労働問題232 所定労働時間が7時間の事業場において、1日8時間までの時間帯(1時間分)の法内残業について残業代を支払わない扱いにすることはできますか。

 所定労働時間が7時間の事業場において、18時間までの時間帯(1時間分)の法内残業については、強行的直律的効力(労基法13条)を有する労基法37条の規制外ですので、使用者には労基法37条に基づく残業代(割増賃金)の支払義務はなく、法内残業分の残業代を支給する義務が使用者にあるかどうかは、労働契約の解釈の問題であり、就業規則や個別合意に基づく残業代請求が認められるかどうかが検討されることになります。したがって、法内残業については、就業規則や個別合意で明確に定めることにより、残業代を支給しない扱いにすることもできることになります。
 もっとも、「労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり、労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから、労働契約の合理的解釈としては、労基法上の労働時間に該当すれば、通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である」(大星ビル管理事件最高裁平成14228日第一小法廷判決)と考えるのが一般的ですから、法内残業時間の賃金額について何の定めもないからといって、直ちに賃金を支払わなくていいことにはなりません。法内残業時間の賃金額に関する明示の合意がない場合は、割増をしない通常の労働時間の賃金額を支払う旨の黙示の合意があるものと解釈して賃金額を計算すべきことになるのが通常です。行政解釈でも、「法定労働時間内である限り所定労働時間外の1時間については、別段の定めがない場合には原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。但し、労働協約、就業規則等によって、その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合にはその別に定められた賃金額で差支えない。」とされています(昭和23114日基発1592号)。
 仮に、法内残業時間の残業代を不支給にしたり、通常の労働時間の賃金よりも低い金額にしたりする場合には、明確にその旨を合意するなどして、労働契約の内容としておくべきでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 

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