労働問題133 退職勧奨が違法になる基準とは?不法行為(退職強要)を避けるための注意点

本記事の結論

● 退職勧奨自体は、労働者の「任意の意思」を尊重する限り、原則として自由(適法)です。

「不当労働行為」や「差別的動機」に基づく勧奨は、開始した時点で違法となります。

● 手段・方法が社会通念上の許容範囲を超えると「退職強要」となり、不法行為責任を負います。

● 違法判断の鍵は、面談の頻度・時間・場所・言動の4点に集約されます。

1. 退職勧奨が「原則として適法」とされる理由

 会社経営において、問題社員への対応や組織再編などを理由に、退職勧奨を検討する場面は決して珍しくありません。日本の労働法では解雇に対して厳しい制限が設けられている一方で、労働契約を当事者の合意によって終了させること自体は認められているという基本原則があります。

 労働契約も民法上の契約である以上、契約当事者が話し合いによって契約関係を終了させることは、いわゆる契約自由の原則の範囲内の行為とされています。そのため、会社が労働者に対して「退職を検討してほしい」と提案する行為、すなわち退職勧奨それ自体は直ちに違法になるものではなく、原則として適法な行為と理解されています。

 もっとも、この適法性は無条件に認められるものではありません。退職勧奨が適法と評価されるためには、労働者が退職するかどうかを自分の意思で判断できる状況が確保されていることが前提になります。言い換えれば、会社が退職という選択肢を提示することは許されていても、退職を事実上強制するような状況を作ることは許されないということです。

 したがって、退職勧奨は会社経営において一定の合理性を持つ手段ではありますが、その進め方を誤ると、後に退職強要やハラスメントと評価されるリスクも生じます。会社経営者としては、退職勧奨が原則として適法とされる理由と、その前提となる「労働者の自由な意思の尊重」という考え方を正しく理解しておくことが重要です。

2. 検討段階で違法となるケース(動機の不当性)

 退職勧奨は、その進め方だけでなく、そもそも誰に対して、どのような理由で行うのかという点によっても違法と評価されることがあります。つまり、面談の方法や言動に問題がなくても、退職勧奨の目的や対象の選び方が不当であれば、法的責任が生じる可能性があります。

 典型的な例として挙げられるのが、労働組合活動を理由とする退職勧奨です。労働組合の活動を嫌悪し、組合員であることを理由に退職を促すような行為は、労働組合法が禁止する「不当労働行為」に該当する可能性があります。このような場合、退職勧奨の手続き自体が適切であったとしても、動機が不当である以上、違法と判断されるリスクがあります。

 また、性別、国籍、信条、社会的身分などを理由とした退職勧奨も問題になります。これらの事情を理由に対象者を選別することは、男女雇用機会均等法や各種の労働関係法令の趣旨に反する可能性があり、不当な差別的取扱いとして問題視されることがあります。

 さらに実務上注意すべきなのが、報復的な目的で行われる退職勧奨です。例えば、育児休業を取得したこと、社内通報を行ったこと、あるいは会社の不正を指摘したことなどを理由として退職を迫る場合、その行為は報復措置として違法と評価される可能性があります。

 このように、退職勧奨の適法性は「どのように説得したか」だけでなく、「なぜその社員に退職勧奨を行うのか」という動機の正当性によっても判断されます。会社経営者としては、退職勧奨を検討する段階から、その対象選定や理由が客観的に説明できるものかどうかを慎重に確認しておくことが重要です。

3. 「退職強要」とみなされる4つのNGポイント

 多くの裁判例において、退職勧奨が「社会通念上相当な範囲を逸脱した」と判断される主な要因は、以下の4点に整理されます。これらに該当する場合、会社は不法行為に基づく損害賠償義務(民法709条)を負うことになります。

① 面談の回数と期間

 退職勧奨が「退職強要」と評価されるかどうかを判断する際、裁判で特に重視される要素の一つが、面談の回数や期間の多さです。退職勧奨はあくまで労働者の自由な意思に基づく話し合いであるため、説得が過度に繰り返される場合、その行為は心理的な圧力と評価される可能性があります。

 例えば、短期間のうちに何度も面談を設定し、同じ内容の説得を繰り返すようなケースでは、労働者に対して強い精神的負担を与えることになります。特に、労働者が一度退職を拒否しているにもかかわらず、面談を繰り返して退職を求め続ける場合には、「何度断っても説得が続く」という状況自体が心理的な圧迫と評価されるおそれがあります。

