労働問題13 「解雇した覚えがないのに解雇予告手当を請求された」会社経営者が取るべき対応と紛争予防策
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解雇予告手当(労基法20条)は「解雇が存在すること」が前提。解雇していなければ支払義務はない 「口頭で即時解雇された」という主張への対応の核心は、そもそも解雇が存在しないことを客観的に示すことです。出勤催告の記録・退職届の取得・退職勧奨と解雇の線引きが、紛争予防と防御の三本柱です。 |
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根拠なき請求は原則として拒絶。ただし証拠が弱い場合は退職合意書を締結したうえでの解決金も選択肢 「解雇予告手当として支払う」のではなく、「紛争解決金として合意のうえで支払う」形が重要です。合意書には退職日・退職理由・清算条項を明記し、蒸し返しを防ぐ設計にすることが必要です。 |
目次
01なぜ問題社員から「口頭解雇された」と主張されるのか
会社としては解雇した覚えがないにもかかわらず、出社しなくなった労働者から「口頭で即時解雇された」として解雇予告手当の請求を受けるケースは、実務上決して珍しくありません。
このような主張が生じる最大の原因は、出社しなくなった労働者への対応が曖昧なまま放置されていることにあります。例えば、欠勤が続いているにもかかわらず出勤を正式に催告していない、本人が「辞めます」と口頭で述べただけで退職届を取得していない、といった対応です。
口頭でのやり取りは証拠が残りません。後日、「会社から辞めろと言われた」「もう来なくていいと言われた」と主張されると、事実関係が不明確になります。その結果、労働者側が「即時解雇があった」と構成し、労働基準法第20条に基づく解雇予告手当を請求してくるのです。
また、退職勧奨を行った場合にも注意が必要です。強い表現や執拗な説得があれば「事実上の解雇」と評価される可能性があります。この種の紛争は、多くの場合「最初の対応ミス」から始まります。出社しなくなった段階での初動対応が不十分であれば、後から口頭解雇を主張される土壌を作ってしまうことになります。
02解雇の成立要件と立証責任の基本構造
解雇とは、会社による一方的な労働契約の終了意思表示です。口頭であっても成立し得ますが、重要なのは、解雇の意思表示があったことは主張する側(労働者側)が立証する必要があるという点です。
会社経営者として重要なのは、「解雇したつもりがない」という主観では足りないという点です。紛争では、客観的に解雇の意思表示があったと評価されるかどうかが問題になります。曖昧な発言や不適切な対応が、解雇の意思表示と解釈される余地を生みます。
逆に言えば、会社側が一貫して「解雇の意思はなく、出勤を求めていた」ことを客観的証拠で示せれば、解雇の成立自体を否定できます。そのために有効なのが、出勤催告の書面記録と、退職届の確実な取得です。
解雇予告手当(労基法20条)は「解雇が存在すること」が前提です。解雇そのものが存在しないのであれば、解雇予告手当の支払義務も発生しません。この構造を正確に理解することが、防衛戦略の出発点となります。
03突然出社しなくなった問題社員への初動対応
この種の紛争を防ぐ最大のポイントは、出社しなくなった段階での初動対応にあります。放置こそが、後日の「口頭解雇」主張を招く最大の原因です。
突然出社しなくなった場合、まずは速やかに電話連絡を行い、出勤の意思と理由を確認してください。連絡が取れない、あるいは出勤しない場合には、電子メールや書面で正式に出勤を催告します。
重要なのは、「出勤を求めている」という会社の意思を明確に示し、かつ証拠化することです。これにより、会社が解雇の意思表示をしていないことを客観的に裏付けることができます。
出勤催告を怠ると、「会社から来なくてよいと言われた」「事実上排除された」といった主張がなされた際に反証が困難になります。逆に、明確な催告記録があれば、解雇の存在自体を否定する有力な証拠となります。会社経営者として、沈黙や放置もまた紛争リスクを高めるという点を意識すべきです。
04出勤催告の具体的方法と証拠化の重要性
出社しなくなった労働者に対しては、「出勤を求めている」という会社の意思を明確にし、それを証拠として残すことが不可欠です。
まず電話連絡を行い、その内容・日時・相手の回答を記録してください。しかし、電話だけでは証拠として弱いため、その後に電子メールや書面で正式に出勤を求める通知を行うべきです。可能であれば、配達記録郵便や内容証明郵便など、到達が確認できる方法を選択します。
通知文面では、「解雇の意思はないこと」「出勤を命じていること」「正当な理由なく欠勤を続ける場合の扱い」などを明確に記載します。曖昧な表現は避け、会社の立場を明確に示すことが重要です。
これらの対応は、後日「口頭で即時解雇された」と主張された場合の決定的な反証資料になります。会社が一貫して出勤を求めていた事実が示されれば、解雇の成立自体を否定しやすくなります。口頭対応で済ませるのではなく、必ず書面化・記録化するという原則を徹底すべきです。
05退職届を取得しないことのリスク
労働者が口頭で「会社を辞めます」と述べたにもかかわらず、退職届を取得していない場合、後日「解雇された」と主張されるリスクが生じます。退職は労働者側からの労働契約の終了意思表示ですが、口頭のみでは証拠が残りません。時間が経過すれば、「辞めるとは言っていない」「会社から辞めるよう圧力を受けた」と主張される可能性があります。
その結果、「実質的には会社が一方的に終了させた」と構成され、解雇予告手当(労基法20条)の請求につながるケースがあります。
