労働問題100 解雇していないのに「解雇された」と主張される理由とは
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「解雇された」は失業手当・解雇予告手当・バックペイを狙った戦略的主張であることが多い 退職勧奨や出勤停止命令の場面で起きやすく、「解雇する」という言葉がなくても、発言の趣旨や経緯全体から解雇と評価されるリスクがあります。 |
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退職届があっても合意退職と確定しない場合がある。最大の予防策は書面化と早期相談 退職届の取得に至る経緯が問題とされ、任意性が争われることがあります。退職合意の書面化・退職経緯の記録・弁護士への早期相談が最大の予防策です。 |
目次
01「解雇された」と主張される典型的な場面
会社としては解雇の意思表示をしていないにもかかわらず、労働者側から「解雇された」と主張される事案は、決して珍しいものではありません。特に、退職勧奨を行った場面や、トラブルを理由に出勤停止・自宅待機を命じた場面で生じやすい傾向があります。
たとえば、「今の状況では続けるのは難しいのではないか」「退職を考えてはどうか」といった発言が、労働者側からは解雇の意思表示と受け取られ、「会社から一方的に辞めさせられた」と主張されることがあります。また、口頭でのやり取りのみで明確な書面が存在しない場合には、後になって事実関係をめぐる争いが激しくなります。
実務では、明確に「解雇する」という言葉を用いなくても、発言の趣旨や経緯全体から解雇と評価される可能性があります。こうした曖昧な局面こそが、労働者側にとって「解雇された」という構成を取りやすい場面なのです。
02労働者側が解雇扱いに持ち込む3つの経済的目的
①失業手当を会社都合退職として有利に受給する
自己都合退職の場合、失業給付には給付制限期間が設けられ、実際に受給できるまで一定の待機期間が生じます。会社都合退職(解雇等)と認定されれば、給付開始までの制限が大幅に緩和され、給付日数も手厚くなります。そのため、本来は合意退職であっても、「会社から一方的に辞めさせられた」と主張し、ハローワークにおける離職理由の認定を有利に導こうとする動機が生じます。
②解雇予告手当(30日分)を請求する
労働基準法上、会社が労働者を解雇する場合には、原則として30日前の予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。会社としては合意退職になったと考えていても、「実質的には解雇だった」と主張されれば、30日分相当の金銭請求がなされます。解雇予告手当の請求を入口として、解雇無効や慰謝料請求へと発展するケースもあります。
③解雇無効を主張してバックペイ・解決金を獲得する
解雇が無効と判断されれば、労働契約は終了していないことになり、働いていなくても解雇日以降の賃金全額(バックペイ)を請求できます。紛争が長期化すれば、その金額は相当な額に達します。また、「不当解雇」という枠組みに持ち込むことで心理的・社会的な圧力をかけ、早期の金銭解決(解決金)を引き出そうとする戦略的な意図もあります。
この3つの経済的メリットを狙って、「解雇された」という枠組みに持ち込まれる構図があります。この構図を理解しておくことが、初動対応の出発点になります。
03合意退職と解雇の法的な違い
解雇は会社からの一方的な意思表示によって労働契約を終了させる行為です。他方、合意退職は会社と労働者の双方が退職に合意することで契約を終了させるものです。形式的には似た結果になっても、法的な評価はまったく異なります。
問題となるのが、退職勧奨の場面です。会社としては「退職を勧めただけ」であっても、労働者側が「断れない状況だった」「事実上の強制だった」と主張すれば、解雇または退職強要と評価される可能性があります。裁判実務では、退職に至る経緯・発言内容・時間的余裕の有無・書面の有無などが総合的に判断されます。単に退職届が提出されているからといって、直ちに合意退職と確定するわけではありません。
よくある会社経営者の誤解
✕ 「退職届をもらったから問題ない。書面があれば合意退職は確定する」→ 必ずしも確定しません。退職届が提出されていても、「断れない状況だった」「事実上の強制だった」と主張されれば、退職の合意の任意性が争われます。退職届取得に至る経緯の記録も重要です。
✕ 「解雇する気はなかったのだから、解雇と評価されるはずがない」→ 誤りです。会社経営者の内心の意思ではなく、発言内容や経緯全体から客観的に判断されます。曖昧な発言や書面の不備が「黙示の解雇」と評価されるリスクがあります。
04会社経営者が取るべき予防策と初動対応
退職勧奨の発言内容を慎重に選ぶ
退職勧奨の際は、強制・脅迫・不利益の示唆と受け取られる発言を避けることが重要です。「退職を勧める」という意思は伝えつつも、労働者が自由な意思で判断できる環境を確保し、十分な考慮時間を与える必要があります。発言内容は後日のために記録を残しておくことをお勧めします。
退職合意は必ず書面で残す
退職の合意は、退職届または退職合意書という書面で残すことが必要です。退職届の内容(退職日・退職理由・退職形式)を明確にし、後で離職理由をめぐる争いが生じないよう整理しておくことが重要です。解決金を支払う場合は、退職合意書に清算条項を入れ、後の追加請求を防いでください。
退職経緯を明確に記録し、客観的資料を残す
退職に至るまでの面談記録・発言内容・時系列を、書面で残してください。「いつ・誰が・どのような発言をしたか」が明確であれば、後で「解雇された」と主張されても反論の根拠になります。可能であれば会社側で録音することも有効です(会社側による録音自体は法的に問題ありません)。
退職勧奨・解雇を検討する段階で弁護士に相談する
「解雇された」と主張されるリスクが最も高いのは、退職勧奨の場面です。退職勧奨を検討している段階で、あらかじめ会社側専門の弁護士に相談し、発言の仕方・書面の作り方・手続の進め方を確認しておくことが、紛争リスクの最小化に直結します。
05よくある質問(FAQ)
Q. 「解雇された」と主張される典型的な場面はどのような場合ですか。
退職勧奨を行った場面や、トラブルを理由に出勤停止・自宅待機を命じた場面で生じやすい傾向があります。「今の状況では続けるのは難しい」「退職を考えてはどうか」といった発言が、解雇の意思表示と受け取られることがあります。明確に「解雇する」という言葉を用いなくても、発言の趣旨や経緯全体から解雇と評価される可能性があります。
Q. 労働者側が「解雇された」と主張する目的・意図は何ですか。
主に①失業手当を会社都合退職として有利に受給する、②解雇予告手当(30日分相当)を請求する、③解雇無効を主張してバックペイ・解決金を獲得する、という経済的メリットを狙っています。「不当解雇」という枠組みに持ち込むことで交渉上の圧力をかけ、早期の金銭解決を引き出そうとする意図もあります。
Q. 退職届があれば合意退職と確定しますか。
必ずしも確定しません。退職届が提出されていても、「断れない状況だった」「事実上の強制だった」と主張されれば、退職の合意の任意性が争われます。退職届の取得に至る経緯の記録と、発言内容の記録が重要です。退職届の形式だけでなく、取得プロセス全体を適正に進めることが必要です。
Q. 「解雇された」と主張されないための予防策は何ですか。
①退職勧奨の際は発言内容を慎重に選び、強制・脅迫と受け取られる発言を避ける、②退職合意は必ず書面(退職届・退職合意書)で残す、③退職経緯を明確に記録し客観的資料を残す、④退職の形式を曖昧にしない、⑤退職勧奨や解雇を検討する段階で弁護士に相談する、という点が重要です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。「解雇していないのに解雇されたと主張された」「退職勧奨のトラブル」でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月1日