 裁判例でも、短期間に多数の面談が行われていた事案や、数か月にわたって執拗に退職を勧め続けていた事案では、退職勧奨が社会通念上相当な範囲を逸脱していると判断された例があります。会社側としては「話し合いを重ねただけ」と考えていても、結果として労働者の自由な意思決定を妨げていたと評価される可能性があるのです。

 そのため会社経営者としては、退職勧奨の面談を行う際には回数や期間にも注意を払い、一度拒絶された場合には執拗な説得を続けないことが重要になります。適切な引き際を見極めることが、退職強要と評価されるリスクを避けるうえで重要なポイントとなります。

② 面談の時間と時間帯

 退職勧奨が適法な範囲にとどまっているかどうかを判断する際には、面談の時間の長さや実施された時間帯も重要な要素になります。退職勧奨はあくまで任意の話し合いであるため、労働者を長時間拘束するような面談は、心理的な圧力を与える行為と評価される可能性があります。

 例えば、1回の面談が数時間に及ぶ場合や、労働者が疲労を感じるほど長時間にわたって説得を続けるようなケースでは、自由な意思決定が妨げられていると判断されることがあります。また、勤務時間外に呼び出して長時間面談を行う場合や、深夜に及ぶような話し合いは、労働者に対する精神的負担を大きくする行為として違法性が問題になる可能性があります。

 特に注意すべきなのは、労働者が面談の終了を求めたにもかかわらず、面談を継続して説得を続けるような状況です。このような対応は、任意の話し合いという退職勧奨の性質を逸脱し、強い心理的圧迫を与える行為と評価されやすくなります。

 会社経営者としては、退職勧奨の面談を行う際には、時間や時間帯にも十分配慮する必要があります。面談は合理的な時間内で実施し、労働者の負担が過度にならないようにすることが、退職強要と評価されるリスクを避けるうえで重要なポイントになります。

③ 面談の場所と状況

 退職勧奨が適法な範囲にとどまっているかどうかは、面談の内容だけでなく、どのような場所や状況で行われたのかという点によっても判断されます。退職勧奨はあくまで任意の話し合いであるため、労働者に過度な心理的圧力を与えるような環境で行われた場合には、退職強要と評価されるリスクが高まります。

 例えば、外部との連絡手段が遮断されたような密室で長時間面談を続ける場合や、上司や役員など複数の会社関係者が一人の労働者を取り囲むような状況で説得を行う場合には、労働者に強い威圧感を与える可能性があります。このような環境は、労働者が自由に意思表示できる状況とはいえず、裁判では心理的圧迫を伴う退職勧奨と評価されることがあります。

 また、他の従業員がいる前で退職を迫るような場面も問題になります。例えば、職場内で公開的に退職を求めたり、周囲の従業員の前で退職を迫るような状況を作ったりすると、労働者に対する強い精神的負担を与えることになります。このような対応は、退職勧奨というよりも見せしめ的な行為として評価される可能性があります。

 会社経営者としては、退職勧奨を行う際には、面談の内容だけでなく、労働者が冷静に判断できる環境が確保されているかという点にも注意を払う必要があります。落ち着いた環境で、過度な威圧感を与えない形で面談を行うことが、退職強要と評価されるリスクを避けるために重要です。

④ 言動の態様(パワハラ的言及)

 退職勧奨が違法と判断されるかどうかを左右する最も重要な要素の一つが、面談における会社側の言動の内容や態様です。退職勧奨はあくまで退職という選択肢を提示する話し合いであり、威圧的な言動や人格を否定するような発言が含まれる場合には、退職勧奨の範囲を超えた違法行為と評価される可能性があります。

 例えば、怒鳴る、机を叩く、強い口調で叱責するといった威嚇的な態度は、労働者に強い心理的圧力を与える行為とみなされやすくなります。また、「辞めなければ懲戒解雇にする」「会社に居場所はない」といった発言や、「次の仕事は見つからない」「社会で通用しない」といった将来への不安を過度にあおるような表現も、退職を強制する発言として問題視されることがあります。

 さらに注意すべきなのは、労働者の人格や能力を否定するような発言です。業務上の問題点を説明すること自体は必要ですが、「あなたは会社に不要な人間だ」といった人格を否定するような表現は、退職勧奨ではなくパワーハラスメントと評価される可能性があります。

