労働問題928 不当労働行為における不利益取扱いとは|該当行為と裁判例の考え方
目次
1. 不利益取扱いが禁止される趣旨
労働組合法は、労働者が安心して労働組合に加入し、正当な組合活動を行える環境を確保するため、使用者が組合活動を理由として不利益な取扱いを行うことを明確に禁止しています。これが、労働組合法7条1号に定められた「不利益取扱いの禁止」です。
この規定の趣旨は、個々の労働者が被る不利益の有無だけに着目するものではありません。組合活動を行うと不利な扱いを受けるという萎縮効果が生じれば、労働組合の存立そのものが脅かされるため、広い観点から不利益取扱いを規制しています。
そのため、不利益取扱いに該当するかどうかは、単に賃金が下がったか、地位が低下したかといった経済的側面だけで判断されるものではありません。従業員一般の意識において、不利益と受け取られる処遇の変更であれば足りるとされており、その射程は広いものとなっています。
会社経営者としては、「重大な不利益ではない」「形式上は処分ではない」といった理由で軽視するのではなく、組合活動全体に与える影響という視点から判断されることを理解しておくことが重要です。
2. 「正当な組合活動」の考え方
不利益取扱いが不当労働行為に該当するかどうかを判断する前提として、対象となる組合活動が**「正当な行為」**であるかが問題となります。労働組合法は、すべての組合活動を無条件に保護するわけではなく、その正当性が問われます。
もっとも、「正当な行為」か否かの判断は、単に行為が形式的に適法かどうかだけで決まるものではありません。裁判実務では、権利義務の体系を踏まえ、健全な労使関係の在り方を基本に据えた総合判断が行われています。
そのため、仮に組合活動の一部に違法性や問題点があったとしても、それに対する使用者の対応が、組合を弱体化させる意図のもとで行われた不相当な処分と評価される場合には、不利益取扱いではなく、支配介入として不当労働行為に該当する可能性があります。
会社経営者としては、「組合の行為に問題があったから厳しく対応してもよい」と短絡的に判断するのではなく、処分の内容や程度が、組合活動への萎縮効果を生じさせないかという視点から、慎重に検討することが求められます。
3. 不利益取扱いに該当する処遇の範囲
労働組合法7条1号が禁止する不利益取扱いは、特定の処分行為に限定されるものではなく、従業員としての処遇全般に及びます。形式的に処分や制裁とされていない場合であっても、不当労働行為に該当する可能性がある点に注意が必要です。
具体的には、ポストや勤務地の変更、昇格・昇給の差別、賃金や賞与の差別、評価の引下げ、休暇や休職の取扱いの差別など、あらゆる処遇面が問題となります。不利益取扱いは、経済的側面に限られず、職務内容や勤務環境といった非経済的側面も含まれます。
重要なのは、労働組合法7条1号の趣旨が、不利益取扱いが組合活動全般を抑制する効果を持つかどうかを重視している点です。そのため、賃金の減少といった明確な不利益がなくても、従業員一般の意識において「不利な扱いを受けた」と受け取られるような処遇変更であれば、不利益取扱いに該当し得ます。
会社経営者としては、「わずかな差にすぎない」「経営判断の一環である」といった認識にとどまらず、組合員であることを理由とした差別的取扱いと評価されないかという観点から、処遇全体を点検することが重要です。
4. 賃金差別に関する裁判例の判断
不利益取扱いの典型例として、組合員であることを理由とした賃金差別が挙げられます。賃金は労働者の生活基盤に直結するため、裁判所や労働委員会においても、特に慎重な判断がなされています。
裁判例では、従来から集団的に賃金に差を設けている場合には、集団同士を比較する方法が用いられています。そのうえで、各集団に属する労働者の能力や勤務成績に、一定の同質性・均一性が認められるにもかかわらず、査定結果に差異がある場合には、不当労働行為に該当すると判断されました。
この考え方を示した代表的な裁判例が、**紅谷商事事件(最高裁昭和61年1月24日判決)**です。同判決は、賃金差別の有無を判断するにあたり、形式的な査定基準だけでなく、実質的に合理的な差といえるかを重視しています。
会社経営者としては、賃金制度や評価制度を設けている場合であっても、その運用が組合員であることと結びついていないかを常に検証する必要があります。説明できない差異が生じている場合には、不利益取扱いと評価されるリスクが高まります。
5. 残業差別に関する裁判例の判断
不利益取扱いは、賃金や評価といった明確な処遇差だけでなく、残業時間の配分においても問題となります。残業は労働基準法上、原則として抑制されるべきものですが、現実の労働実態においては、業務運営や労働者の生活設計と密接に結びついています。
裁判例では、使用者が業務の繁閑を残業時間で調整し、労働者も残業手当を前提として生活設計をしている実態があることを踏まえ、組合員であることを理由として残業時間に差を設ける行為を、不当労働行為に該当すると判断しています。
代表的なものとして、**日産自動車事件(東京高裁昭和55年12月20日判決)**があります。同事件では、組合員に対して意図的に残業をさせず、結果として賃金総額が減少する取扱いが、経済的不利益を通じて組合活動を抑制する効果を持つとして、不利益取扱いに該当するとされました。
会社経営者としては、「残業をさせないのだから有利ではないか」と形式的に捉えるのではなく、実態として不利益と評価されるかという視点が重要です。残業時間の調整であっても、組合活動との関連性が疑われる運用は、不当労働行為と判断されるリスクがあることを認識しておく必要があります。
6. 会社経営者が実務で注意すべきポイント
不利益取扱いに関する不当労働行為は、会社経営者が意図せず成立してしまうケースが少なくありません。特に、人事や処遇の判断は日常的に行われるため、組合活動との関連を疑われない対応が重要となります。
まず、組合活動を理由とする取扱いの差が生じていないかを常に点検する必要があります。賃金、評価、残業、配転などについて、制度上は中立であっても、運用の結果として組合員に不利な傾向が生じていないかを確認することが重要です。
次に、処遇差について合理的な説明ができるかという点です。能力、勤務成績、業務内容といった客観的要素に基づく説明ができない差異は、不利益取扱いと評価されるリスクが高くなります。判断過程や評価理由を記録として残しておくことは、後の紛争予防に有効です。
また、「違法な組合活動だから厳しく対応してよい」と短絡的に判断することは危険です。仮に問題のある行為があったとしても、処分が組合弱体化を意図した不相当なものであれば、不当労働行為と評価され得る点を踏まえ、慎重な対応が求められます。
不利益取扱いの有無は、個々の処遇の軽重ではなく、組合活動全体に対する萎縮効果を生じさせるかどうかという観点から判断されます。会社経営者としては、短期的な対応にとどまらず、健全で安定した労使関係を維持する視点から、人事・処遇の在り方を見直していくことが重要です。
最終更新日2026/2/8
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