「就業規則に1日9時間労働と定めたい」「週5日・1日8時間以上の勤務を求めたい」といった希望を持つ経営者は少なくありません。しかし、法定労働時間の上限規制を正確に理解していないと、就業規則自体が無効になるリスクがあります。

 本記事では、所定労働時間を法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて設定できるかどうか、例外が認められるケースとその要件を、使用者側専門の弁護士が実務的観点から解説します。

01原則:所定労働時間は法定労働時間を超えられない

 労働基準法32条は、1日の労働時間を8時間、1週間の労働時間を40時間を上限として定めています。これが「法定労働時間」であり、この上限を超える所定労働時間を定めた就業規則・労使協定は、その超過部分について効力が認められません。

 つまり、就業規則に「1日9時間労働」と定めても、9時間目以降は別途36協定が必要な時間外労働となり、25%以上の割増賃金の支払義務が生じます。所定労働時間を法定時間より長く設定すること自体が法的に無意味であり、むしろ会社のコスト増につながることを認識しておく必要があります。

02例外①:労基法41条の適用除外者

 労働基準法41条に定められた「労働時間規制の適用除外者」については、法定労働時間の制限が適用されません。具体的には以下の者が該当します。

・農業・水産業等の従事者:土地の耕作・開墾・植物の栽培・採取・伐採等の農林業(林業を除く)、動物の飼育・水産動植物の採捕・養殖等の畜産・養蚕・水産業に従事する労働者。

・管理監督者:事業の種類にかかわらず、監督もしくは管理の地位にある者、または機密の事務を取り扱う者。ただし、名称だけの「管理職」ではなく、実態として経営の一翼を担い、出退勤に自由裁量がある者に限られます。

・監視・断続的労働者:監視または断続的労働に従事する者で、労働基準監督署長の許可を受けた者。

03例外②:特例措置対象事業場(常時10人未満)

 常時使用する労働者が10人未満の一定業種の事業場(特例措置対象事業場)については、1週44時間・1日8時間まで労働させることができます(1週40時間を超える4時間分については特例が認められています)。

 対象となる業種は以下の通りです。

・物品の販売、配給、保管もしくは賃貸または理容の事業
・映画の製作または映写、演劇その他興行の事業(映画の製作を除く)
・病者または虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
・旅館、料理店、飲食店、接客業または娯楽場の事業

 ただし「1日8時間」の上限は特例措置対象事業場でも変わりません。1週の合計時間のみが44時間まで緩和されます。

04変形労働時間制との違い

 変形労働時間制は、特定の日・週に法定時間を超える労働時間を設定できる制度ですが、一定期間の平均が法定労働時間の範囲内に収まることが条件です。所定労働時間を恒常的に法定時間以上に設定することとは異なります。

 繁忙期に長時間勤務が必要な業態では、変形労働時間制を適正に設計・導入することで、残業代コストを抑えながら法令を遵守することが可能です。制度の選択・設計は専門家への相談を推奨します。

05会社が就業規則を見直す際の注意点

 自社の就業規則に「1日9時間」「週45時間」といった法定労働時間を超える所定労働時間が定められている場合、その規定は無効です。現状の運用が法令に適合しているかどうかを早急に確認し、適正な内容に見直すことが必要です。

 また、適用除外者(管理監督者等)の認定を誤っている場合も、残業代の遡及請求を受けるリスクがあります。「管理職だから残業代不要」という運用が実態に即しているかどうかも含めて、弁護士による点検を受けることを推奨します。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

06よくある質問

Q1. 飲食店(従業員8人)の所定労働時間を1週44時間に設定できますか?
A. 飲食店は特例措置対象事業場に該当し、常時10人未満であれば1週44時間まで設定可能です。ただし1日8時間の上限は変わらないため、週5日の場合は週40時間が上限となります(5日×8時間=40時間)。

Q2. 管理職には残業代を支払わなくていいと聞きましたが、本当ですか?
A. 「名ばかり管理職」には残業代を支払う義務があります。労基法41条の管理監督者に該当するには、経営上の重要事項に関与し、出退勤に自由裁量があり、相応の待遇を受けていることが必要です。実態を伴わない管理職扱いは残業代請求のリスクを生みます。

Q3. 就業規則に法定時間を超える所定労働時間が定められていた場合、過去の残業代を請求されますか?
A. 規定が無効であっても、実際に法定時間を超えて労働させていた場合は、その分の割増賃金を請求される可能性があります。時効は原則3年(改正後)のため、早急に規定の見直しと支払状況の確認が必要です。

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最終更新日:2026年5月10日