保することができるようにするためには、基礎賃金を抑制する一方で、能力や貢献度に応じた賃金を支給できるようにする必要があります。

 基礎賃金を抑制しつつ能力や貢献度に応じた賃金を支給できるようにする方法としては、以下の3つが考えられます。

02方法①——月例賃金を抑制し、賞与の比率を高める

 月例賃金(基本給・各種手当等)を抑制し、その分だけ賞与(ボーナス)の比率を高める方法です。

 賞与は原則として「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として労基法37条5項・労基則21条の除外賃金に該当し、割増賃金の計算の基礎から除外されます。したがって、月例賃金を抑制して基礎賃金(単価の計算基礎)を下げながら、賞与を増額することで能力・貢献度に応じた賃金を支給することが可能です。

方法①のポイントと注意点
・賞与は会社の業績・社員個人の業績評価に応じて支給額を変動させることができるため、能力・貢献度への対応として機能しやすい
・月例賃金が大幅に低くなりすぎると、最低賃金法違反になる可能性があるため、最低賃金との整合性を確認する必要がある
・賞与の有無・金額は業績によって変動するため、社員の生活設計への影響も考慮した設計が必要

03方法②——月例賃金に占める除外賃金の割合を高める

 月例賃金の総額を維持しながら、その中に占める「除外賃金」(割増賃金の計算の基礎から除外できる賃金)の割合を高めることで、基礎賃金(割増賃金の単価の計算基礎)を引き下げる方法です。

割増賃金の計算の基礎から除外できる賃金(除外賃金)

除外賃金の種類 根拠(労基則21条等)
家族手当 労基則21条1号
通勤手当 労基則21条2号
別居手当 労基則21条3号
子女教育手当 労基則21条4号
住宅手当 労基則21条5号(住宅の形態に応じて定額で支払われる手当)
臨時に支払われた賃金 労基法37条5項
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 労基法37条5項(賞与等)

除外賃金の活用に際しての重要な注意点

除外賃金として認められるためには、手当の実態が名称に見合っていることが必要です。例えば「住宅手当」として設定しても、社員全員に一律で同額を支給しているだけであれば、判例上「住宅手当」として除外賃金とは認められないことがあります。除外賃金の設計には法的な知識が必要であり、使用者側弁護士への相談をお勧めします。

04方法③——定額(固定)残業代制度を採用する

 定額(固定)残業代制度とは、一定時間分の時間外労働に対する割増賃金をあらかじめ毎月の賃金に含めて支払う制度です。例えば「基本給20万円+固定残業手当(月30時間分の時間外割増賃金に相当する3万円)」という形で運用します。

 適法な定額残業代制度を採用することで、①基礎賃金が低くなる(基本給部分のみを基礎賃金とし、固定残業手当は含まない設計も可能)、②一定時間分の残業代があらかじめ「支払済み」の状態になる——という2つの効果が期待できます。

定額残業代制度の要件(概要)
定額残業代制度として有効と認められるためには、主に以下の要件を満たす必要があります。
①固定残業代(定額残業代)と通常の労働時間に対する賃金(基本給等)が明確に区別されていること
②固定残業代の対象となる残業時間数・金額が明示されていること
③固定残業代で賄う時間数を超えた残業に対しては、超過分を別途支払うこと

これらの要件を満たさない定額残業代制度は無効と判断される可能性があり、その場合は全額の残業代支払義務が生じます。具体的な制度設計は使用者側弁護士への相談が必要です。

05まとめ

 基礎賃金を抑制して残業代の単価を引き下げる方法には、単純に低くするだけでは人材確保の問題が生じるという注意点があります。基礎賃金を抑制しつつ能力・貢献度に応じた賃金を支給できるようにする方法として、①月例賃金を抑制し賞与の比率を高める、②月例賃金に占める除外賃金の割合を高める、③定額(固定)残業代制度を採用する——の3方法が考えられます。いずれの方法も適法な運用には細かな要件があり、特に③定額残業代制度は無効と判断されると全額の残業代支払義務が生じます。具体的な賃金制度の設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代トラブルの予防・賃金制度の整備・定額残業代制度の設計でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 基礎賃金を抑制する際の3つの方法を教えてください。

A. ①月例賃金を抑制し賞与の比率を高める、②月例賃金に占める除外賃金(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金等)の割合を高める、③定額(固定)残業代制度を採用する——の3方法です。これらを適切に組み合わせることで、基礎賃金を抑制しつつ能力・貢献度に応じた賃金を支給することが可能です。

Q2. 除外賃金とはどのようなものですか。

A. 割増賃金(残業代)の計算の基礎から除外できる賃金のことです。家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当(労基則21条)・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)(労基法37条5項)が除外賃金に当たります。除外賃金の割合を高めることで、月例賃金の総額は維持しながら基礎賃金(単価の計算基礎)を引き下げることができます。

Q3. 「住宅手当」を全社員に一律で支給していますが、これは除外賃金になりますか。

A. 一律支給の「住宅手当」は除外賃金として認められない可能性があります。「住宅手当」が除外賃金として認められるためには、住宅の形態(持ち家・借家・社宅等)に応じて支給される手当である必要があります。全社員に一律で同額を支給している場合は、実態として住宅の形態に対応したものではなく、名目上「住宅手当」と呼んでいるだけの賃金として扱われ、除外賃金とはならないとする見解があります。

Q4. 定額残業代制度が無効と判断された場合はどうなりますか。

A. 定額残業代制度が要件を満たさず無効と判断された場合、その定額残業代に含まれていた残業代は支払済みとは認められず、発生した残業代の全額について改めて支払義務が生じます。「固定残業手当3万円を払っていた」という事実は、無効と判断されれば残業代の支払に充当されず、残業代が全額未払いとなります。定額残業代制度の設計・運用には使用者側弁護士への相談が不可欠です。

最終更新日:2026年5月10日



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