労働問題23 普通解雇した時点で既に存在していたものの使用者に判明しておらず、当初は解雇理由とされていなかった事実が後から判明した場合、後から普通解雇事由として追加主張することはできますか?
目次
普通解雇後に判明した事実の追加主張は裁判例上認められやすいですが、解雇理由証明書を交付している場合は重大なリスクがあります。
普通解雇時に存在していたが判明していなかった事実が後から発覚した場合、それを解雇理由として追加主張できるとする裁判例が多くあります。しかし解雇理由証明書(労基法22条)を交付している場合、記載外の理由の追加主張は解雇権濫用と判断されるリスクが高まります。懲戒解雇とは扱いが異なる点も重要な論点です。
■ 普通解雇後判明した事実の追加主張は裁判例上認められやすい
解雇時に使用者が知り得なかった事実については、後から普通解雇事由として追加主張することができるとする裁判例が多いです。懲戒解雇で原則認められないのと対照的です。
■ 解雇理由証明書を交付している場合は追加主張にリスクがある
解雇理由証明書(労基法22条)に記載されていない解雇理由の追加主張は、解雇権濫用(労契法16条)と判断されるリスクが高まります。証明書の記載内容は慎重に検討が必要です。
■ 実務上の対策:解雇理由証明書の記載を幅広く・丁寧に行う
解雇理由証明書を交付する際は、当時判明している事実を漏れなく記載することが、後の追加主張リスクを抑える上で重要な実務上の対策です。
1. 普通解雇後に判明した事実の追加主張:裁判例の傾向
追加主張を認める裁判例が多い
普通解雇した時点で既に存在していたものの、使用者に判明しておらず当初は解雇理由とされていなかった事実が後から判明した場合、その事実を後から普通解雇事由として追加主張することができるとする裁判例が多くあります。
この考え方の背景には、普通解雇が「労働契約の解消」という性格を持つものであり、解雇時に存在していた事実については、使用者が当時それを知っていたかどうかにかかわらず、解雇の有効性を支える根拠として機能し得るという論理があります。解雇の有効性は解雇時の客観的な状況によって判断されるべきという考え方に基づくものです。
懲戒解雇との違い:懲戒事由の追加主張は原則不可
普通解雇では追加主張を認める裁判例が多いのに対し、懲戒解雇の場合は特段の事情がない限り懲戒事由の追加主張が許されないとするのが一般的です。
この違いは、両者の制度的な性格の違いから生じます。懲戒解雇は使用者が労働者に対して行う制裁処分であり、被処分者が対象となる事由を事前に知った上で弁明の機会を持つことが手続的公正の観点から重視されます。解雇時に示されなかった事由を後から懲戒理由として追加することは、この手続的公正に反するとして、原則として認められません。一方、普通解雇はこうした制裁としての性格を持たないため、より柔軟な扱いがなされています。
2. 解雇理由証明書との関係:追加主張が認められないリスク
解雇理由証明書(労基法22条)とは
労働基準法22条は、解雇された労働者が請求した場合、使用者は解雇理由を記載した証明書を交付しなければならないと定めています。この解雇理由証明書を交付した場合、その後の対応に重大な影響が生じます。
労働基準法22条1項(退職時等の証明)
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
解雇理由証明書の記載外の理由で追加主張するリスク
解雇理由証明書を交付した後に、証明書に記載されていない解雇理由を追加して主張することは、解雇権濫用(労働契約法16条)と判断されるリスクが高まります。また、事案によっては追加主張自体が認められないリスクもあります。
解雇理由証明書は「解雇の理由を公式に示した書面」という性格を持つため、後からそこに記載されていない理由を持ち出すことは、労働者側からすれば「後付けの理由」と受け取られます。裁判所も、証明書の記載内容と異なる主張には慎重な目を向けることがあります。
✕ よくある経営者の誤解
「普通解雇後に不正が発覚したので、それを理由に追加主張すれば解雇が確実に有効になる」→ 慎重な判断が必要です。
追加主張を認める裁判例は多いですが、解雇理由証明書に記載のない理由での追加主張は解雇権濫用と判断されるリスクがあります。また、当初の解雇理由が解雇権濫用と判断される場合、追加事由だけで有効性が認められるとは限りません。
「解雇理由証明書は簡単に書けばよい」→ 誤りです。
解雇理由証明書の記載内容が後の訴訟・労働審判で会社側の主張を縛ることになります。記載が不十分だと後から追加主張ができなくなるリスクがあるため、作成時に弁護士への相談をお勧めします。
解雇理由証明書の作成・解雇後に判明した事実の取り扱いについて、早めのご相談をお勧めします。証明書の記載内容は後の紛争対応を大きく左右します。→ 経営労働相談はこちら
3. 実務上の対策:解雇理由証明書の記載を幅広く丁寧に行う
解雇時に判明している事実を漏れなく記載する
解雇理由証明書の追加主張リスクを抑える最も有効な実務上の対策は、解雇理由証明書を交付する際に、当時判明している事実をできる限り漏れなく・具体的に記載することです。抽象的・一般的な記載にとどめず、「いつ・どのような行為があったか」「どのように注意指導したか」「それでも改善しなかったか」といった具体的な事実を盛り込むことで、解雇の客観的合理的理由の根拠を証明書上に示しておくことができます。
解雇前から記録を積み重ねておく
そもそも解雇理由証明書に十分な内容を記載できるようにするためには、解雇を検討する段階から問題行動・注意指導の記録を積み重ねておくことが不可欠です。日常的な記録の積み重ねが、解雇理由証明書の充実した記載を可能にし、後の追加主張に頼らなくて済む状況を作ります。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
解雇理由の追加主張をめぐるご相談でよく見られるのは、次のようなパターンです。
・「解雇後に横領が発覚した。解雇理由証明書にはその事実を記載していないが、後から追加主張できないか相談を受けた」→ 追加主張を試みたが、証明書記載外の理由として裁判所に慎重に評価された
・「解雇理由証明書を簡略に書いてしまったため、後から詳細な事実を主張しようとしたところ、証明書の記載と矛盾すると指摘された」
いずれも、解雇理由証明書の作成時に弁護士への相談があれば防げたケースです。
4. まとめ
普通解雇時に判明していなかった事実が後から発覚した場合、その事実を解雇理由として追加主張することは、裁判例上認められやすい傾向にあります。懲戒解雇では原則として認められないのと対照的です。しかし、解雇理由証明書(労基法22条)を交付している場合、記載されていない理由の追加主張は解雇権濫用(労契法16条)と判断されるリスクが高まります。解雇理由証明書の記載内容は後の紛争対応を大きく左右するため、作成前に弁護士に相談することをお勧めします。
最終更新日 2026/04/05