実務上、最も重要なのは、必ず書面で退職届を提出させることです。提出日、退職日、自己都合退職であることを明確に記載させ、会社側でも受領記録を保管します。特に、問題社員が自ら「辞める」と発言した場合こそ注意が必要です。退職届を提出していないことを利用し、後から「解雇された」と主張する事案は少なくありません。「本人が言っていたから大丈夫」という感覚的判断を排除し、退職は必ず書面で確定させるというルールを徹底する必要があります。
06退職勧奨と解雇の線引き
「解雇した覚えはない」という事案で問題となりやすいのが、退職勧奨と解雇の線引きです。退職勧奨とは、会社が労働者に対し自主的な退職を促す行為であり、最終的な判断は労働者側に委ねられます。他方、解雇は会社による一方的な労働契約の終了意思表示です。この違いは決定的です。
しかし実務では、退職勧奨が強硬・執拗になり、「事実上の強制」と評価されるケースがあります。「辞めなければ処分する」「居場所はない」「明日から来なくてよい」といった発言は、文脈次第では解雇の意思表示と解釈されかねません。その結果、「口頭で即時解雇された」と構成され、解雇予告手当(労基法20条)の請求に発展することがあります。
退職勧奨を行う場合でも、あくまで選択権は労働者にあることを明確にすることが重要です。発言内容・回数・態様が過度にならないよう慎重に管理する必要があります。また、退職に合意したのであれば、必ず退職合意書や退職届を取得し、自己都合退職であることを明文化します。退職勧奨は有効な経営手段ですが、線引きを誤れば解雇と評価されるリスクを伴います。
07不当な解雇予告手当請求への原則的対応
退職届が提出されている事案や、退職勧奨もしていないにもかかわらず労働者が自己都合で退職を申し出た事案において、「口頭で即時解雇された」として解雇予告手当を請求してくるケースがあります。このような場合、会社経営者としては安易に支払わないことが原則です。
解雇予告手当は、労働基準法第20条に基づき「解雇」があったことを前提とする制度です。そもそも解雇が存在しないのであれば、支払義務は発生しません。特に、退職届が提出されている場合や出勤催告の記録が残っている場合には、会社が解雇の意思表示をしていないことを客観的に立証できます。このような状況で支払に応じてしまうと、「やはり解雇だったのではないか」という誤った前提を自ら認める結果になりかねません。
また、一度支払えば他の従業員に対する抑止力も低下します。感情的に反応するのではなく、証拠と法的構造に基づいて冷静に拒絶することが重要です。書面で、解雇の事実がないこと・自己都合退職であることを明確に回答し、必要に応じて弁護士名で対応します。
08和解的解決を選択するケースの判断基準
一方で、すべての事案で全面的に支払拒絶が最善とは限りません。会社経営者としては、法的正当性と経営コストのバランスを見極める必要があります。
例えば、退職勧奨を行っていたものの、退職届や退職合意書を取得していないケースでは、紛争が長期化するリスクがあります。発言内容や経緯によっては、「実質的に解雇に近い」と評価される余地も否定できません。訴訟に発展すれば、解雇の成否自体が争点となり、未払賃金や付加金(労働基準法第114条)の問題に波及する可能性もあります。
そのため、辞めてもらうこと自体が経営上の優先事項である場合には、退職合意書を作成し署名押印を取得したうえで、解雇予告手当相当額程度を解決金として支払うという選択肢も合理的です。重要なのは、「解雇予告手当として支払う」のではなく、「紛争解決金として合意のうえで支払う」ことです。合意書には、退職日、退職理由、清算条項(今後一切の請求をしない旨)を明記します。
会社経営者に求められるのは、感情論ではなく、総コストと将来リスクを比較衡量した戦略的判断です。原則は支払拒絶ですが、証拠が弱い事案や紛争拡大の可能性が高い事案では、和解的解決も現実的選択肢となります。
09紛争拡大を防ぐための労務実務設計
「口頭解雇」トラブルの多くは、日常の労務管理の不備が蓄積した結果として表面化します。予防のためには、以下の実務設計を整備することが不可欠です。
② 退職の申し出は口頭にとどめず、必ず退職届を提出させることを徹底する
③ 退職勧奨を行う場合は、事前に弁護士と対応方針を協議し、面談の内容・回数・態様を記録する
④ 退職合意書のひな型を整備し、合意が成立した際は必ず書面で締結する
⑤ 退職合意書には、退職日・退職理由(自己都合)・清算条項・口外禁止条項を盛り込む
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 就業規則に規定がなくても、職場での無断録音を禁止できますか。
A. 可能です。会社には施設管理権や職場環境維持義務があるため、業務上の必要性や職場秩序の維持を理由に録音を禁止する業務命令を出すことができます。ただし、後のトラブルを防ぐためにも、就業規則に明文化しておくことが望ましいです。
Q2. 「明日から来なくていい」という発言は、直ちに口頭解雇とみなされますか。
A. 文脈によりますが、極めてリスクが高い発言です。たとえ感情的になった一過性の言葉であっても、労働者がそれを真に受けて出社を拒絶し、後に解雇予告手当を請求した場合、裁判所が「黙示の解雇」と認定するおそれがあります。特に録音されていた場合は重大な証拠になり得ます。
Q3. 退職届を出さずにいなくなった社員に、解雇予告手当を支払う必要はありますか。
A. 原則として支払う必要はありません。解雇が存在しない以上、支払義務も生じないからです。ただし、会社側が「解雇していない(出勤を求めている)」という事実を書面やメールで証拠化しておかなければ、後日「口頭解雇された」との主張を覆すことが困難になる場合があります。まずは書面で出勤催告を行い、記録を残してください。
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最終更新日:2026年3月11日