労働問題320 平成20年9月9日基発第0909001号『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』は、「職務内容、責任と権限」についての判断要素に関し、どのように述べていますか。

この記事の要点

基発第0909001号は「職務内容、責任と権限」の判断要素として採用・解雇・人事考課・労働時間の管理の4点を具体的に示している

店舗の労務管理に関する重要な職務として、この4点への実質的な関与が求められます

4点のいずれにおいても「実質的にない場合」または「実質的にも関与しない場合」は「管理監督者性を否定する重要な要素となる」とされている

「重要な要素」という表現は、それ単体で管理監督者性を否定するほどの重みがあることを示しています

採用については「人選のみを行う場合も含む」として、完全な採用権がなくても人選権だけで十分ではないかを確認する必要がある

「人選のみ」の場合も採用に関する責任と権限として考慮されます

労働時間の管理については「勤務割表の作成または所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合」は否定要素とされている

シフト作成も権限がない場合は管理監督者性を否定する重要な要素となります

01「職務内容、責任と権限」についての4つの判断要素——概要

 319番で解説した平成20年9月9日基発第0909001号(以下「本ガイドライン」といいます)は、管理監督者性の判断における「職務内容、責任と権限」の考慮要素について、以下のとおり説明しています。

 「店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。」

番号 判断要素 管理監督者性否定の基準
(1) 採用 アルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む)に関する責任と権限が実質的にない場合
(2) 解雇 アルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合
(3) 人事考課 人事考課制度がある企業において、部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合
(4) 労働時間の管理 勤務割表の作成または所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合

 4つの要素のいずれについても、権限が実質的にない(または実質的に関与しない)場合は、「管理監督者性を否定する重要な要素となる」と明示されています。

02判断要素(1)——採用に関する責任と権限

 本ガイドラインは、「店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。」としています。

 「人選のみを行う場合も含む」という括弧書きは重要です。完全な採用権(採否の最終決定権)がなくても、アルバイト・パート等の人選(候補者の選定)を行う権限があれば、採用に関する責任と権限の一定部分があることを意味します。逆に言えば、人選のみの権限しかない場合でも、その権限が「実質的にない」とは評価されないことがある、ということを示しています。

採用権限の実質的有無の確認ポイント
・アルバイト・パートの採用について、店長自身が面接を行い人選する権限があるか
・本部・上位者が採用の全てを決定し、店長は関与しないという実態になっていないか
・「採用は全て本部の承認が必要で、店長は候補者を連れてくるだけ」という実態の場合は要注意

03判断要素(2)——解雇に関する職務内容への包含と実質的な関与

 本ガイドラインは、「店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。」としています。

 解雇については「職務内容に含まれておらず」と「実質的にもこれに関与しない」の2要件が「かつ」でつながっており、両方を満たす場合に否定要素とされています。逆に言えば、職務内容に形式上含まれていても実質的に関与していない場合、または職務内容に含まれていないが実質的には関与している場合は、否定要素の評価が変わり得ます。

04判断要素(3)——人事考課に関する職務内容への包含と実質的な関与

 本ガイドラインは、「人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。」としています。

 この規定は「人事考課の制度がある企業において」という前提条件が付いています。人事考課制度がない企業では、この判断要素は適用されません。人事考課制度がある企業で部下の人事考課を行っていない場合(職務内容にも含まれておらず、実質的にも関与しない場合)は管理監督者性を否定する重要な要素となります。

05判断要素(4)——労働時間の管理に関する責任と権限

 本ガイドラインは、「店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。」としています。

 「勤務割表の作成」とはいわゆるシフト作成のことです。店舗のシフトを作成する権限があるかどうかは、労働時間管理に関する権限の有無を判断する上で具体的な基準となります。また「所定時間外労働の命令を行う責任と権限」とは、部下に残業を命じる権限のことです。いずれも「実質的にない場合」に否定要素とされており、実態判断が重要です。

労働時間管理権限の実質的有無の確認ポイント
・店舗のシフト(勤務割表)を店長自身が作成しているか、それとも本部が作成して店長に送られてくるだけか
・アルバイト・パートに残業を命じる権限が実質的に店長にあるか
・「シフトは本部が管理してアップロードされる」「残業命令は必ず本部に申請が必要」という実態の場合は要注意

064つの判断要素の実務上の意義

 本ガイドラインが示す4つの判断要素は、小売業・飲食業等の多店舗展開企業の店長等に限らず、管理監督者性を判断する際の具体的なチェックポイントとして実務上広く参照されています。

 採用・解雇・人事考課・労働時間管理の4点について、形式上の権限があるだけでなく「実質的な権限・関与があるか」という実態判断が求められていることは、317番で解説した「資格・職位の名称にとらわれず実態に着目」という行政解釈の一貫したスタンスと整合しています。

 自社の管理職についてこれらの4点を確認し、実質的な権限・関与がない場合には管理監督者性が否定されるリスを真剣に検討する必要があります。

07まとめ

 平成20年9月9日基発第0909001号は、管理監督者性の判断における「職務内容、責任と権限」の判断要素として、店舗の労務管理に関する重要な職務である採用・解雇・人事考課・労働時間管理の4点を示し、それぞれについて実質的な権限・関与がない場合は「管理監督者性を否定する重要な要素となる」としています。各判断要素は実態に基づいて評価される必要があり、形式上の権限の有無だけでなく、実際に行使できる権限があるかどうかが重要です。自社の管理職の管理監督者性については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の管理監督者性の判断・残業代の取り扱い・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 基発第0909001号が示す「職務内容、責任と権限」の4つの判断要素は何ですか。

A. 採用・解雇・人事考課・労働時間の管理の4点です。いずれも「実質的にない(関与しない)場合」は「管理監督者性を否定する重要な要素となる」とされています。

Q2. 採用権限に関して「人選のみを行う場合も含む」とはどういう意味ですか。

A. 採用の最終決定権(採否を決める権限)がなくても、アルバイト・パート等の候補者を選定する権限(人選権)がある場合は、採用に関する責任と権限の一定部分があるとして考慮されることを意味します。つまり、人選権のみであっても採用への実質的な関与として評価され得ます。

Q3. シフト作成を本部が行っている場合、店長の管理監督者性はどう評価されますか。

A. 本ガイドラインは「勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる」としています。シフト(勤務割表)の作成が本部主導で行われ店長には実質的な権限がない場合は、「労働時間の管理」に関する責任と権限が実質的にないとして管理監督者性を否定する重要な要素となります。

Q4. 4つの判断要素のうち一つでも欠ければ管理監督者に当たらないのですか。

A. 一つを欠くだけで直ちに管理監督者に当たらないとは限りませんが、「管理監督者性を否定する重要な要素となる」と明示されており、非常に重要な考慮要素です。最終的には職務内容・責任と権限・勤務態様・賃金等の待遇を踏まえた総合的な判断となりますが、これらの要素が複数欠けている場合は管理監督者性が否定される可能性が高くなります。

最終更新日:2026年5月10日



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