 退職勧奨の場では、会社として業務上の問題点や今後の見通しを説明することは認められています。しかし、その説明はあくまで客観的な事実に基づいた冷静なものでなければなりません。会社経営者としては、退職勧奨が心理的な圧力やハラスメントと評価されないよう、面談における言葉遣いや態度に十分注意を払うことが重要です。

4. 経営者が負うべきリスクと実務的対応

 退職勧奨は会社経営において一定の合理性を持つ手段ですが、その進め方を誤ると、会社だけでなく会社経営者自身にも大きな法的リスクが生じる可能性があります。退職勧奨が違法と判断された場合、単なる労務トラブルにとどまらず、損害賠償や企業の信用問題へと発展することもあります。

 まず典型的なのが、損害賠償責任(慰謝料)の問題です。退職勧奨が社会通念上相当な範囲を逸脱し、退職強要やハラスメントと認定された場合、会社は民法上の不法行為責任を負い、労働者に対して慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。さらに紛争が長期化すれば、その間の賃金相当額などが問題となることもあり、会社にとって大きな負担となることがあります。

 また、退職勧奨の結果として労働者が退職に応じた場合であっても、その過程に違法性が認められれば、退職の合意自体が無効または取り消しの対象とされる可能性があります。その場合、退職したはずの労働者が職場へ復帰するという事態も起こり得ます。これは会社の人事計画にも大きな影響を与えるリスクといえるでしょう。

 さらに近年では、労働問題に関する情報がインターネットやSNSを通じて拡散されることも多く、退職強要やパワハラの問題が表面化した場合には、企業の社会的信用や採用活動への影響といったレピュテーションリスクも無視できません。

 こうしたリスクを避けるためには、退職勧奨の面談内容を記録しておくことや、面談の回数や進め方に配慮することが重要になります。また、労働者が退職を拒否した場合には、執拗な説得を続けるのではなく、いったん退職勧奨を打ち切る判断を行うことも重要な実務対応の一つです。会社経営者としては、退職勧奨を進める際には常に法的リスクを意識し、慎重に対応する姿勢が求められます。

5. まとめ

 退職勧奨は、会社経営の現場において組織運営や人員配置の見直しを行う際に用いられることのある手段であり、**それ自体が直ちに違法となるものではありません。**労働者に退職という選択肢を提示し、合意によって労働契約を終了させることは、契約自由の原則に基づく行為として原則的に認められています。

 しかし、退職勧奨が適法と評価されるためには、常に労働者の自由な意思決定が尊重されていることが前提となります。面談の回数や時間、面談の環境、そして会社側の言動によっては、退職勧奨が社会通念上相当な範囲を逸脱し、退職強要やパワーハラスメントと評価される可能性もあります。

 退職勧奨を行う際には、会社側として冷静で客観的な説明を心がけ、労働者が自ら判断できる環境を確保することが重要です。また、労働者が退職を拒否した場合には無理に説得を続けるのではなく、状況に応じて退職勧奨を打ち切る判断も必要になります。

 会社経営者としては、退職勧奨を単なる説得の場として捉えるのではなく、法的リスクを伴う手続きであることを十分に認識したうえで慎重に進めることが重要です。具体的な進め方や対応に不安がある場合には、退職勧奨を実施する段階で、労働問題に精通した弁護士に相談しながら方針を整理することが、結果として会社のリスクを最小限に抑えることにつながります。

退職勧奨の違法性に関するよくある質問

Q1. 1回の面談時間をどのくらいにすべきですか?

A. 一概に規定はありませんが、裁判例では数時間に及ぶ執拗な説得が違法とされた例があります。通常は30分から1時間程度を目安とし、長くとも2時間を超えない範囲で、本人の疲労度にも配慮する必要があります。

Q2. 本人が拒否しているのに勧奨を続けるのは違法ですか?

A. 一度拒絶されたからといって直ちに違法とはなりませんが、本人が「これ以上議論するつもりはない」と明確に意思表示しているにもかかわらず、執拗に繰り返すことは、任意の意思を尊重していないとして違法性を帯びるリスクが高いです。

Q3. 違法とされた場合の賠償額の相場は?

A. 事案の悪質性によりますが、精神的苦痛に対する慰謝料として数十万から数百万円の支払いを命じられることがあります。また、退職自体が無効とされた場合は、バックペイ(未払い賃金)の支払いでさらに高額化します。

弁護士 藤田 進太郎
監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

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最終更新日:2026/3/9

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