労働問題133 退職勧奨が違法になる基準——退職強要(不法行為)を避けるための4つのNGポイント【会社側弁護士が解説】

 退職勧奨は、労働契約を当事者の合意によって終了させるという契約自由の原則の範囲内の行為として、それ自体は直ちに違法にはなりません。しかし、進め方や動機を誤ると「退職強要」として不法行為(民法709条)となり、会社が慰謝料請求・退職無効・バックペイのリスクを負うことになります。

 「合意退職だから問題ない」という認識は危険です。適法な退職勧奨と違法な退職強要の境界線は、面談の頻度・時間・場所・言動の4点に集約されます。退職勧奨を実施する前に、その進め方が社会通念上の許容範囲を超えていないかを必ず確認しなければなりません。本稿では、退職勧奨が違法となる基準、特に退職強要と認定される4つのNGポイントを、使用者側専門の弁護士が解説します。

01退職勧奨が「原則として適法」とされる理由

 退職勧奨は、会社が社員に対して退職を勧め、社員がこれに応じるかどうかを自由に決定できる行為として、それ自体は適法と解されています。労働契約も契約の一種である以上、当事者が話し合いによって合意の上で終了させることは契約自由の原則の範囲内だからです。

 ただし、この適法性は「社員が退職するかどうかを自分の意思で判断できる状況が確保されていること」を前提とします。社員の自由な意思決定を妨げる態様で行われた退職勧奨は、退職強要として不法行為と評価されます。

02検討段階で違法となるケース——動機の不当性

 退職勧奨は進め方だけでなく、誰に対してどのような理由で行うのかによっても違法と評価されることがあります。育休・介護休業の申出、労働組合への加入、残業代の申告、労働基準監督署への申告等の権利行使を理由として退職勧奨を行った場合は、形式上は退職勧奨でも実質的に法律で禁止されている不利益取扱いと評価されます。このような場合は、退職勧奨を開始した時点で違法となります。会社側弁護士としての実務でも、動機の不当性を理由に退職勧奨全体が否定されるケースは少なくありません。

 対象者を選定する際は「なぜこの社員を選んだのか」という動機の正当性を必ず確認し、弁護士に事前に相談することが不可欠です。

03「退職強要」とみなされる4つのNGポイント

 退職勧奨の進め方が社会通念上の許容範囲を超えると、退職強要として不法行為となります。判例・実務上問題となる4つのポイントを解説します。①面談の回数と期間として、社員が明確に拒絶しているにもかかわらず繰り返し呼び出す執拗性は違法リスクが高くなります。「一度の明確な拒絶があれば打ち切ることが原則」というルールが実務上の目安となります。拒絶後も継続的に面談を求めることは、退職強要の典型的なパターンとして裁判所に認定されやすいです。

 ②面談の時間と時間帯として、長時間にわたる拘束(目安として1回1〜2時間を超えるもの)は心理的な圧迫として問題になります。深夜・早朝等の不適切な時間帯での面談も同様です。面談は業務時間内に限定し、社員が自由に退出できる状況を確保することが必要です。③面談の場所と状況として、逃げ場のない密室・出口が塞がれた状況・多数の管理職による包囲等、心理的に追い詰める場所・状況での面談は違法と評価されます。面談は社員が自由に退出できる空間で行い、人数は原則2名以内が望ましいです。④言動の態様(パワハラ的言及)として、侮辱的表現・脅迫・プライベートへの不当な言及・「解雇する」「家族が困る」などの根拠のない告知・恐怖を煽る言動は退職強要と評価されます。退職勧奨の場は「無断録音されている」という前提で、常に第三者に公開されても恥じない発言を心がけることが重要です。

04適法な退職勧奨を実施するための実務上の原則

 会社側が退職勧奨を適法に実施するための実務上の原則を整理します。まず、動機の正当性を確認します。対象者の選定理由が業務上の客観的合理性に基づいているかを確認し、権利行使への報復・差別的動機がないかを自問します。次に、面談は業務時間内・短時間で行います。1回の面談は1時間以内を目安とし、複数回行う場合は間隔を置きます。拒絶したら打ち切ります。社員が明確に拒絶した場合は、その面談を打ち切り、再度求める場合は間隔を十分に置きます。

 また、弁護士を同席させることで、発言の適切性を確保し、後の紛争に備えた記録も残しやすくなります。発言内容を事前に確認することも重要です。「解雇になる可能性がある」という説明は根拠に基づいて行い、根拠のない断言は絶対に避けます。

05退職強要と認定された場合のリスク

 退職勧奨が退職強要として不法行為と認定された場合、会社が負うリスクは以下のとおりです。慰謝料の支払いとして、精神的苦痛に対する損害賠償として数十万〜数百万円が命じられる場合があります。退職の無効として、強迫による退職の取消しが認められると、社員が在職を継続したものとして扱われます。バックペイの支払いとして、退職後の期間について在職扱いとなった期間の賃金を支払わなければならなくなります。また、社員が復職を求める場合、これを拒否することが難しくなります。

 これらのリスクを回避するためにも、退職勧奨を実施する前に必ず四谷麹町法律事務所(労働問題に強い使用者側専門の弁護士)に相談し、面談の進め方・発言内容・書面の設計を確認することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨の適法性確認・退職強要リスクの回避でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

FAQよくある質問

Q1. 退職勧奨を何回行えば違法になりますか?

 回数のみで一律に違法とはなりませんが、社員が明確に拒絶した後も繰り返す場合は退職強要として問題になります。実務上は、明確な拒絶があった後に再度求める場合は十分な間隔を置き、状況の変化がない限り継続しないことが重要です。頻度・期間・間隔を含めた総合的な判断となります。

Q2. 面談の場に上司が複数名いても問題ありませんか?

 複数名での面談が直ちに違法になるわけではありませんが、多数の管理職で社員を取り囲む状況は心理的圧迫として問題になる可能性があります。実務上は会社側2名以内(進行役と記録係等)が望ましく、社員が自由に発言・退出できる状況を確保することが重要です。

Q3. 退職勧奨の面談は何時間まで行えますか?

 1回の面談の目安は1時間以内です。これを大幅に超える長時間の面談は、社員を心理的に追い詰めるものとして退職強要と評価されるリスクがあります。時間が超過する場合は一旦打ち切り、改めて別の機会を設けるか、まずは弁護士に相談してください。

Q4. 退職勧奨の面談で「解雇になる可能性がある」と伝えることはできますか?

 客観的な根拠に基づいて「このような状況が続けば解雇の可能性がある」という形で正確かつ冷静に説明することは許容されます。ただし、解雇の正当性を立証できない状況で「懲戒解雇になる」と断言したり、脅迫的なトーンで告知したりすることは強迫取消のリスクも生じます。発言内容は事前に弁護士に確認してください。

関連関連ページ

最終更新日:2026年5月10日

労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