労働問題912 出張中の移動時間は労働時間になるのか|休日移動と割増賃金の判断基準を整理

1.出張中の移動時間に関する基本的な考え方

 出張中の移動時間が労基法上の労働時間に該当するかどうかは、その移動時間が使用者の指揮命令下に置かれているかという観点から判断されます。出張という業務に関連しているからといって、移動時間が直ちに労働時間になるわけではありません。

 出張の際の往復に要する移動時間は、労働者が日常的に行っている通勤と同様に、労務提供の前提行為として位置付けられるのが原則です。移動中、具体的な業務指示がなく、行動の自由が保障されている限り、使用者の指揮命令下にあるとは評価されません。

 そのため、出張先に向かう移動時間や、出張業務終了後に帰宅するまでの移動時間は、通常は自由利用が保障されている時間とされ、労働時間には該当しないと整理されています。移動手段の選択や、移動中の過ごし方について、労働者の裁量が認められている点が重要です。

 会社経営者としては、「出張=すべて業務時間」という感覚的な理解ではなく、移動そのものが業務として評価できるかどうかという視点で判断する必要があります。この基本的な考え方を押さえることが、出張中の移動時間を巡る誤解やトラブルを防ぐ第一歩となります。

2.休日に出張移動をした場合の労働時間該当性

 出張先への移動が休日に行われた場合でも、その移動時間が直ちに労働時間や休日労働に該当するわけではありません。この点は、会社経営者が特に誤解しやすいポイントです。

 前述のとおり、出張に伴う往復の移動時間は、原則として通勤時間と同様の性質を有するものと考えられています。移動中に具体的な業務指示がなく、行動の自由が保障されている限り、使用者の指揮命令下に置かれているとは評価されません。

 そのため、休日を利用して出張先へ移動した場合であっても、その移動時間は通常は労働時間に該当せず、休日労働として取り扱う必要もありません。結果として、休日割増賃金の支払義務も生じないのが原則です。

 会社経営者の中には、「休日を移動に使わせているのだから休日労働ではないか」と感じる方もいますが、法的には、移動時間が業務そのものと評価できるかどうかが判断基準となります。単に出張のために移動しているだけであれば、休日であることのみを理由に労働時間と扱う必要はありません。

 もっとも、休日移動であっても、移動中に業務上の対応を継続的に求めている場合など、自由利用が実質的に制限されている事情があれば、労働時間該当性が問題となる余地があります。この点については、次項で行政解釈を踏まえて説明します。

3.行政解釈が示す出張移動時間の取扱い

 出張中の移動時間の労働時間該当性については、行政解釈も明確な考え方を示しています。会社経営者としては、裁判例だけでなく、行政の基本的なスタンスを理解しておくことが重要です。

 行政解釈では、出張中の休日については、その日に旅行している場合であっても、原則として休日労働として取り扱わなくても差し支えないとされています。これは、出張移動中の時間が、通常は使用者の指揮命令下に置かれておらず、自由利用が保障されていると考えられているためです。

 つまり、休日に出張先へ移動しているという事実だけでは、その時間が直ちに労働時間になるわけではありません。移動中に業務上の具体的な指示がなく、物品の管理や監視などの特別な義務が課されていない限り、通勤時間と同様の取扱いがされます。

 会社経営者として注意すべきなのは、行政解釈が示しているのはあくまで**「原則的な取扱い」**であるという点です。移動の実態によっては、この原則が当てはまらない場合もあります。出張移動時間が労働時間に該当するかどうかは、次項で説明する例外的なケースに該当しないかを含め、個別具体的に判断する必要があります。

4.出張移動時間が労働時間と評価される例外的なケース

 出張中の移動時間は原則として労働時間に当たりませんが、移動そのものが業務性を帯びている場合には、例外的に労働時間と評価されることがあります。会社経営者としては、この例外を正確に理解しておくことが重要です。

 典型例は、出張の目的が物品の運搬や監視である場合です。移動中に、運搬物の管理・監視を行うことが業務上の義務として課されているときは、移動時間であっても使用者の指揮命令下に置かれていると評価されます。このような場合、移動は単なる移動ではなく、業務そのものと位置付けられます。

 また、移動中に継続的な業務対応を求められている場合も注意が必要です。たとえば、移動中に常時連絡を受け、指示に即応することが求められている、特定の行動を細かく指示されているといった事情があれば、自由利用が否定され、労働時間と判断される可能性があります。

 会社経営者としては、「出張の移動だから大丈夫」と一律に判断するのではなく、移動中にどのような義務を課しているのか、業務との結びつきがどの程度強いのかを具体的に検討する必要があります。この点を誤ると、出張移動時間についても未払残業代や休日労働の問題が生じるおそれがあります。

5.物品運搬・監視を伴う出張の注意点

 出張中の移動時間が労働時間と評価されやすい典型例が、物品の運搬や監視を目的とする出張です。この場合、移動時間であっても、単なる場所移動とは異なる法的評価がなされます。

 たとえば、現金や高価な機器、重要書類などを運搬し、その管理・監視を移動中も継続的に行う義務が課されている場合、労働者は自由に行動することができません。このような状況では、移動時間全体が使用者の指揮命令下に置かれていると評価され、労働時間に該当する可能性が高くなります。

 また、「特に何もすることはないが、責任者として一緒に同行しているだけ」という場合であっても、万一の事態に備えて常時注意を払うことが業務上求められているのであれば、自由利用が保障されているとはいえません。業務性の有無は、実際の作業量ではなく、課されている責任の内容によって判断されます。

 会社経営者としては、物品運搬を伴う出張について、「移動しているだけだから労働時間ではない」と整理するのは危険です。移動中にどのような管理義務・注意義務を課しているのかを明確にし、その内容に応じて労働時間として取り扱う必要があるかを慎重に検討することが重要です。

6.出張移動時間を巡るトラブルを防ぐために会社経営者が取るべき対応

 出張中の移動時間は、「原則は労働時間ではないが、例外がある」という整理になるため、運用を誤ると認識のズレから紛争に発展しやすい分野です。会社経営者としては、原則論だけでなく、自社の出張実態を踏まえた整理が不可欠です。

 まず重要なのは、出張中の移動時間において、労働者にどのような義務を課しているのかを明確にすることです。移動中に業務連絡への即時対応を求めていないか、物品の管理や監視を業務として課していないかを確認し、業務性が認められる場合には、労働時間として扱うことを前提に制度設計を行う必要があります。

 次に、休日移動については、「休日を使っている」という感覚だけで休日労働と誤認しないことが重要です。自由利用が保障されている通常の移動であれば、休日割増賃金の支払義務は生じないという原則を、社内で共通認識として持っておくことがトラブル防止につながります。

 また、就業規則や出張規程において、出張移動時間の取扱いを曖昧にしたままにしておくと、後に労働者側から不利に解釈されるおそれがあります。移動時間が労働時間に当たる場合と当たらない場合を整理し、実態と整合する形でルール化しておくことが重要です。

 会社経営者としては、「出張だから例外」「移動だから問題ない」と一括りにせず、指揮命令下に置いているか、自由利用が保障されているかという基本原則に立ち返り、制度と運用を一致させることが、出張移動時間を巡る労働トラブルを防ぐ最も確実な対応といえます。

 

最終更新日2026/2/4

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