労働問題281 残業代請求訴訟の和解額に付加金を加算すべきという主張に応じる必要はありますか

この記事の要点

裁判所は未払割増賃金がなければ付加金の支払を命じることができない

付加金は「未払割増賃金の存在」を前提とする制度です(労基法114条)

和解が成立しなくても、未払割増賃金相当額を源泉徴収した上で支払ってしまえば、未払割増賃金請求の棄却はもちろん付加金の支払命令もできなくなる

訴訟中に任意弁済することが付加金回避の有効な手段です

残業代請求訴訟における和解額に付加金の金額を考慮するのは筋違い——応じる必要はない

和解においては、未払割増賃金の合理的な金額に基づいて交渉するのが筋です

訴訟中に未払割増賃金を支払う際は、源泉徴収した上で原告本人の給与振込口座に振り込む必要がある

源泉徴収の手続きを誤ると別のトラブルが生じる可能性があります

01付加金は未払割増賃金の存在を前提とする制度

 278番で解説したとおり、付加金(労基法114条)は、使用者が残業代(割増賃金)等の支払を怠っている場合に、裁判所が未払金と同一額以下の付加金の支払を命じることができる制度です。

 ここで重要なのは、付加金の支払命令の前提として「未払割増賃金の存在」が必要だという点です。裁判所は、未払割増賃金がなければ、付加金の支払を命じることができません。この性質は、和解交渉において会社側にとって非常に重要な意味を持ちます。

02未払割増賃金を支払えば付加金の支払命令はできなくなる

 仮に、和解が成立しなかったとしても、未払割増賃金相当額を原告本人の給与振込口座に源泉徴収した上で振り込んで支払ってしまえば、未払割増賃金請求が棄却されるのは勿論、裁判所は付加金の支払を命じることもできなくなります。

 残業代請求訴訟の係属中に会社側が任意に未払割増賃金相当額を支払った場合、その後の裁判において「未払割増賃金の存在」という付加金命令の前提が失われることになります。その結果、未払割増賃金の請求は棄却され、付加金の支払命令も命じることができなくなります。

訴訟中の任意弁済による付加金回避の仕組み
①会社側が訴訟中に未払割増賃金相当額を(源泉徴収した上で)支払う
②未払割増賃金が存在しない状態となる
③裁判所は付加金の支払を命じることができなくなる(付加金命令の前提を欠く)
④結果として、未払割増賃金請求も棄却され、付加金の支払命令も回避できる

 ただし、残業代の存否・金額については争いがある場合も多く、「どこまでが未払割増賃金相当額か」の判断は容易ではありません。支払の時期・金額・方法については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談した上で慎重に決定することが必要です。

03和解額に付加金を考慮する必要はない

 したがって、残業代請求訴訟における和解額に付加金の金額を考慮するのは筋違いですので、応じる必要はありません。

 原告代理人が「和解額は付加金の金額を加算した金額とすべき」と主張するのは、付加金という「リスク」を和解交渉のカードとして使う交渉戦術です。しかし、上記02節で解説したとおり、和解が成立しない場合でも、会社側は任意に未払割増賃金相当額を支払うことで付加金の支払命令を回避することができます。

和解交渉での付加金加算要求への対応

原告代理人から「和解額=未払残業代+付加金同額」を要求された場合は、以下の観点から対応することができます。

①付加金は「未払割増賃金の存在」が前提であり、訴訟中に任意弁済することで回避できる旨を認識した上で交渉する
②和解においては未払割増賃金の合理的な金額のみを基準として交渉し、付加金を上乗せする必要はない
③和解に応じる必要がない場合は、適切な時期に未払割増賃金相当額を任意弁済することも一つの選択肢として検討する

04支払の際に注意すべき源泉徴収の問題

 訴訟中に未払割増賃金相当額を支払う際は、源泉徴収した上で原告本人の給与振込口座に振り込む必要があります。

 残業代(割増賃金)は給与所得として所得税の課税対象となります。訴訟中の任意弁済においても、この原則は変わりません。源泉徴収を失念して全額を支払った場合、税務上の問題が生じる可能性があります。また、振込先についても、原告本人の給与振込口座に振り込むことで弁済の証明を確実にしておくことが重要です。

 源泉徴収の方法・金額の計算・弁済書類の作成については、使用者側弁護士・会社側弁護士および税理士に相談することをお勧めします。

05まとめ

 裁判所は未払割増賃金がなければ付加金の支払を命じることができません。残業代請求訴訟において和解が成立しない場合でも、未払割増賃金相当額を源泉徴収した上で支払えば、未払割増賃金請求が棄却されるとともに付加金の支払命令も回避できます。したがって、残業代請求訴訟における和解額に付加金の金額を考慮するのは筋違いであり、応じる必要はありません。

 訴訟中の任意弁済の時期・金額・源泉徴収の方法については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談した上で慎重に対応することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代請求訴訟への対応・付加金リスクの軽減・和解交渉でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 残業代訴訟の和解額に付加金の金額を加算すべきという要求に応じる必要はありますか。

A. 応じる必要はありません。付加金は「未払割増賃金の存在」を前提とする制度であり、和解が成立しなくても会社側が任意に未払割増賃金相当額を支払えば付加金の支払命令は回避できます。和解交渉においては未払割増賃金の合理的な金額のみを基準として交渉するのが筋です。

Q2. 訴訟中に未払残業代を支払えば付加金の支払命令はなくなりますか。

A. はい。訴訟中に未払割増賃金相当額を源泉徴収した上で支払えば、「未払割増賃金の存在」という付加金命令の前提が失われます。その結果、未払割増賃金請求が棄却されるとともに、裁判所は付加金の支払を命じることができなくなります。支払の時期・金額については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談の上、慎重に決定することが重要です。

Q3. 未払残業代を支払う際の源泉徴収はどうすればよいですか。

A. 残業代(割増賃金)は給与所得として所得税の課税対象となります。訴訟中の任意弁済でも源泉徴収が必要であり、源泉徴収後の金額を原告本人の給与振込口座に振り込む形が適切です。源泉徴収の方法・金額の計算については、使用者側弁護士・会社側弁護士および税理士に相談することをお勧めします。

Q4. 和解交渉で付加金を主張された場合、どのように対応すればよいですか。

A. 付加金は未払割増賃金の存在を前提とする制度であり、和解額に付加金を加算する根拠はありません。和解交渉では未払割増賃金の合理的な金額のみを基準として対応し、付加金の加算要求には応じないことが原則です。和解に応じる必要がない場合は、適切な時期に未払割増賃金相当額を任意弁済することも選択肢の一つです。具体的な対応については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談してください。

最終更新日:2026年5月10日


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